日本の自動車メーカーは出展を見送ったが、9月にドイツで開催された世界有数の自動車展示会「IAAモビリティ2021」が話題になっている。欧州の自動車メーカーがこぞって新型EVをブチ込んだからだ。
現地に飛んだ自動車ジャーナリストの竹花寿実(たけはな・としみ)氏が解説する!
■会場内は医療用マスク着用が必須
――今回、ドイツのモーターショーを取材してきたそうですが、フランクフルトモーターショーですか?
竹花 今まではそうだったんですが、主催団体が「時代の変化に沿った新しいカタチのモーターショーのあり方」を公募し、コンペを行なった結果、今回からミュンヘンで開催されることになったんですよ。東京モーターショーの会場が大阪に変更されるくらいのインパクトがあります。
――つまり、もうフランクフルトモーターショーはやらない?
竹花 終了です。そしてショーの名称も、「IAAモビリティ(以下、IAA)」となり、いわゆる従来型のモーターショーとの違いをアピールしています。実際、出展企業は自動車メーカーのほかに、大手サプライヤー、巨大IT企業、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)系スタートアップ、カーシェアリング会社、電動キックボードなどのマイクロモビリティメーカー、さらに自転車メーカーまで、多岐にわたっていました。
――じ、自転車メーカー?
竹花 そうなんです。約100社もの自転車メーカーが参加していたんです。自転車は近年性能が向上し、特にEバイク(電動アシスト自転車)が大人気。電動キックスケーターと共にシェアリングモビリティを支える存在として、ヨーロッパで注目を集めているんです。
――なるほど。ところで、ドイツは新型コロナの影響で長くロックダウンしていましたよね?
竹花 そうなんです。ミュンヘンがあるバイエルン州は5月中旬までレストランが休業、ホテルも5月末に営業を再開した感じですね。8月も変異株により感染状況が若干悪化していましたが、IAAで長いトンネルの出口が見えてきたのかなと。
――IAA会場の感染症対策はどうなっていました?
竹花 感染対策はかなり厳しかったです。会場の入り口には来場者のワクチン接種状況、または回復証明をチェックするカウンターがズラリと並んでいて事前にプレス登録をしていても、そこでチェックと登録を済ませないと入れません。もちろん会場内は医療用のFFP2マスク着用が必須となっていました。
■ベンツの至宝GクラスがEV化
――誌面の都合もあるので、そろそろIAAの会場で見つけた注目のクルマを7台教えてください。ちなみにEUは2035年にガソリン車などの実質的な販売禁止を打ち出しています。当然、IAAはEV祭りだったのでは?
竹花 今回思ったのは、EVや電動化モデルはもはや当たり前なんだなと。そういう意味で注目度1位は、メルセデス・ベンツ・コンセプトEQGです! このモデルは2024年に発売される見込みです。
――ついにGクラスもEV化ですか!
竹花 Gクラスは、SクラスやSLと共にメルセデス・ベンツのアイコンですから、EV化はドイツでも衝撃が走っていました。でも、Gクラスの伝統を継承したモデルに仕上がっていましたよ。
――Gクラスのファンは安心していい?
竹花 各ホイールの近くに4基の電気モーターを搭載して、ローレンジモードも備えています。前後とセンターのデフロックもシミュレート可能です。バッテリーはラダーフレームの隙間に詰め込んでいるので、低重心で重量配分も良好なはずです。実際にはオフローダーとしてかなりの性能向上を果たしているのかなと。
――試乗が楽しみ!
竹花 続く第2位はポルシェ・ミッションR。カスタマー向けフル電動レースカーのコンセプトで、未来のカップカー(ワンメイクレース用車両)モデルです。前後に2基の電気モーターを搭載した4WDで、最高出力はレースモードで680PSですが、予選モードでは1088PSに達します。ちなみに時速100キロ到達はたったの2.5秒。怪物カー「ブガッティ・シロン」と同等の速さです。
――モーレツ! 次は第3位を!
竹花 BMWの次世代EV、iXです。4月にオンラインで発表されていますが、今回が一般への初お披露目となりました。日本でもすでに受注がスタートしており、今秋にデリバリー開始となる予定です。
斬新なデザインのSUVで、最新のドライバー支援システムや5Gのコネクティビティシステムを搭載し、航続距離は最大630㎞を実現。BMW「i」の新しいフラッグシップです!
――第4位をお願いします。
竹花 メルセデス・ベンツEQEです。電動アーキテクチャ「EVA2」を採用したEVのビジネスサルーンで、EQSをキュッと小さくした感じのクルマです。航続距離は660㎞を実現しています。そして第5位も同じくメルセデスAMGのEQS53です。EVにもAMGモデルの登場です!
――EVにもAMGモデルって......エコなんスか?
竹花 生産時のCO2排出量が大きいEVを、大量の電気を使ってハイパワーで走らせるのは、環境に優しいのか私も少々疑問が残りますが、再生可能エネルギーの比率が十分に高くなればアリなのかなと思います。
――そして第6位を。
竹花 メルセデスAMG GT63 S Eパフォーマンスです。ついにPHEV(プラグインハイブリッド)のAMGモデルが登場しました。AMG GT 4ドアクーペにF1テクノロジーを盛り込んで、843PSと1470Nm(!)という量産モデル過去最高の性能を実現しています。時速100キロ到達は2.9秒です!
――第7位は?
竹花 BMW iビジョン・サーキュラーです。このコンパクトカーは、循環型経済の未来を見据えて、リサイクル素材使用率およびリサイクル率100%を目標に開発されています。未来のプレミアムカーのあり方を模索した意欲作といえます。
――車体はかなり小さそう。
竹花 全長は4mですが、一応、4人乗りです。リサイクル素材でも上質感をしっかり確保しているのは、デザイナーの斬新なアイデアのたまものかと。
――次点は?
竹花 2台あります。まず、ルノー・メガーヌEテックエレクトリック。来年にはヨーロッパで発売予定です。バッテリーサイズは40kWhと60kWhの2種類用意され、60kWhのほうは最大で470㎞走れます。
――クロスオーバー的なスタイルでカッコいいですね!
竹花 ICE(内燃エンジン)車も並行して販売すると予想しますが、ルノーが基幹モデルであるメガーヌを、このタイミングでEVにするのは驚きました。
――次点ふたつ目は?
竹花 フォルクスワーゲンのID.ファミリーの最新コンセプトカーです。全長4.1mのコンパクトEVなんですが、ダッシュボードに格納されている大きなスクリーンで、映像コンテンツやゲームが楽しめます。要は"動くリビングルーム"的なライフスタイルに応えると。
――若者にウケるのかな?
竹花 2025年に約2万ユーロ(約260万円)で発売する計画だそうです。確かにスゴいクルマだとは思いますが、個人的にはあまり面白みを感じませんでした。
――それはなぜ?
竹花 同様のコンセプトのクルマは、日本のメーカーが過去に多く提案しています。それでも若者のクルマ離れは改善されていない。少しポイントがズレているのかなと。
■6日間で40万人来場!
――ちなみに今回のIAAですが、フランクフルトモーターショーとの違いはあった?
竹花 ミュンヘン郊外のメッセのほかに、ミュンヘン市中心部にも点在していました。
――ということは、移動がけっこう大変だったのでは?
竹花 メッセと市の中心部の会場は、一般道を規制し、各自動車メーカーが用意した最新エコカーを試乗しながら移動できる「ブルーレーン」でつながれていました。私も普段乗る機会がないヒュンダイやポールスター、BMWの水素燃料電池車で移動してみようと思ったのですが、受付に着いたときにはどれも予約されており乗れませんでした。
――それは残念!
竹花 正直、「モビリティショー」をうたうなら、スマホアプリか専用サイトで予約できるようにするとか、もう少し工夫が欲しかった。まぁ、今回は初のミュンヘン開催ですし、コロナの影響で準備不足もあったと思うので次回に期待したいですね。
――街中にはどんな展示車があったんスか?
竹花 アウディやポルシェ、ダチアなどは市中心部に展示ブースを構えていましたね。ポールスターとメルセデス・ベンツは、メッセと街中の両方に出展していました。特にメルセデス・ベンツはどちらの展示ブースも規模が大きく、力の入れ方がハンパなかったです。
――BMWのお膝元でメルセデス・ベンツが存在感を示していたというのは、なかなか興味深いですね。
竹花 もちろん、BMWも頑張っていましたよ。私はスケジュール的に足を運べなかったのですが、BMW本社の隣にある自社のイベント施設「BMWヴェルト」も、IAAモビリティの会場として展示を行なっていましたし、夜には「4シリンダー」と呼ばれる本社ビルでプロジェクションマッピングによるショーを実施し、ミュンヘンを訪れた人たちを楽しませていました。
――なるほど。
竹花 私もたまたまその時間帯に通りかかったのですが、警備に当たっていた警察官たちも、久しぶりのお祭りを喜んでいるように見えました。
――では、IAAの総括をおなしゃす!
竹花 コロナによって自由を奪われていた人たちが、いかにリアルイベントに飢えていたのかを実感しましたね。日本メーカーやステランティス、GM(ゼネラルモーターズ)は不参加で、自動車メーカーはほぼドイツ系でしたが、6日間の来場者数は40万人でした。
――スゲェー!
竹花 だからこそ、今回IAAに参加しなかったメーカーは、メッセージを発信する絶好の機会を失ったと思います。オンラインやバーチャルで伝わる情報量は限定的です。私はフィジカルイベントにはまだまだ存在意義があると思いました!
●竹花寿実(たけはな・としみ)
自動車ジャーナリスト。自動車雑誌の編集者などを経て2010年に渡独。ドイツ語を駆使し、現地で自動車ジャーナリストとして活躍。活動拠点を日本に移してドイツの自動車メーカーの最新動向などを発信中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員