2018年から世界最高峰のMotoGPに挑む唯一の日本人ライダーの中上選手。今季も「LCRホンダ・イデミツ」から王者を目指す!

二輪ロードレースで世界最高峰にフル参戦する唯一の日本人ライダーがいる。中上貴晶選手だ。そんな侍ライダーをモーターサイクルジャーナリストの青木タカオ氏が独占直撃!

■世界最高峰に挑む、30歳の日本人

F1と並ぶモーターレーシングの最高峰が、「MotoGP」である。モロ出しの肉体で時速350キロのマシンを変幻自在に操り、命がけの接近戦を繰り広げる。出場選手は世界から選び抜かれた超一流のみ。最高峰クラスに今年フル参戦するのは6メーカー12チーム、24名しかいない。

そんなシビアなシート争いのなかで、今季5シーズン目を迎える日本人唯一のライダーがいる。中上貴晶(30歳)だ。

4歳からポケバイに乗り始めた中上は、12歳でロードレースデビューを飾る。全日本ロードレース選手権GP125クラスで全戦優勝したのは14歳のときだ。最年少チャンプに輝いた彼は、15歳の最終戦でバレンシアGP125㏄クラスに参戦、見事、世界選手権(MotoGP)デビューを果たした。

青木氏から「勝負パンツは?」と問われると、中上選手は間髪入れずに「ありますよ!紫です!」とキッパリ。あざっす!

そして、2008年、16歳の中上は2年間、MotoGP世界選手権GP3クラス(250㏄)にフル参戦するが、世界の壁は高く厚かった。

彼は全日本ロードレース選手権に戦いの舞台を戻す。2011年、19歳になった中上はJ-GP2クラスの年間王座に輝き、翌年よりMotoGP世界選手権Moto2クラス(765㏄)にレギュラー参戦復帰を決めた。

通算14度の表彰台を獲得し、そして2018年、幼い頃からの夢だった最高峰のMotoGPクラス(1000㏄)への昇格を決めた。26歳のときである。

昨シーズンは、第13戦アラゴンGPで日本人ライダーとして初となるMotoGP世界選手権参戦通算200戦出走を達成。そんな中上は現在、「LCRホンダ・イデミツ」に所属し、世界王座を狙い続けている。

ホンダは中上のほかにも、MotoGPで過去6度もチャンピオンに輝いているマルク・マルケス、MotoGPクラス9年目のポル・エスパルガロら強力な布陣を誇るが、昨季の戦績は振るわなかった。ケガから復帰したばかりのマルケスが7位に入ったのが最高で、中上は15位に沈んだ。

今季、中上が駆るホンダRC213Vの開発責任者であるチェン・ユーリャン氏は今年1月に行なわれた報道向けオンライン取材会でこう語った。

「これまでの考え方の"枠"を取り払って、マシンを進化させました」

具体的には、昨シーズンに問題となったタイヤのグリップ不足を解消し、乗りやすさや扱いやすさを優先した。さらに今シーズンを戦う新型は、エンジン制御や車体の骨格や空力パーツなどを徹底的に改良し、磨き上げている。

ホンダRC213Vの開発責任者であるチェン・ユーリャン氏(左)と、ホンダ・レーシングの取締役でレース運営室室長の桒田哲宏氏(右)

ホンダ・レーシング運営室室長である桒田哲宏(くわた・てつひろ)氏は中上について報道陣から問われると、キッパリこう言った。

「彼のスピードを発揮できるマシンを用意すれば、表彰台の中央に立つこともできる」
 
そうホンダが太鼓判を押す中上に、今シーズンの意気込みなどを聞いた。

■1000分の1秒差で順位が変わる

――本日は中上選手が着るレーシングウエア「イクソン」が主催するトークショーとサイン会でしたが、ひとりずつ丁寧にファンサービスを行なう姿が印象的でした。神対応すぎて驚きましたよ。

中上 自分もイベントを楽しみにしていましたし、こういう機会をきっかけに「レースを見たい」とか「応援したい」と思っていただきたいので。

――サーキットでもファンの声援は届いている?

中上 レース中でも自分の応援グッズを身に着けて声をからしている姿は目に入りますので、それはとても励みになっていますよね。

ストレートでは時速350キロに達する怪物マシンを変幻自在に操る。コーナーでは肘と膝を擦りながら曲がる

――もしもバイクレーサーになっていなかったら、何をしていたと思います?

中上 自分は4歳からレースをやっていますので、まったく想像がつきませんが、きっとなんらかのスポーツをやっていたんじゃないかと。

――現在、世界最高峰のクラスに挑む日本人は中上選手ひとりだけです。この状況をどうとらえていますか?

中上 バイクレースは個人スポーツであり、チームスポーツでもあるのですが、レースはスタートすればひとりです。ですから、同じ日本人がいてもアドバンテージが得られるわけでもありません。

――そうですね。

中上 日本のモータースポーツ界を盛り上げるという意味では、日本人が増えれば、もちろんうれしいんですけど、それよりもまず考えるべきは、自分の仕事をちゃんとすることですね。

――その仕事ですが、昨シーズンを振り返ってください。

中上 満足できるリザルトを残せませんでした。正直なところ厳しいシーズンでしたが、学んだこともたくさんあり、前向きにとらえています。

鋭い眼光を光らせ、ピットからマシンに向かう中上氏の貴重な写真。当たり前だが、取材時の柔和な笑顔はない

――今シーズンも1秒差以内に20台以上がひしめく、超ハイレベルなバトルに身を投じます。現在の心境は?

中上 1000分の1秒差で順位が変わり、気の抜けない厳しさはありますが、マシンも磨かれましたし、今シーズンが楽しみです。

――今年こそ、チャンピオン争いを期待しています。

中上 まずは開幕戦から表彰台を狙っていきます。それを積み重ねていければ、必ずチャンピオン争いが後からついてくると思います。

――勝ちにこだわると。

中上 まずは一戦ごとに結果に対して貪欲に取り組んでいきます。いいプレッシャーを自分自身にかけて戦います。

2月9日、LCRホンダ・イデミツは、2022年シーズンに中上貴晶とアレックス・マルケスが使用するホンダRC213Vを公開した。コイツが今年の相棒だ 写真提供/LCR Honda IDEMITSU

●中上貴晶(なかがみ・たかあき)
1992年生まれ、千葉県出身。2018年より「LCRホンダ・イデミツ」のライダーとして、世界最高峰の「MotoGP」クラスに参戦

●青木タカオ
モーターサイクルジャーナリスト。著書に『図解入門 よくわかる最新バイクの基本と仕組み』(秀和システム)など。『ウィズハーレー』(内外出版社)編集長。YouTubeチャンネル『バイクライター青木タカオ【~取材現場から】』