今年1月の新車販売総合ランキングで、ホンダの軽自動車「N‐BOX(エヌボックス)」が2カ月ぶりに首位に返り咲いた。しかし、ホンダは素直に喜べないという。どんな事情が? 自動車専門誌の元編集長で、カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏が特濃解説する。
■もはや薄利多売地獄
――今年1月の新車登録台数が発表されました。
渡辺 昨年12月にマイナーチェンジを受けたホンダのN‐BOXが1万9215台を記録し、2ヵ月ぶりに新車販売総合ランキングの首位を奪還しました。ちなみに2位はトヨタのヤリス、3位もトヨタでカローラでした。
ーー今年1月はヤリスと繰り広げている新車販売バトルをN‐BOXが制したと。しかし、2021年度の新車販売総合ランキングはN‐BOXの5連覇をトヨタのヤリスが阻止しました。昨年、累計200万台を突破し、"シン・国民車"と呼ばれるN‐BOXの人気が実は乱高下しているのでは?
渡辺 いいえ、違います。5連覇を逃したのはパーツの供給が全般的に滞ったからです。半導体だけでなく、部品や各種ユニットが幅広く滞ったのが痛かった。その影響で昨年9月の新車の販売台数は前年比63%減、続く10月は前年比46%減でした。
――そして納車待ちのユーザーが増えたと?
渡辺 そうです。ただ、徐々にパーツ不足は解消され、今年1月の新車販売は前年比17%増となっています。
――昨年末のマイナーチェンジが前年比17%増に結びついている?
渡辺 もちろん、それもありますが、現状では昨年9月、10月の減産による納車待ちを消化している段階ですね。
――なるほど。
渡辺 少し話がズレますが、気になる数字があります。
――ほお、なんスか?
渡辺 今年1月のホンダの国内新車販売に限った話ですが、N-BOXの占める割合がついに40%に到達しました。
――スゴ! マジか!
渡辺 ちなみにN-BOXの数字にN-WGNなども加えると、実にホンダが国内で売るクルマの57%が軽自動車になります。さらにコンパクトカーのフィット、フリード、ヴェゼルを加えると84%まで数字が伸びる。つまり、現在のホンダの国内の新車販売は軽とコンパクトカーが支えている状況なんですね。
――そういうホンダの戦略なんスか?
渡辺 私はこれまで多くのホンダ関係者を取材してきましたが、「売れるのは嬉しい。しかし、N-BOXしか売れないというのはねぇ......」と口を揃えています。
――ん? どういうこと?
渡辺 軽自動車はクルマを売って得られる粗利が少ないんです。要は薄利多売なんです。
――先ほどの渡辺さんの話だと、ホンダの国内の新車販売はN-BOXが40%を占めてんスよね?
渡辺 ええ。ですから、もはや薄利多売地獄ですよ!
――嫌な地獄ですね。
渡辺 しかも、N-BOXはフィットの顧客まで食ってしまうため、販売店からは「N-BOXは外来種だよ......」なんてボヤキ節も。まぁ、軽はいくら売れても儲かる商品ではありませんし、車検や点検などの単価も軽は安いですからね。新車販売で総合1位に輝いてもホンダは全然喜べませんよ。
――打開策は?
渡辺 ホンダのグローバル市場を睨んだクルマづくりも理解できますが、私はもっと国内市場にしっかり向き合う必要があると思いますね。そうしないと、この薄利多売地獄からは抜け出せません。
渡辺陽一郎(Yoichiro WATANABE)
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務める。その後、フリーランスに。著書に『運転事故の定石』(講談社)など