1月14日、三菱自動車は千葉県の幕張メッセで開かれた「東京オートサロン」で、春以降に市場に投入する軽EVの試作車を初公開した。どんなクルマに仕上がってきたのか? 自動車専門誌の元編集長で、カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説する。
■三菱の軽EVは現実路線で登場!
――今年の「東京オートサロン」で、三菱が軽自動車サイズのEVを初公開しました。渡辺さん、このEVをどう見ました?
渡辺 今回、三菱が発表したのは軽自動車規格の新型EV「K‐EVコンセプトXスタイル」。フロントマスクなどデザインのベースは、同社が発売している軽ハイトワゴンのeKクロスです。非常に現実的な路線で登場したなと。
――東京オートサロンの会場で三菱の加藤隆雄社長も「ウチのEVは特別な形をしているわけではない。これはある意味、意図を持ってやっていて、EVというのは特別なクルマではない。もうこれからは特別なクルマではなくなるというメッセージを込めてフツーのガソリン車と同じような形にした」と話していましたね。
渡辺 要するに三菱の軽EVは、現実路線に舵を切ったということです。この軽EVはアライアンスを組む日産と共同開発なので、同じような見た目のクルマだと食い合ってしまう。そこで差別化を図ったんでしょう。日産はもう少しEVらしい未来感のあるクルマを出してくると思います。
――なるほど。
渡辺 三菱はEVという特徴よりも、同社の共通化されたコンセプトや個性を表現しています。プラットフォームなどはEV専用ですが、外観はあえてガソリンエンジン車と同じテイストに落とし込んでいますよね。
――スペックはどんな感じ?
渡辺 航続可能距離は170㎞前後で、価格は国などの補助金を差し引くと、実質的には200万円前後になる見込みです。今年の春以降に市場へ投入する予定だというアナウンスがありました。
――ズバリ、三菱の軽EVは売れますかね?
渡辺 カギを握るのは価格だと思います。
――三菱の加藤社長は国の補助金と地方自治体の補助金を使うと、「お求めやすい価格になる可能性もある」と話していました。
渡辺 ポイントは購入価格が200万円を下回るかどうかです。軽の売れ筋は200万以下ですから。
――販売価格が重要であると。
渡辺 三菱は2009年に軽EV「i-MiEV(アイミーブ)」を約300万円で発売しました。かなりの意欲作でしたが、価格がネックとなり販売は低迷し、昨年3月に生産を終えています。さすがに同じ轍は踏まないと思いますけどねぇ。
――軽自動車市場の絶対王者は累計200万台以上を誇るホンダのN‐BOXです。
渡辺 なかなか厳しい戦いが待っていると思いますよ。
――三菱の軽EVは、「補助金を差し引いて200万円以下になる」なんて予想もありますが?
渡辺 その金額で実際に買えるのはベーシックグレードで、装備の充実した売れ筋グレードは220~240万円という価格になる可能性もあります。正直、それだと数を多く売るのは難しくなるのかなと。
――仮に手頃な価格で登場し、販売が伸びたら?
渡辺 現在、日本の新車市場は軽自動車が4割弱を占めています。三菱の軽EVの販売が伸びれば国内のEV普及に弾みはつくと思いますね。
渡辺陽一郎 Yoichiro WATANABE
カーライフジャーナリスト。1989年に自動車購入ガイド誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長に。1997年に同社取締役を兼任。その後、フリーランスに。著書に『運転事故の定石』(講談社)など