今年2月23日(日本時間)、ハーレーダビッドソンがネット上で同社初となるアドベンチャーモデルのパンアメリカをご開帳して大きな話題を呼んだ。そんな注目モデルに青木タカオが濃厚試乗! 出来栄えや実力に粘っこく迫ってきた。
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■注文殺到のパンアメリカ
青木 ハーレーダビッドソン初のアドベンチャーツーリングとなる「パンアメリカ1250」が発売されたんですが、もう乗ってビックリ! 特に上級仕様となるパンアメリカ1250スペシャルは、停車する前に自動的に車高が下がり足つき性がよくなる。
――えっ、どういうこと!?
青木 量産二輪初となる新技術「ARH(アダプティブライドハイト)」のおかげで、サスペンションのストローク、つまりクッションして動く量を走行中は最大限に生かし、乗り心地やダートでの走破性を高めます。逆に速度が落ちて停車することを検知すると、自動的にサスペンションのスプリングを押し込んでシート高を下げてくれる。
――マジか! 超画期的!
青木 これまでハーレーは車高が低くて長いクルーザータイプばかりを発売し、そのロー&ロングなフォルムがファンを魅了してきました。どのモデルもシートが低いため、乗り手の体格を選ばない。だからこそ、オジサンもゆったり乗れるし、小柄な女性にも人気があるわけです。
しかし、オフロードを走破するアドベンチャーモデルは、サスペンションを伸ばし、足長にする必要がある。必然的にシート高は高くなり、ハーレーならではのセールスポイントであった抜群の足つき性が失われてしまう。そこで新採用されたのが、ARHってわけなんです。
――具体的にどれぐらいシートが下がるんですか?
青木 シート高は最大43mm下がりますね。
――なるほど。乗り味や走り味は?
青木 ハーレー初のアドベンチャーモデルですから、正直、それほど期待値は高くなかったんです。しかし、オフロードコースに持ち込むと、期待以上の出来栄えに驚きました。
パンアメリカの車体重量は245kg。決して軽くはありませんが、サスペンションがよく動くので路面追従性に優れている。新型水冷Vツインエンジンならではのトラクション性能のよさもありグイグイ進む。カウンターステアを切る攻め込んだ走りも許容し、ダートでの戦闘力もなかなかなものでした。
ただし、フロントタイヤがライダーからまったく見えないのは、多くの情報が欲しい悪路では気になりました。一部ライバル車は外装をスケルトンにするなどして対策を講じていますからね。
――まだ改良の余地があると。
青木 とはいえ、唯一無二にも程があるデザインは、実にハーレーらしい。ライバルが泥よけ機能から発展したクチバシ顔を採用するのに対し、パンアメリカは戦車のような武骨でふてぶてしいフロントマスクで勝負してきた。写真で見たときは、カッコいいと思えませんでしたが、実車を目の当たりにしたらコイツはいいなと。
そもそもハーレーは伝統的に第一印象が悪く、ジワジワ人気が出るのが通例なんです。パンアメリカもその道を突き進んでいるなと。
――舗装路での走りは?
青木 まさに快走という言葉がふさわしいです。特に高速クルージングは、「さすがハーレー!」というレベル。もう快適そのもので、フロント19インチの穏やかなハンドリングでコーナーも軽快に駆け抜けてくれます。
――販売面はどうです?
青木 ハーレーダビッドソンジャパンの野田(一夫)社長は、初のアドベンチャーモデルであるパンアメリカの新しい世界観に、「販売店やユーザーが戸惑うのでは?」と不安視していました。
ところが、今年2月に日本での販売を発表するやいなや注文が殺到し、販売店に実車を展示する前から大フィーバー状態に! 年間400台の目標販売台数を修正し、急遽(きゅうきょ)倍増させたほど。
――決してお安くないのにスゴい! 購入層はハーレーのファンなんスか?
青木 販売店いわく、ハーレーを所有するユーザーが買い足すだけではなく、これまでハーレーとは無縁だった新規層が注文しているそうです。ちなみに購入モデルは95%以上がパンアメリカ1250スペシャルとなっています。
――ズバリ、買いですか?
青木 はい! ぜひ、アルミ製ラゲッジケースに荷物を詰め込み、キャンプツーリングに出かけてほしいです。
●青木タカオ
モーターサイクルジャーナリスト。法政大学文学部地理学科卒業。著書に『図解入門 よくわかる最新バイクの基本と仕組み』(秀和システム)など。専門誌『ウィズハーレー』(内外出版社)の現編集長。YouTubeチャンネル『バイクライター青木タカオ【~取材現場から】』。