昨年の新車販売台数で、トヨタのヤリスがホンダのN-BOXを破りトップに輝いた。なぜヤリスはこれほど売れたのか? 元自動車専門誌編集長で、自動車研究家の山本シンヤ氏が解説する。
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■ヴィッツとは別物になったヤリス
山本 日本自動車販売協会連合会と全国軽自動車協会連合会の発表があり、トヨタのヤリス(ヤリス、ヤリスクロス、GRヤリスの合算)が2021年の新車販売総合ランキングでホンダの軽N-BOXの5連覇を阻止しました。
――絶対王者が王座転落!
山本 登録車(乗用車・小型車)がトップに立ったのは2016年のプリウス以来です。
――N-BOXが5連覇を逃した背景には何が?
山本 新型コロナの影響による半導体不足に伴う減産が響きました。ちなみに現行モデルは2017年の発売です。昨年12月には改良を行ない、電動パーキングブレーキを標準装備にするなど商品力に磨きをかけています。
総合ランキングでは2位ですが、軽自動車ランキングに限れば7年連続のトップ。人気に陰りが見えたわけではありません。
――なるほど。今回トップに立ったヤリスの勝因は?
山本 ヤリスは2020年2月に登場したコンパクトハッチバックです。躍進の背景には、20年8月にデビューし、売れに売れているコンパクトSUV・ヤリスクロスの存在が挙げられます。
――でも、トップに立った理由はそれだけではない気が。確かヤリスの前身はヴィッツでしたよね?
山本 そのとおり。20年のフルモデルチェンジ時にヴィッツからグローバルモデル名のヤリスに改名しました。従来モデルとなるヴィッツと比較すると、デザインやパッケージングはもちろんのこと、クルマのキモとなるパワートレーンやプラットフォームなどのメカニズムを一新し、完全に別物になりました。
――具体的に言うと?
山本 走る・曲がる・止まるというクルマの基本性能は比べるのがかわいそうになるほど違います。
――なぜそれほどの差が?
山本 トヨタが掲げる「もっといいクルマづくり」をより手頃な価格で実現したのが大きい。トヨタはクルマづくりの構造改革「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」に基づいた開発を進めていますが、TNGA投入当初のモデルは「基本性能は確かにいいけれど、お値段もそれ相応だよね」という感想でした。
しかし、ヤリスは世界戦略車なので価格がキモになる。そこでトヨタはヴィッツより基本性能を高めた上で原価を下げました。
――では、実際に乗ると?
山本 僕はヤリスに何度も試乗していますが、ステアリングは滑らかで自然。ドライバーの意思や操作に忠実に反応します。つけ加えると、クルマの動きも軽量ボディを生かし、実にキビキビとしたものです。
直進安定性の高さも注目で、コンパクトカーとは思えない仕上がりです。ちなみに欧州仕様のヤリスの全幅は1745mmですが、日本仕様は交通事情に合わせ、1695mmに変更しています。
――つまり、走って楽しく、取り回しも楽だと?
山本 後席や荷室はガチライバルのホンダ・フィットと比較すると、確かに狭いですが、高性能を誰でも気負いなく味わえるのが、ヤリスの魅力かなと。
さらに言うと、ヤリスの実燃費はガソリン車で20km/リットル、ハイブリッド車だと30km/リットルを軽く超えます。ガソリン高騰時代に魅力的な選択肢になっていると思います。
●山本シンヤ
自動車研究家。YouTubeチャンネル『自動車研究家 山本シンヤの「現地現物」』