「テスラ モデル3」モデル3はダントツ人気で、昨年14万2905台を欧州で販売。間もなくベルリン工場も本格稼働する見込みだ

欧州のEV市場が活発だ。このまま一気に突き進むのか? 死角は一切ないのだろうか? 欧州の自動車業界に精通したモータージャーナリストの竹花寿実(たけはな・としみ)氏が濃厚解説する。

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■EVでも存在感を示すフォルクスワーゲン

――1月27日、日産と三菱自動車とルノーの3社連合が今後5年間でEV(電気自動車)に3兆円を投資すると発表しました。また、2030年までに新型EV35車種を発売する計画も明らかにしています。この発表をどう見ました?

竹花 驚きはありません。すでにルノーは30年までに欧州で販売するすべてのクルマをEVにする計画を1月13日に発表しているからです。

その背景にはEUが昨年7月、HEV(ハイブリッド)やPHEV(プラグインハイブリッド)を含めたガソリン車やディーゼル車の新車販売を35年に事実上、禁止する方針を掲げたことが挙げられます。日産連合の方針はさらなる対応策かなと。

――そのほかの欧州の自動車メーカーは?

竹花 英国のジャガーが25年、スウェーデンのボルボが30年にそれぞれ完全EVメーカーにシフトするとしていますし、ドイツのメルセデス・ベンツも「市場の状況が許す限り、全車種EVとする準備はできている」と発表しています。

――なるほど。日本は年間1万5000台ほどEVが売れていますが欧州は?

竹花 欧州自動車工業会(ACEA)が2月2日に昨年の欧州主要国のEVの販売台数を発表しました。それによると、前年比63.1%増の約88万台でした。欧州のEVのシェアは9.1%で、1割に迫るところまできています。過去5年間でいうと、EVは13倍近く伸びているんですよ。

――マジか! ガソリン車やディーゼル車など従来車の昨年の売れ行きは?

竹花 ガソリン車は17.8%減、ディーゼル車は31.5%減ですね。

――EV大躍進の背景は?

竹花 各国が増額したEVに対する手厚い購入補助金などの優遇策が下支えしています。もちろん、自動車メーカー各社から魅力的なEVが続々と発売されているのもEVの販売が伸びている理由かと。

それと1月1日からスペインのマドリードで2000年以前に登録されたガソリン車および2006年以前に登録されたディーゼル車が、市の中心部への乗り入れが禁止になりました。欧州の都市部では2017年頃から同様の走行規制が導入されています。これもEV需要の増加の要因かと。

――欧州で売れてるEVは?

竹花 欧州18ヵ国のモデル別EV販売で昨年トップに輝いたのはテスラのモデル3で、続く2位がルノーのゾエ。3位がフォルクスワーゲンのID.3ですね。

ルノー ゾエ 2019年に改良を受けたゾエは、昨年、ヨーロッパ市場で7万2562台を販売し、テスラ・モデル3に次ぐ人気を誇る

――テスラの絶対王者ぶりは欧州でも健在だと。ちなみにゾエってどんなクルマ?

竹花 昨年、フランスで最も売れたEVがゾエです。そもそもゾエは先代クリオ(日本名ルーテシア)をベースにしたEVです。デビューは13年春と設計は古いですね。

フォルクスワーゲン ID.3 ヨーロッパでは2019年末に発売されたフォルクスワーゲンの次世代EV第1弾。日本にも年内に上陸する可能性大だ

――フォルクスワーゲンのID.3はどれぐらい売れた?

竹花 昨年1年間で6万9567台が欧州で売れました。台数的にはテスラ・モデル3の半分弱ですね。ただ、フォルクスワーゲンはID.4を約5万5000台、e-up!も約4万1000台売っており欧州でのEV総販売台数でトップです。

フォルクスワーゲン ID.4 後輪駆動と4WDが用意される電動コンパクトSUV。欧州、米国、中国の5工場で生産される世界戦略モデルだ

フォルクスワーゲン e-up! 2013年に登場したフォルクスワーゲン初の量産EVは、手ごろな価格で人気再燃。だが昨年に生産終了となった

――ほかに注目のEVは?

竹花 ポールスター2や現代(ヒヨンデ)自動車のアイオニック5は注目です。ポールスターはボルボ傘下の電動化モデル専門メーカーで、2020年半ばからミッドサイズEVのポールスター2の販売を開始したのですが、昨年は約2万1000台を販売し、急激に台数を伸ばしています。

アイオニック5は、そのハイテク感あふれるデザインと先進性、パフォーマンスが評価され、昨年のジャーマン・カー・オブ・ザ・イヤーを獲得しました。それから現代自動車のコナEVや起亜(キア)自動車のニーロEVは昨年、欧州で4万台以上を販売し、EVのベスト10に入っています。韓国メーカーは今や完全に欧州のEV市場でメインプレイヤーになっていますね。

――EVで新しい動きも出てきているとか?

竹花 はい。先ほどお話しした都市部の走行規制もあって、シティコミューターとして超小型EVが注目を集めています。ふたり乗りのシトロエン・アミは昨年半ばにデリバリーがスタートしたのですが、すでに1万4000台以上が売れています。

兄弟モデルのオペル・ロックスRocks-eや、スイスの新興メーカーであるマイクロ・モビリティ・システムズのマイクロリーノも注目を集めていますね。

――欧州のEVシフトはガチなんスか?

竹花 2035年にエンジン搭載車の販売を完全に禁止できるかどうかはわかりませんが、EUの方針がそうである以上、従わなければ欧州で自動車ビジネスはできない。なので、各メーカーは今のうちからEVを続々と市場に投入し、ユーザーの囲い込みに必死になっている。

ただ、次世代パワートレインがEVに決定したわけではありません。水素や合成燃料などの可能性は消えていません。技術の進化次第では、大どんでん返しもあるかと。

――つまり欧州のEVシフトに問題点や死角がないわけではない?

竹花 バッテリーの材料調達問題は未解決です。バッテリーに使用するリチウムやコバルト、ニッケルなどの市場は中国が支配的立場にあり、政治的な問題も絡んで安定供給に不安が残ります。

――ちなみにEVって本当に地球に優しいんスか?

竹花 ハッキリ言って、現状では地球に優しいとはいえません。資源採掘から廃棄、リサイクルまでのライフサイクル全体で考えると、生産時に大量のエネルギーを使うEVは、再生可能エネルギーで生産するのが理想。走行時に使う電気も、再生可能エネルギー由来でなければ、発電所でCO2を大量に排出する。

フランスのようにメインの電源が原子力発電ならCO2削減効果はありますが、核廃棄物の問題や事故のリスクは残ります。そもそも世界のCO2排出量のうち、自動車は4分の1程度。乗用車だけEVにしても効果は限定的ですよね。

●竹花寿実(たけはな・としみ) 
モータージャーナリスト。自動車雑誌の編集者などを経て2010年に渡独。ドイツ語を駆使し、現地でモータージャーナリストとして活躍。活動拠点を日本に移してドイツの自動車メーカーの最新動向などを発信中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。

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