トヨタとスバルが共同開発した量産EVを初公開! つうわけで、自動車ジャーナリストの小沢コージ氏が現地に飛んで実物を徹底チェック! 開発者にも特攻をカマし、ウワサの超小型EVにもナマ試乗してきたぞ!
■bZ4Xの後席はレクサスLS級!
待ちに待ったぜ! ついにトヨタが世界に本気で打って出る初の量産EV、bZ4X(ビーズイーフオーエックス)の詳細を先月の29日、ニッポン初公開した。グローバルでは今年4月の上海ショーで発表済みだが、ディテール公開は初めて!
このbZ4X最大のキモはトヨタ初のEV専用プラットフォームの採用だ。さらに言うと、bZ4Xはトヨタとスバルの共同開発である。
発売は2022年の中頃の予定で、販売目標は非公表だが、オザワの耳には「グローバルで年販10万台」というウワサが届いている。テスラやVW(フォルクスワーゲン)・ID.シリーズにどこまでトヨタ初の量産EVは対抗できるのか見ものだ。
さっそくbZ4Xの現物をチェック! サイズとデザイン的インパクトからお伝えしたい。ボディサイズはトヨタRAV4より少し大きいが、長さはテスラのモデル3と同程度。世界で最も売れるサイズのSUVだ。
デザイン的にはRAV4的なワイルドフォルムで力強さを演出しつつ、左右のマッチョな樹脂フェンダーやハンマーヘッドデザインのLEDライトで先進感をプラス。驚きはないが世界で確実にウケるカタチだ。一方、パッケージはどうか?
「われわれのアドバンテージは徹底的な低重心です。他社はリアシート下にバッテリーを2階建てで積んだりしていますが、トヨタはすべてホイールベースの間にきっちり平積みしました。結果、他社に負けないEVらしい走りを実現できました」(bZ4Xの開発エンジニア・井上心氏)
室内に滑り込んで驚くのは、車内スペースの異様な広さだ。RAV4と同クラスのSUVでありながら、リアシートの広さはレクサスの最高級セダンLS級! ラゲッジスペースは左右壁が大きくえぐられ、ゴルフバッグなら4、5個は積めそうだ。
「モーター、トランスアクスル、インバーターを完全一体化し、『eアクスル』として小型化しました。さらに充電機能と電力分配機能を統合したものをトヨタ初のESU(エレクトリックサプライユニット)としてフロントノーズに収めています」(bZ4Xの電動パワトレ開発統括部・竹内直希氏)
このあたりのパッケージング技術はトヨタがハイブリッド車で培ったノウハウ。このスペース効率はbZ4Xのアドバンテージに違いない!
だが、この日はbZ4Xの開発責任者が現場におらず、オザワは不完全燃焼のまま取材終了。午後から行なわれるbZ4Xの姉妹車、スバル・ソルテラの発表会場に肩を落としながら向かった(泣)。しかし! 幸運にもソルテラの開発責任者である小野大輔氏を直撃できた!
■ソルテラ開発陣を奮起させた社長の言葉
――今回はトヨタとスバルの共同開発ですが、開発拠点は愛知県のトヨタでした。私はスバルがトヨタのお仕事を手伝っているようなイメージを抱きました。いかがですか?
小野 それは違います。基本的に開発に関わる者はトヨタとスバル半々で、完全にワンチームでした。
――そんな美しい話が本当にあるんですか?
小野 それは組織のトップであるトヨタの豊島浩二さんのキャラクターが大きい。とても懐が広い方だったので。それともうひとつは弊社社長の中村(知美社長兼CEO)から、「キミたちはこれからトヨタの中に入って仕事をする。だが、キミたちはあくまでスバルの人間だ。
そこを勘違いしてはいけない。スバルの主張はしっかりして、レベルを上げて帰ってきてくれ」と活を入れられ、奮起した部分はありますね。
――なるほど。では、トヨタとスバルの考えが一番違うところ、クルマづくりのせめぎ合いはどこにありました?
小野 トッププライオリティをどこに置くかでした。例えば「EVは"航続距離"命でしょ」というトヨタがいて、「いやいや"走り"でしょ」というスバルがいる。そういう考え方の違いはありました。
――具体的にbZ4Xとソルテラのキャラはどう違う?
小野 足回りが違います。ソルテラはホイールの色、左右フェンダーは素材むき出しですが、bZ4Xは塗装している。どちらかというと都会的なbZ4Xに対し、ソルテラはオフローダーです。
――先進安全はトヨタとスバルのどちらを入れた?
小野 トヨタセーフティセンスです。スバルとしてはアイサイトにしたかったんですが、クルマの電子プラットフォームをスバル方式とつなぎ合わせるのが難しく断念しました。
――bZ4Xもソルテラも、電子プラットフォームはトヨタ式ということですか?
小野 そうです。
――電気システムはトヨタ、足回りをスバルが担当したって話ですか?
小野 違います。トヨタ単独の技術は電池単体だけです。すべての領域をトヨタとスバルが共同開発しました。
――わかりました。最後に一番聞きたいのは日本のEVが本当に海外のEVに勝てるのかどうか。この部分です。特に気になるのがテスラです。現状の電費を比較すると、bZ4Xとソルテラは電池71.4で航続距離(WLTC)500㎞前後です。1あたり約7㎞の計算になる。テスラモデル3のスタンダードは54で448㎞と1当たり8㎞を超える。燃費世界一のトヨタ系が電費で負ける?
小野 そこはまだプロトタイプの数字ですから。認可を取るまではわかりませんよ。
――テスラは時速100キロ到達が3秒前後で、ビッグモニターまでブチ込んだ。それに比べるとトヨタとスバルは最速7秒台でビッグモニターもない。そこはどうお考えで?
小野 現在、EVは普及期に移行している段階です。もはやEVは特別なモノではない。日常的に使えて生活を豊かにするモノをご提案したい。
■トヨタEVは安心安全を考える
もうひとつ今回の取材でオザワが気になったのは、トヨタが放った日本独自の個性派オンリーワンEVである。具体的には2021年12月にトヨタが法人や自治体向けに限定発売、2021年12月23日には一般発売も開始した、ふたり乗り超小型モビリティのシーポッドと、今年10月に発表発売した、立ち乗り3輪EVのシーウォークティーだ。どっちもマンガみたいな超ユニークEVである。
シーポッドは軽自動車とマイクロカーの間に生まれ落ちた新しい四輪カテゴリー。乗員は2名、最高速は時速60キロと割り切ることで、全長2.5m弱、全幅1.3m弱、車重670~690㎏という衝撃のダイエット車に! スペックは軽の3分の2以下だ。その結果、シーポッドは巨大EVの約10分の1となる約9の電池で150㎞も走る。ムダを極限まで省いた究極の超効率EVだ。
ただし、問題は簡素にも程がある造り。ドアから内装までチャチイ。それなのにほぼすべてが専用設計だから価格は170万円前後。補助金をブチ込めば130万円台で買えるが、フツーの人なら迷わず軽を買う! そこが最大の問題だ。実際、公道を走ったが高級感はなく剛性感も低い。もちろん速くもない。現状、売れ行きも数百台レベルと聞く。
シーウォークティーも超そぎ落とし系EVだ。一見、最近はやりの電動キックボードの一種かと思いきや違う。時速2~6キロの高齢者用セニアカーに近いスペックで、実はキックボードより遅く、現時点では公道を走れない。
広大な施設内での移動や警備の現場で働くシニアの走行負担の軽減を考えているそうだが、耐久性や安全性を高めた結果、お値段は35万円前後!
正直、オザワがこの値段を払うならスクーターと電動アシスト自転車をダブルで買う。シーウォークティー開発トップの谷中壮弘(やなか・あきひろ)氏はこう話す。
「これからの乗り物です。どういった用途で、どういうルールでお使いいただくか。そこが大切になってくる」
つくづくトヨタはクソマジメ。bZ4Xも超小型EVもテスラ的インパクトではなく、ユーザーの安心安全をトコトン考える。実力はもちろんあるが、EV市場で勝つ最大のキモは価格だ。本当の勝負はココからだってば!