現在、欧州の超高額車にプラグインハイブリッドの波が押し寄せ、続々と日本デビューを飾っている。欧州車を精力的に取材する自動車ジャーナリストの竹花寿実(たけはな・としみ)氏がこの現象について特濃解説する。
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■1億円超のPHEVが来年デビュー!
――そういえば先日、PHEVを搭載したフェラーリが日本で発表されて話題になりました。ぶっちゃけ、どんなモデルなんスか?
竹花 296GTBは、2019年のSF90ストラダーレから数えてフェラーリ3車種目となるPHEVです。新開発の2992ccV6ターボエンジンに電気モーターを組み合わせたハイブリッド・パワートレインをリアミッドシップとしたベルリネッタ(クーペ)。
――ほお! V6!
竹花 フェラーリとしてはディーノ246以来、48年ぶりとなるV6ベルリネッタです。最高出力は830PSもあるので速さは文句ナシ。加えて最大25kmのEV走行も可能です。
――スゲー! この手の超高級スーパーカーも、いわゆる電動化が進んでいるんスか?
竹花 スーパーカーを含む超高級車の世界では、ここへきて急激に電動化が進み始めましたね。つい先日も、新型ベントレー ベンテイガのPHEVが日本上陸を果たし、お披露目されました。
――ベンテイガはベントレー自慢のフルサイズSUVですね?
竹花 はい。PHEVモデルは、3リットルV6ツインターボと電気モーターを組み合わせ、最高出力449PSのハイブリッドシステムを搭載。電気だけで50km走行できて、航続距離は863kmを実現しています。
車重は2648kgという超ヘビー級なのですが、時速100キロ到達は5.5秒、最高速度は254キロというバケモノです。
――セレブ車にPHEVの波が押し寄せているワケは?
竹花 電動化はCO2排出量削減のみならず、高性能化の手段としても有効なんです。
――ふむふむ。何かほかにも理由がありそうですね?
竹花 実はベントレー本社が既存のオーナーを対象に行なった調査では、44%がベントレーの電動モデルに興味を持っているそうです。つまり、電動化は彼らのビジネスをサステナブルにするために必要なものだともいえます。
あと、セレブ車は富裕層が顧客なので、価格がどんなに高くなっても問題ありません。豪邸に住んでいて別荘を何軒も持っているような人なら、充電環境も気にする必要がない。むしろ充電が必要なクルマを所有できることは、富裕層の間でステイタスシンボルのひとつになっていますし。
――なるほど。
竹花 それが証拠にマクラーレンもアルトゥーラというPHEVを今年4月に日本で発表しました。こちらも3リットルV6ツインターボと電気モーター搭載で680PSと720Nmを発揮。車重が1498kgと軽いため、時速100キロ到達は3秒という速さを実現しています。
――さらにハンパないヤツも登場予定らしいスね?
竹花 真打ちは2023年にデビュー予定のアストンマーティンのヴァルハラでしょうね。先日、都内でプロトタイプが公開されましたが、お値段は1億円超(!)。
ルックスもほとんどレーシングカーのそれです。ミッドシップの4リットルV8ツインターボに前後2基の電気モーターを組み合わせて、950PSの最高出力を発揮し、時速100キロ到達はたったの2.5秒! 最高速度は330キロです!
――おー、猛烈!
竹花 いずれセレブ車はピュアEVに進むはず。あのロールス・ロイスも2023年中にピュアEVを発売するとアナウンスしましたしね。
――PHEVの未来は?
竹花 PHEVは、将来的にICE(内燃エンジン)と電気モーターの両方の魅力が味わえる、かなり貴重な存在になるかもしれません。
●竹花寿実(たけはな・としみ)
自動車ジャーナリスト。自動車雑誌の編集者などを経て2010年に渡独。ドイツ語を駆使し、現地で自動車ジャーナリストとして活躍。活動拠点を日本に移してドイツの自動車メーカーの最新動向などを発信中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。