左が今年1月、アメリカのラスベガスで開催された家電見本市「CES2022」で公開されたVISION‐S02。右のセダンタイプが2年前に登場して話題を集めたVISION‐S01

今春、ソニーグループが新会社を設立し、EV市場参入を本格的に検討するという。現在、100年に一度の地殻変動が起きている自動車業界でソニーのEVは売れるのか? そして、どんなクルマに仕上がるのか? 自動車ジャーナリストの小沢コージ氏に解説してもらった。

■ソニーのEVを支える自動車製造業者

――年明け早々に、ソニーが「EVの市販化を本格的に検討する」と発表しました。

小沢 1月5日にアメリカのラスベガスで開催された世界最大規模の家電見本市「CES2022」で、SUVタイプのEV試作車「VISION-S02」を電撃的に披露したね。

――どんなEVなんスか?

小沢 ソニーはすでに2年前の「CES2020」で、セダンタイプのEV試作モデル「VISION-S」を発表してて、コイツはオザワも助手席試乗したが、今回披露したVISION-S02のベースになっている。基本的には同じEV/クラウドプラットフォームを採用しており、大きな違いは室内空間が広くなり7人乗りになったこと。

――VISION-S02の注目ポイントは?

小沢 高感度のイメージセンサーやLiDARライダーなどを360度張り巡らすことにより、周辺環境をリアルタイムに把握でき、AIや5Gの通信システムも備えている。ソニーは自動運転レベル2+に相当する機能の実証実験を欧州で実施しているそうだ。

――ソニーのEVは自動運転も見据えていると?

小沢 そのとおり。つけ加えると、ソニーの財産たる音楽、映画、ゲームなどのソフトをフル活用し、クルマの移動をエンターテインメント空間に落とし込もうと考えている。

――見た目はどうです?

小沢 あまりにフツーすぎて、インパクトがあるデザインとは言い難いよね。

今回、アメリカで公開された試作EV「VISION‐S02」。7人乗りのSUVタイプである。見た目はけっこうフツー

インテリアはソニーが誇る音楽、映画、ゲームなどのソフトを楽しめるようになっている。まさに「走るエンタメ空間」だ

――今回のCES2022で、ソニーグループの吉田憲一郎CEOはEV事業を担う新会社「ソニーモビリティ株式会社」を設立し、自社でEVを展開すると発表しました。

小沢 実は2年前のCESのあと、VISION-Sのプロジェクトを率いる川西泉常務(同社AIロボティクスビジネス担当、AIロボティクスビジネスグループ部門長)を直撃したら、「EVメーカーになるつもりはない」と言明していたんだよね。ところが今回は一転して「市場投入を検討する」と発表したから本当に驚いた。

――ソニーはEVの開発を進めるなかで、ビジネスとして成立すると判断し、本腰を入れたってことですか?

小沢 吉田CEOはEVの市販化に関して「サブスク(定額制)を検討している」と話しているからねぇ。

――なんか歯切れ悪いスね?

小沢 いや、そういうワケじゃないんだが、たぶんソニーのEVは市販したら値が張るものになって、庶民は手が出ないと思うんだよ。

――どういうこと?

小沢 VISION-S01もそうだが、実車を造ったのはオーストリアにある「マグナ・シュタイヤー」。ココはメルセデス・ベンツのGクラス、BMWのX3などを少量生産している自動車製造業者だ。仮にソニーがEVを市販化しても1000万円レベルの価格になるはずなので、サブスク発言が出たのかなと。

ただ、マグナ・シュタイヤーにパーツを供給しているのはドイツの超大手サプライヤー「ボッシュ」など一流どころだから、クルマ造りのレベルは十分に高い。

――VISION-S02のベースであるVISION-S01に助手席とはいえ試乗したときの率直な感想は? 完璧なクルマでした?

小沢 あくまでVISION-S01の感想だが、試作車だけにドアの立てつけ音や、道路の段差や凹凸をダイレクトに拾い、車内は常にカタカタと音が鳴っていた。もちろん、量産時にはしっかり改善してくるだろうけどね。

――逆に目を見張った点は?

小沢 VISION-S01はソニーがエンタメで磨いてきた技術が光っていたよ。特にインパネ全面のほぼ映画館のような3連ディスプレイは圧巻だったし、コンサート会場にいるかのような臨場感が味わえる360度リアリティオーディオはド迫力。

まさにソニーが車内空間をエンターテインメント化したらこうなるよなと。その好例を見せつけられた感じだった。さすがはウォークマン、プレイステーション、アイボで世界を席巻した会社だなと。

――今回のソニーEVに対し、オザワさんの周囲の反応は?

小沢 モータージャーナリストの鈴木直也氏はシビアで、「株価対策では?」と言い放ち、続けて「マグナに車両開発を丸投げだと、車内エンターテインメントはともかくとして、車両で独自色は出せない」と指摘していた。

――ふむふむ。

小沢 カーITジャーナリストの会田肇(はじめ)氏も、「ソニーファンとしては応援したいが、冷静に考えると自動車ビジネスは車両だけでなく、サービスやメンテナンスで万全の体制を整えなければならない。既存の自動車メーカーと限定的に提携を結ぶ可能性はあるが、完全自前供給をやるとリスクがデカいのでは?」と疑問を口にしていたね。

――仮にソニーがEVを市販したとして、昨年93万台超を売ったテスラのように世界で爆売れする可能性はある?

小沢 それは無理でしょう。テスラは自前の生産工場でプラットフォームや専用半導体、ソフトウエアまで造っている。中国製の電池を使い、実現した低価格路線は誰もが簡単にマネできるモンではない。実際、テスラ以外の新興EVメーカーで成功しているところは中国メーカー以外は見当たらないのが実情だしね。

――なるほど。

小沢 まぁ、ソニーのEVが今後どう進むかは見ものだし、オザワは追い続けるぜ!

●小沢コージ(Koji OZAWA)
自動車ジャーナリスト。TBSラジオ『週刊自動車批評 小沢コージのCARグルメ』(毎週木曜17時50分~)。YouTubeチャンネル『KozziTV』