今秋発売予定の86改め、GR86をサーキット場で全開走行する小沢氏。攻め込んだ走りで新型の限界性能を引き出し、徹底チェック! 今秋発売予定の86改め、GR86をサーキット場で全開走行する小沢氏。攻め込んだ走りで新型の限界性能を引き出し、徹底チェック!

7月16日、千葉県のサーキット場「袖ケ浦フォレスト・レースウェイ」でトヨタとスバルが共同開発した新型スポーツカーのメディア試乗会が開催された。おなじみ自動車ジャーナリストの小沢コージ氏が特濃試乗をブチカマし、その実力に迫ってきた!

■骨格が同じでも走りが違うワケ

小沢 9年ぶりにフルチェンとなったトヨタのGR86とスバルBRZのプロトタイプにサーキット試乗したぜ! しかし、オザワが予想していた以上にガチというか、ヤリすぎにも程があるスポーツカーに仕上がっていたぞ!

トヨタのGR86(左)とスバルのBRZ(右)。プラットフォームは同じだが走りは別物。ちなみに見た目も似ているが、よく見ると微妙に違う トヨタのGR86(左)とスバルのBRZ(右)。プラットフォームは同じだが走りは別物。ちなみに見た目も似ているが、よく見ると微妙に違う

――どこらへんがヤリすぎ?

小沢 全部! そもそも開発陣の情熱やこだわりがハンパない。初代に続き、2代目もデザインとコンセプトはトヨタが担当し、開発と製造をスバルが担当しているんだが、トヨタのチーフデザイナーはスバルの開発拠点である群馬県に半年ほど住み込んだと。

別に打ち合わせなんかオンラインでもいいわけよ。けど、わざわざレオパレスを借りて群馬に常駐したと。トヨタのチーフデザイナーいわく、「群馬に住んだからこそ、よりいいものができました」と。

――なるほど。ちなみにプラットフォームは初代と同じなんですよね?

小沢 そう。初代からの流用だから走りはそれほど変わらんと思っていたんだ。ところが、しっかりお金をかけて、隅々まで造り直されていた。開発を担当したスバルのエンジニアいわく、「2017年に2代目の開発が決まると、アイデアがどんどん出てきた」と。

それでプラットフォームの造りを見直した。しかも、最新のSGP(スバルグローバルプラットフォーム)譲りのフルインナーフレーム構造を採用し、ねじり剛性は先代から50%もアップ! 

――スゲェー!

小沢 さらに衝突安全とスタイルを進化させるため、全長は25㎜伸び、全幅は変わらないが全高は10㎜下げられた。このように徹底的に手を入れられたにもかかわらず、車重は初代とほぼ変わらない1.2t台。その理由は大衆スポーツカーなのにルーフとボンネットとフロントフェンダーをアルミ化したからなんだ。

トヨタ「2代目GR86」GR86の正式な発売は今秋を予定している。価格などの詳細は現時点で未発表。週プレは300万円台前半の価格スタートを予想 トヨタ「2代目GR86」GR86の正式な発売は今秋を予定している。価格などの詳細は現時点で未発表。週プレは300万円台前半の価格スタートを予想

誰が見てもグラマラスで美しいプロポーションに大変身した2代目。大人が乗っても恥ずかしくない上質感がうれしい 誰が見てもグラマラスで美しいプロポーションに大変身した2代目。大人が乗っても恥ずかしくない上質感がうれしい

――高級スポーツカー顔負けの造り込みだと?

小沢 そう! さらにハンドリングに影響するボディ重心も4㎜ダウンさせたことで、セクシーかつプレミアムな見た目に大変身! ノーズが伸び、同時にピラーがより内側に倒れてキャビンが絞られたことが影響している。ライトもシンプルなティアドロップ形状になったし、ドア下のサイドには深い彫りが入っており、コチラも超カッコいい。より本格的なFRフォルムになったと思う。

――2代目はトヨタとスバルがフルスイングで仕上げてきたマシンであると?

小沢 うん。内装はステアリング、シフトノブ、ハンドブレーキ以外は全パーツが新作。アナログメーターが7インチのデジタルパネルに進化し、上質なバックスキン調の素材まで使用されており高級化している。

オマケに走りにも効いているのが左右で2.6㎏軽量化したフロントシート。コイツが着座位置を5㎜下げ、低重心化に貢献している。そのほかにもエンジン音を人工的に出す「アクティブサウンドコントロール」がついているし、ATモデル限定だが、先進安全の「アイサイト」を標準装備よ!

水平基調のインパネ。メーターは7インチの液晶タイプだ。前席のシートは先代モデルよりも5㎜下げられている。座るだけでギンギンに 水平基調のインパネ。メーターは7インチの液晶タイプだ。前席のシートは先代モデルよりも5㎜下げられている。座るだけでギンギンに


――肝心の走りは?

小沢 トヨタ版のGR86は、完全無欠の上質スーパードリフトマシンになった。運転が得意でない人でも自然にコーナリング中にリアタイヤをスムーズに滑らせることが可能。その理由としては、ボディ剛性のアップと低重心化が効いている。あとエンジンの排気量アップもポイントだ。

――初代のエンジンは2Lでしたね?

小沢 そう! スバルがFR車専用に造り直した2Lノンターボの水平対向4気筒エンジンを搭載していた。コイツは吹け上がりと吸気音の評判がすこぶる高かった。しかし、今回のフルチェンで初代をベースに排気量をアップして2.4L化。ピークパワーは28PS、ピークトルクが38Nm増した。その結果、とにかく全域でパワフルになった。

先代は2Lだったが、新型は2.4Lの水平対向4気筒エンジンに刷新。最高出力は235PS、最大トルクは250Nmとなる 先代は2Lだったが、新型は2.4Lの水平対向4気筒エンジンに刷新。最高出力は235PS、最大トルクは250Nmとなる

注目のマフラーは左右2本出しとなっている。ちなみにトランスミッションは6速ATと6速MTが用意されている 注目のマフラーは左右2本出しとなっている。ちなみにトランスミッションは6速ATと6速MTが用意されている

――GR86とBRZの走りの味つけは一緒?

小沢 いや、GR86とBRZは骨格は同じでも味つけはかなり異なっている。トヨタは「スポーツ性能に特化した気持ちの良い走り」を、スバルは「誰でも安心して楽しめるクルマ」を目指したと話していたが、つけ加えると発売1年前に起きた"ちゃぶ台ひっくり返し事変"が味つけの違いを加速させた。

――どういうこと?

小沢 2代目のコストを抑えるため、トヨタとスバルの開発チームはサスペンションダンパーとEPS(電動パワーステアリング)だけを別にする予定で調整していた。ところが、昨年、2代目86に試乗したトヨタの豊田章男社長から、「このままの86ではGRブランドから売れない」という言葉が出た。章男社長は発売前の新型車を最終チェックするトヨタのマスタードライバーでもあるから、走りに対する目は厳しい。

――往年の『プロジェクトX』みたいな展開スね!

小沢 そこで開発チームは急遽(きゅうきょ)、ダンパーとEPSに加え、サスペンションスプリング、タイヤを取りつけるナックル、前後のスタビライザーの素材までトヨタとスバルで使い分けることに決めた。ちなみにナックルの素材はGR86が初代とほぼ同じ鋳鉄材を使い、BRZは軽量のアルミを使っている。

――つまり、GR86とBRZは骨格は同じだけど、走りに影響を与える部品が全然違うって話ですか?

小沢 そのとおり! この変更がマジで効いている。乗り味や走り味が違うんだ。どちらも走りは上質でコントローラブルだが、サスペンションの前後バランスが違うからGR86のほうがノーズの入りが早く、スムーズにリアが滑りドリフト走行に持ち込める。一方、BRZは常に4輪が路面にベタッと張りつくような走りを披露する。

トヨタ「初代86」2012年4月に発売、一世を風靡した初代86もサーキット試乗。改良に改良を重ねたモデルだけあり、完熟の域に達していた トヨタ「初代86」2012年4月に発売、一世を風靡した初代86もサーキット試乗。改良に改良を重ねたモデルだけあり、完熟の域に達していた
スバル「2代目BRZ」7月29日に発売された。走りやエンジンの味つけはスバルが掲げる「安心と愉しさ」がしっかり反映されている。価格は308円~343万2000円 スバル「2代目BRZ」7月29日に発売された。走りやエンジンの味つけはスバルが掲げる「安心と愉しさ」がしっかり反映されている。価格は308円~343万2000円
86のご先祖様はコチラ! 試乗会場に展示されていたAE86(スプリンタートレノ)。1983年に発売となった伝説のモデルで、86シリーズのご先祖だ 86のご先祖様はコチラ! 試乗会場に展示されていたAE86(スプリンタートレノ)。1983年に発売となった伝説のモデルで、86シリーズのご先祖だ

■GR86とBRZは電動化するのか?

小沢 ただなぁ......。

――なんスか?

小沢 決して2代目GR86とBRZに冷や水を浴びせるつもりはないが、7月にメルセデス・ベンツが2030年全車電動化を宣言し、続いてEU(欧州連合)も35年までにハイブリッド販売禁止とか言いだした。

実際、どこまで実現できるかはおいといて、電動化へと突き進む世界情勢を踏まえると、「よくトヨタとスバルは新型スポーツカーを出せたな」と。だって走って楽しいだけの純・ガソリン車のスポーツカーだからね。時代の流れにあらがっているのは確か。

だから、各チーフエンジニアに「いつまでGR86とBRZを造り続けるのか?」という質問をブツけてみたんだが、トヨタもスバルも明確な答えは示さなかった。たぶん、これから本当の戦いが始まるのかもしれん。

――本当の戦い?

小沢 ざっくりだが、昨年までの世界累計を言うと、86が20万台超でBRZが9万台超。合計で約30万台になる。絶滅危惧種に指定されているスポーツカーとしては大成功の数字ではあるが......。

――何か含みがありますね。

小沢 約8年で30万台という数字はプリウスやカローラと比較すると10分の1以下の数字でしかなく、商売的には微妙よ。利益の少ないクルマが自動車メーカーの中で肩身が狭いのは当然で、この先も造り続けるためには、会社を説得する材料が必要になってくる。ましてや外に目を向ければ欧米や中国はEVシフトをフル加速させているわけだしね。

――今後、GR86やBRZが電動化に対応することは?

小沢 スバルの開発陣はBRZの電動化も考えているようだが、仮にバッテリーを搭載すると、1.6~2tになるから2代目GR86&BRZのような軽量・軽快なスポーツカーは造れない。

価格だって電池の値段が高いから500万円は軽く突破すると思うし。要するに安くて楽しい軽量のスポーツカーはEVでは造れないんだよ。逆に超高級EVスポーツカーは出ると思うが。

――EVシフトが進むと、庶民はスポーツカーに乗れなくなる?

小沢 世界的な話をすると、現在もスポーツカーというのは基本的に数千万円クラスなの。フェラーリ、マクラーレン、ランボルギーニ、ポルシェ......どれもお金持ちしか買えない。だからトータル300万円台でスポーツカーが手に入る日本は超恵まれている。

――なぜトヨタとスバルは安価でスポーツカーを造れる?

小沢 根っからのクルマ好きである豊田章男社長の存在がデカい。それとトヨタとスバルが2005年から結んでいる資本提携だよね。今回、直撃した開発陣は口をそろえ、「トヨタだけでは造れなかった」「スバルだけでは成立しないプロジェクトだった」と語っていたから。要するにトヨタとスバルがタッグを組み、大衆スポーツカーの灯を必死に守っているわけ。

――ズバリ、2代目GR86とBRZは買いスか?

小沢 2代目はガチで推せる。特に初代86&BRZに物足りなさを感じている人には激推しだね。2代目はパワーに満足できるし、見た目も大人っぽく上質になった。マジな話をすると、ドイツ製のスポーツカーから乗り換えても問題ないレベルよ。

あと、これまでミニバンやファミリーカーに乗ってきて、「もっと違うクルマに乗りたい」という中高年にも推したい。クルマの楽しさや面白さを存分に味わえるからだ!

●小沢コージ(Koji OZAWA)
自動車ジャーナリスト。青山学院大学理工学部卒業後、本田技研工業に就職。半年で退社。二玄社『NAVI』編集部を経て独立。TBSラジオ『週刊自動車批評 小沢コージのCARグルメ』(毎週木曜17時50分~)。『ベストカー』『日刊ゲンダイ』など連載多数。著書に共著『最高の顧客が集まるブランド戦略』(幻冬舎)など。日本&世界カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeチャンネル『KozziTV』