日産と三菱自動車とルノーの3社連合が会見を開き、2030年までにEV35車種を投入すると発表した。このEV大攻勢の背景には何が? 会見を取材したカーライフジャーナリストの渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう)氏に聞く。
* * *
■日産連合がEV攻勢を強めるワケ
――昨年末からEV(電気自動車)に大きな動きが出ています。その先陣がトヨタでしたね?
渡辺 はい。昨年12月14日、トヨタが4兆円をかけてEVの世界販売台数を、2030年までに年間350万台に引き上げると発表しました。今後、フルラインナップで30車種を市場に投入する予定です。
また、トヨタの高級ブランドであるレクサスは欧米や中国で販売する新車をEVに切り替え、35年には全世界で販売するレクサスをすべてEVにすると宣言しました。
――EVといえば絶対王者であるアメリカのテスラの勢いもハンパないとか?
渡辺 テスラの昨年のグローバルの販売台数は前年比87%増の約93万6000台です。しかも新型コロナに伴う半導体不足をものともせず、純利益は前期比7.7倍となる55億1900万ドル(約6300億円)を叩き出しました。この数字は過去最高です。
――そして"シンEV元年"と呼ばれる今年、早くも日産連合がスゴい発表をブチかましたそうですね?
渡辺 1月27日に日産、三菱自、フランスのルノーの3社連合が会見を行ない、EVなどの開発に今後5年間で約3兆円を投資すると発表しました。さらに2030年までに新型EV35車種を市場に投入します。日産連合では共通の車台を採用し、車載電池も共同調達するそうです。
――車台や電池を共通化する狙いはコストの削減ですか?
渡辺 EV普及の課題のひとつが価格です。ガソリン車やHEV(ハイブリッド)と比較すると、EVは価格面の競争力で劣ります。ですから、現在日産が自社開発し、28年度までに量産化する予定の「全固体電池」も3社で共同活用します。
――そんな日産連合の会見でコンパクトEVが発表されました。このクルマの正体は?
渡辺 日産のエントリーカーとして人気の高いマイクラ(日本名はマーチ)の時期型に相当するモデルです。正式な車名や発売時期の詳細などは現時点で不明ですが、欧州市場に投入することは発表されています。
――日本導入は?
渡辺 マイクラは日産が誇る戦略車です。海外はもちろんのこと、導入すれば日本でも重要な存在になるでしょう。商品力が大いに問われるクルマだと思いますね。
――ちなみにマーチはまだ日本で売ってんスか?
渡辺 2010年から4代目が販売されています。海外では17年に5代目へ移行していますが、日本には未導入です。まぁ、仮にマイクラ後継が日本で販売されると、日産が描くEVのピースはとりあえず埋まると思いますね。
――どういうこと?
渡辺 ラージサイズのアリア、ミドルサイズのリーフ、コンパクトサイズのマイクラ後継、そして軽EV。これだけあれば、ある程度のニーズにEVで応えられますよね。
――今回、日産連合は鬼のようなEVラッシュを発表しました。その背景には何が?
渡辺 昨年末に行なわれたトヨタのEV会見に刺激を受けた部分はもちろんあると思いますが、そもそも日産と三菱は2010年に世界初の量産EVを市販し、先行していた自動車メーカーです。
今回の発表は欧米や中国のEV市場を意識したものだと思いますが、一方で独走するテスラをこのまま指をくわえて見ているとも思えませんよね。
――EVのパイオニアたる日産連合の大逆襲が始まると?
渡辺 そのとおりです。そして日本にマイクラに相当するコンパクトEVを投入するのか? それとも海外だけで、日本は今までと同様に無視するのか? 今後のEV対応で日産の国内市場に対する本気度も見えてくるでしょうね。
●渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう)
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務める。その後、フリーランスに。著書に『運転事故の定石』(講談社)など