ド硬派な二輪車メーカーとして知られる、"漢"カワサキ(カワサキモータースジャパン)に女性新社長が誕生して大きな話題を呼んでいる。そこで、モーターサイクルジャーナリストの青木タカオ氏が兵庫県にある本社に飛んで直撃した!
■"ニンジャH2"の仕掛け人!
2021年10月1日、あの"漢(おとこ)"カワサキに女性新社長が誕生した! 桐野英子(きりの・えいこ)カワサキモータースジャパン社長のことだ。カワサキモータースジャパンはカワサキモータース製のバイク、ジェットスキーなどの販売を行なう会社だ。川崎重工グループのひとつであり、カワサキモータースの完全子会社でもある。
要するに漢カワサキと呼ばれる二輪車メーカーの正体は、日本三大重工業メーカーの一角を担う川崎重工業(ほかに三菱重工業、IHI)の一部門なのである。ちなみに川崎重工業の2020年度の売上高は1兆4884億円に達する!
そんな巨大企業・川崎重工業が主に手がけているのは、造船に航空宇宙、ジェットエンジン、精密機器などだ。つまり、川崎重工業の中で唯一、個人消費者と向き合うのがバイク部門である。
だが、個人消費者のニーズというのは目まぐるしく変化するのが常だ。巨大企業ではその個人消費者のニーズに対して素早く対応できない。個人消費者を相手にするビジネスは"スピード感"がキモになるからだ。
そこで、川崎重工業はモーターサイクル&エンジンカンパニーの分社化構想を一昨年11月に発表。そして昨年10月、川崎重工業のモーターサイクル&エンジンカンパニーは新生「カワサキモータース」となり船出した。その完全子会社「カワサキモータースジャパン」の新社長に就任したのが桐野英子氏である。
桐野氏は二輪業界では有名人だ。それは川崎重工業でのキャリアが関係する。1991年4月に川崎重工業に入社した桐野氏はすぐに頭角を現す。
2001年にカワサキのフランス支社長、2011年から商品企画を担当。スーパーチャージドエンジンを搭載し、世界中のバイクファンの度肝を抜いた「ニンジャH2」を世に送り出した仕掛け人でもある。
さらに2019年には26年ぶりとなる鈴鹿8耐優勝の陣頭指揮を執った。また、開発陣とツーリングに出かける筋金入りのライダーでもある。
そして現在、桐野氏はカワサキモータースジャパンの社長だが、親会社であるカワサキモータースのマーケティング部長の顔も持つ、二刀流なのだ。
11月中旬、桐野社長の就任会見が本社のある兵庫県明石市で行なわれた。会見後、桐野社長にナマ直撃する幸運に恵まれたワケだが、現地に足を踏み入れて全身の血が沸騰した。
来年発売予定のZ650RSの実車がそこにあったからだ! 何せコイツは世界中が注目する新型モデルである。まさにビッグサプライズ!
てなわけで、感極まったアオキは桐野社長がまたがるZ650RSのリアシートに飛び乗り直撃を開始した!
■橋を造りたくて、川崎重工に就職
――社長就任おめでとうございます! スーパーチャージャー搭載のニンジャH2を世に送り出すなど数々の仕事の功績が認められた結果だと思います!
桐野 ありがとうございます。
――まずは川崎重工業に入社された理由から教えていただけますか。
桐野 私は橋を造ってみたくて1991年に新卒で川崎重工に就職しました。ところが、大学生の頃からバイクに乗っていた関係もあり配属先は二輪部門でした。以来、バイクひと筋ですね。
――最初に乗ったバイクはなんですか?
桐野 4発の400㏄を買いに行ったんですが、バイク屋さんに薦められたのが、カワサキのGPX250でした。限定解除して次に乗ったのがカワサキのZ750GPで、就職が決まると東京から川崎重工がある兵庫県明石市までZ750GPで向かったのがイイ思い出ですね。ちなみに現在の愛車はニンジャ650です。
――2021年上半期はバイクが売れに売れました。実に13年ぶりに10万台(14万台)を突破!「今年こそはバイクに乗ってみようかなぁ」と考える読者もいると思います。筋金入りのバイク乗りである桐野社長にぜひバイクの魅力についてお話しいただきたく。
桐野 乗っているだけで楽しい乗り物ですが、ツーリング先で温泉に入ったりする体験もまた素晴らしい。何よりも自由な気分になれます。歩きや自転車だと近くまでしか行けない。確かにクルマなら遠くまで行けますが、外の景色や空気はあまり味わえない。その点、バイクは自然にも直接触れられ、とにかく気持ちがイイんです!
――ところで、桐野社長は2001年から8年間、フランスの現地法人で代表を務めていました。フランスでのカワサキのイメージは?
桐野 24時間耐久レースがラジオで実況されるほどオートバイの人気があり、田舎のおばあちゃんもお孫さんと一緒に聴いて応援するほど熱狂的。カワサキは強い二輪メーカーとして認知されています。それと、ツール・ド・フランスの先導車としても広く知られていますね。
――そんな世界のカワサキには昔からのイメージがあります。いわゆる"漢"カワサキです。このイメージについてどのようにお考えですか?
桐野 とてもありがたく思っています。今後はそのイメージをしっかり維持しつつ、もう少し気軽に乗れるようにハードルを下げたモデルも出していきたい。シート高の低さや車体の軽さ、扱いやすさが大事になると考えています。
――カワサキは251㏄以上では国内3年連続トップシェアと絶好調です。カワサキプラザ販売網開始前の2016年度と比較すると、401㏄以上の大型車の販売は80%増! 20代以下のお客さんは17年度比で60%も増えている。ライフスタイルを提案する販売店は今後も拡充する方向ですか?
桐野 現在、80店のカワサキプラザをサービス協力店と合わせて120店に増やし、全国のお客さまをしっかりフォローしていきます。
――脱炭素への取り組みについても質問します。カワサキは昨年10月上旬に脱炭素社会を見据え、2025年までに電動、あるいはハイブリッドモデルを10種以上発売し、2035年までに先進国へ投入するバイクのほとんどを電動かハイブリッドにすることを目指すと発表しました。今後、カワサキは電動化を推し進めるという認識でよろしいですか?
桐野 正確にはすべてを電動化するのではなく、必要な地域において求められるモデルを電動化、あるいはハイブリッドにします。付け加えると必ずしも電気だけでなく、水素エンジンなども含め、あらゆる選択肢を検討しながらカーボンニュートラルに向けて弊社は取り組んでいきます。
――ちなみに21年度4100億円(予想)の売上高を、2030年には1兆円(!)に伸ばすとも発表しました。この数字の根拠は?
桐野 オートバイ人口は世界的に増えており、それに伴う増収を見込んでいます。他方、オフロード四輪車がそれを上回る成長を遂げておりまして、今後日本でも販売を開始する予定です。災害救助のほか、クローズドコースで楽しめる新たなホビーとして国内でも広めようと考えています。
――話をバイクに戻しますが、桐野社長はモータースポーツ課も束ねており、スーパーバイク世界選手権で6連覇の偉業を達成し、レースへの情熱もビシバシ伝わってきます。国内でもニンジャZX-25Rのワンメイクレースを今年から始めました。
桐野 私自身がワンメイクレースに出たかったんですが、ZX-25Rはおかげさまで売れておりまして、自分用のZX-25Rがなかなか手に入らない。サーキットライセンスは取得済みなので来年こそはレースに出たいなと。
――ワンメイクレースをこれからどう展開させます?
桐野 私が安心して走れるように初心者クラスをつくり、ビギナー講習も考えています。
――バイクの裾野をどんどん広げるお考えなんですね。ちなみに2022年は日本自動車殿堂歴史遺産車に選定された、カワサキが世界に誇る名車「Z1」の生誕50周年の節目を迎えます。
桐野 記念Tシャツなどアパレルを世界中で売り出すことを計画していますが、カワサキプラザでのみ購入可能な国内限定品も用意する考えです。
――そして来年は話題沸騰のZ650RSが登場を控えています。発売前なので詳しいことは言えないと思いますが、ズバリ、自信のほどは?
桐野 Z650RSはZ誕生50周年にふさわしいモデルに仕上がっていますよ。
●カワサキモータースジャパン 代表取締役社長・桐野英子氏
東京外国語大学外国語学部卒業。1991年に川崎重工業に新卒で入社し、フランス支社の代表、CP営業部、商品企画部などを経て2021年10月より現職
●青木タカオ
モーターサイクルジャーナリスト。『ウィズハーレー』(内外出版社)編集長。YouTubeチャンネル『バイクライター青木タカオ【~取材現場から】』