取材は千葉県のサーキット場で行なった。限界走行をカマした後、60分以上も粘着取材した小沢氏(左)。五島氏(右)は最後まで笑みを絶やさずに神対応してくれた 取材は千葉県のサーキット場で行なった。限界走行をカマした後、60分以上も粘着取材した小沢氏(左)。五島氏(右)は最後まで笑みを絶やさずに神対応してくれた

11月25日、スバルの新型WRXが国内デビューした! 気になるエンジンはこれまでの2リットルターボから2.4リットルターボに変更。そこで、自動車ジャーナリストの小沢コージ氏がサーキット場で限界走行をブチカマして徹底チェック。開発トップの五島 賢(ごしま・さとし)氏にも特攻インタビューした!!

■WRXは北米で"映えるクルマ"

スバル「WRX S4」 発売:2021年11月25日 価格:400万4000~477万4000円 リセール:A フルモデルチェンジにより、WRXならではの高出力がもたらす加速性能と、スバル自慢のAWDによる走行安定性が格段にアップデートされた スバル「WRX S4」 発売:2021年11月25日 価格:400万4000~477万4000円 リセール:A フルモデルチェンジにより、WRXならではの高出力がもたらす加速性能と、スバル自慢のAWDによる走行安定性が格段にアップデートされた

――ついに出ましたね、スバルマニア待望の新型スポーツセダン・WRXが! ちなみにWRXという単独車名になってからは2代目、インプレッサWRXと呼ばれていた時代から数えると5代目のモデルです。新型の進化のキモはどこになりますか?

五島 開発キーワードは"WRXらしさ"。今回得た新しい武器を使ってどうやって造り込むかがポイントでした。

ボディ骨格は新型レヴォーグ譲りのSGP(スバルグローバルプラットフォーム)×フルインナーフレーム構造で剛性は大幅アップしました。エンジンもレヴォーグ用の直噴1.8リットルターボではなく、アメリカで使われていた2.4リットルターボの改良版。最高出力は275PS、トルクは375Nmです。

――確かに1.8リットルよりパワフルですが、300PSを誇った旧型の2リットルターボより出力が落ちています。これはどう解釈すればよろしいですか?

五島 燃費性能との兼ね合いがあります。ただ、新作CVT(無段変速機)のスバルパフォーマンストランスミッションで出力が落ちた分をカバーしています。サーキットで乗ってみていかがでした?

――ハンドリングは確かに素晴らしかった。本当に切ったとおりに曲がるし、切り遅れが全然ない。手応えもスバルらしくガッチリとしています。加速感は先代の300馬力のほうが高回転の伸びはありましたが、出足は新型のほうが上です。アクセルコントロールもしやすい。クルマの操りやすさも向上していますね。

五島 そこがパフォーマンストランスミッションの効果なんです。クルマを改良していくとスポーツ性が失われ、上質さだけが残ることがありますが、WRXはそれではダメだなと。

CVTで特に変えたのは変速制御で、たいていはショックを嫌いアクセルの応答性を落としたりしますが、WRXはあえて音とかショックを気にせず、ダイレクト感や変速の速さを追求しました。

2.4リットルボクサーターボは、全域でターボラグを感じさせない瞬発力を発揮。日常からサーキットまで意のままの加減速を味わえる 2.4リットルボクサーターボは、全域でターボラグを感じさせない瞬発力を発揮。日常からサーキットまで意のままの加減速を味わえる

――デザインはレヴォーグより横幅が3cm伸びているのが効いており、踏ん張り感がものすごい。見た目も明らかに旧型より吹っ切れています。

五島 スタイルはスバルの象徴でもある2017年の東京モーターショーに出展したヴィジヴパフォーマンスコンセプトに近い。同時に実用性はホイールベースが伸びた分、リヤシートはヒザ回りで25mm拡大。片やトランクの容積はほぼ変わらず、開口部は真四角だったのを斜めの台形に。そこはスタイルに振っています。

実は従来型はルーフとリヤウインドウ、トランクリッドをインプレッサと共有していましたが、今回からWRX専用に。レヴォーグとの共有パーツも外観はボンネットとフロントウインドウ、それとヘッドランプだけです。

運転席で目を引くのは11.6インチのセンターインフォメーションディスプレイとインフォテインメントシステム。コイツは一部グレードで標準装備となる 運転席で目を引くのは11.6インチのセンターインフォメーションディスプレイとインフォテインメントシステム。コイツは一部グレードで標準装備となる

試乗車にはメーカー装着オプションとなる専用のフロントレカロシートが! STIのロゴ入りで快適な座り心地を実現している 試乗車にはメーカー装着オプションとなる専用のフロントレカロシートが! STIのロゴ入りで快適な座り心地を実現している

――WRXとしてより先鋭化させたと。ひとつ確認ですが、スバルブランドの価値はどこに向かっているんですか? かつてインプレッサWRXはWRC(世界ラリー選手権)に出場してファンを熱狂させました。現在、スバルの世界的な顔は北米だとSUVのレガシィアウトバックやフォレスターです。日本ではワゴンのレヴォーグだと思います。

五島 スバルが提供する価値は「安心と愉(たの)しさ」。その愉しさの軸となるのが、WRXなんです。実は北米だとWRXの購入層は20~30代がメイン。しかもMT車比率が8~9割なんです。

――マジですか!

五島 WRXにはコアなお客さまがかなりいる。どうもYouTubeで昔のWRCの動画を見て感化されたみたいです。SNSでつながるファンイベントがありますが、WRXをバックにインスタに写真を上げる女のコが北米にはたくさんいる。今やWRXは"映(ば)えるクルマ"なんです。

――WRXが映えるクルマ!

五島 WRXは一部ファンの間でカッコよさのシンボルになっているんですよ。

マフラーは左右4本出し。フロントフェンダー、リヤバンパーの後部にはダクトを配することで、乱流などの発生を抑制している マフラーは左右4本出し。フロントフェンダー、リヤバンパーの後部にはダクトを配することで、乱流などの発生を抑制している

――どういうこと?

五島 実は親子がスバルでつながっているんです。父親世代のスバルファンは日本同様に安心を求めてアウトバックやフォレスターをお乗りになっている。一方、若い世代は愉しさを求める。例えば若い娘さんが速いクルマが欲しくて、父親に相談した結果、速くて安全なWRXを選ぶような現象が起きている。

――つまり、若い人でも買いやすい実用4ドアスポーツがWRXであると?

五島 ええ。かなりありえないブランドに成長しています。実際、米国の乗用車市場で一番売れているMT車はスバルですからね。

――もしやWRXを使って、"スバル全体"のイメージを再構築しているのでは?

五島 さすがにそこまでは考えていませんよ。

――本当ですか?

五島 だって私はスバルの中で、映画『スター・ウォーズ』のダース・ベイダーみたいな存在ですよ。ルーク・スカイウォーカーではないんです。あくまでスバルのメインは正統派のレガシィやフォレスターであり、WRXはスバルのダークサイドです。

●五島 賢(ごしま・さとし) 
WRXの開発責任者である五島賢氏は、昨年「日本カー・オブ・ザ・イヤー」を戴冠したスバル・レヴォーグの開発責任者でもある。スバルが誇る二刀流だ!

●小沢コージ 
自動車ジャーナリスト。TBSラジオ『週刊自動車批評 小沢コージのCARグルメ』(毎週木曜17時50分~)。YouTubeチャンネル『KozziTV』

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