トヨタのコンパクトカー・ヤリスにトンデモない怪物カーが登場した。約850万円の価格を誇るGRMNヤリスのことだ。このスーパープライスにも程があるヤリスを自動車研究家の山本シンヤ氏がサーキット試乗し、その実力を試した!!
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■800万円台のヤリスを全開走行!
山本 茨城県下妻市にある筑波サーキットで、トヨタがぶっ放したGRMNヤリスを世界初試乗してきました!
――そもそもの話ですが、GRMNって何の略なんスか?
山本 GRMNは「ガズー・レーシング・マイスター・オブ・ニュルブルクリンク」の略ですね。トヨタのGRブランドの頂点に輝く究極のスポーツモデルのことです。
GRMNは台数限定で登場するのがお約束なので、抽選に外れたら手に入りません。そのためGRMNは中古市場でも大人気。何年たっても高値で取引されています。
――今回試乗したGRMNヤリスはいつ発表された?
山本 今年1月に開催された「東京オートサロン」で世界初披露されました。500台限定のスペシャルモデルで、お値段は731万7000~846万7000円です。
――マジか!
山本 ベースになっているGRヤリスの最上級モデルが456万円ですから倍近い数字です。
――先ほどの山本さんの話を踏まえると、予約は殺到?
山本 そのとおり。1月14日よりトヨタガズーレーシングのウェブサイトで予約抽選の受け付けを開始しましたが、初日に1000台の購入希望者を集め、すでに1万台を突破したなんてウワサも。
――お値段がお値段なのに!
山本 2020年に登場したGRヤリスは、GRが掲げている"モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり"を具現化したモデルです。トヨタの豊田章男社長は、「これまでのトヨタは一般ユーザーのためのクルマを造り、それをレースに使えるように改造してきました。
しかし、今回は違います。『初めからレースに勝つために普段お客さまが乗るクルマとはどうあるべきか?』。そんな逆転の発想で開発したモデルなんです」と語っています。
――なるほど。
山本 そんなGRヤリスは、"もっといいクルマづくり"を実践し、正式発売後もスーパー耐久や全日本ラリーをはじめとするさまざまなモータースポーツフィールドを活用しながら鍛え、勝利を手にしてきました。
――ふむふむ。
山本 つまり、GRヤリスがモータースポーツで得た技術や知見をフィードバックさせたのがGRMNヤリスなのです。このGRMNヤリスは単なるGRヤリスの高性能版ではありません。実戦で徹底的に鍛え抜いて得た、トヨタの秘伝のタレがつぎ足されているのです。
――もともとGRヤリスとセットでGRMNヤリスは計画されていたんスか?
山本 いいえ、違います。トヨタの中にGRMNヤリスの企画はありませんでした。ただ、モータースポーツの実戦を通じ、鍛えたその成果を「ユーザーに素早く還元すべきではないか」という豊田社長の強い思いからGRMNヤリスのプロジェクトが生まれました。
ですから、そういう意味においては、いわゆるマーケティングから生まれたクルマではなく、泥くさい現場から生まれたクルマなんです。
――サーキット試乗はどんな感じだったんスか?
山本 事前にトヨタの広報担当から「レーシングギアをフル装備でご持参ください」と連絡がありましたから、「あ、今回は全開走行によるチェックだな」と。試乗モデルは、最も値が張る846万7000円のサーキットパッケージでした。
――率直な感想は?
山本 実は筑波サーキットを走るのは1年半ぶりだったんですが、20分の試乗でベストタイムは1分4秒台前半でした。1年半ぶりでも好タイムを連発できてしまうクルマなんです。たぶん、プロのドライバーなら1分2秒台も可能な気がしました。この数字は初期の日産GT-Rに匹敵するタイムなんですよね。
――えっ、ヤリスですよね?
山本 GRMNヤリスはトヨタがフルチューンしたモデルで、セッティングが決まった市販のレーシングカーみたいなもんです。簡単に言うと、自宅からサーキットに乗りつけて、いきなり好タイムが叩き出せてしまう。自動車メーカーが造ったフルチューンはハンパないです。
――怪物カーであると?
山本 私はこれまで筑波サーキットで国内外の高性能モデルを試乗してきましたが、その中では一番躊躇(ちゅうちょ)せずに全開走行ができましたし、一番安心して楽しく走れました。
――だから予約が殺到していると?
山本 そうです。実はGRMNヤリスの開発は現在も続いています。今回試乗した"味"が発売される夏頃には、さらに進化しているかも。
――ちなみに山本さんもGRMNヤリスの予約の申し込みをしたそうですね。チョー儲かってますね!
山本 いやいや。もし抽選に当たったら、冗談抜きに"漢(おとこ)"のフルローンです(感涙)。
●山本シンヤ
自動車研究家。YouTubeチャンネル『自動車研究家 山本シンヤの「現地現物」』