新庄監督がキャンプイン時に乗っていたのは、「GORDON GL1800 トライク Type4」。車体本体とトライクキットを合わせた定価は735万8400円

「こっからはド派手にいくぜ!」とばかりに日本ハムの新庄剛志監督が三輪バイクでキャンプに登場!  超カッケーじゃん! つーわけで、モーターサイクルジャーナリストの青木タカオ氏になじみの薄い三輪バイクについて聞いた!

■クルマの免許で乗れるハーレーのトライク

――2月1日、日本ハムのBIGBOSS・新庄剛志監督が三輪バイクでド派手にキャンプイン! 大きな話題を集めました。青木さん、この三輪バイクの正体は?

青木 新庄監督が乗っていたのは、高級三輪バイク=トライクのデザイナーズブランドである「ゴードン」のもの。ホンダの最上級モデルであるゴールドウイングをベースにした「GORDON GL1800トライク Type4」ですね。

現行型のゴールドウイングは2018年にフルモデルチェンジしたSC79ですが、新庄監督が乗っていたのは、2017年以前のSC68という型式です。

――ベースになっているゴールドウイングの走りは?

青木 最高出力109馬力を発揮する排気量1832㏄の水平対向6気筒エンジンを心臓部に持ち、アメリカでは大陸横断など長距離ツーリングに使われるグランドツアラーです。僕もアメリカで乗りましたが、乗り心地は最高です。

ホンダの開発責任者も、「北米大陸という広大な国土を背景に設計しました。快適に長距離を走るための理想型をここまで追求したオートバイは稀有(けう)な存在」と言ってます。

ゴードンのベースはホンダの大型ツアラー・ゴールドウイングだ。4月21日に発売予定の新型の価格は294万8000~346万5000円

――ふむふむ。

青木 そんなホンダのフラッグシップたるゴールドウイングを、リヤ二輪のトライクに仕上げたのがゴードンなのです!

――要するにホンダの最上級モデルを三輪バイクに"魔改造"したって話ですか?

青木 そのとおり。熟練したメンバーが情熱を持って手作業で製造するため、年間製造台数はどんなに多くても10台ほど。仕上がりが美しく貴重な存在です。ちなみにお値段は車体とトライクキットを合わせ、735万8400円!

――ゴードンに乗るにはバイクの免許が必要?

青木 実はクルマの免許で乗れるんですよ。

――マジか! なんで?

青木 道路交通法での免許区分は「自動車」に相当するからです。セーフティライドの観点からメーカーは推奨しませんが、ノーヘルも許されます。一方、道路運送車両法では「側車付きオートバイ」に分類され、高速など有料道路の通行料金や税金・保険はバイク扱い。車庫証明も必要ありません。つまり、バイクとクルマのいいとこ取りがトライクです。昔から愛好家が多いのもうなずけますよね。

――大型二輪免許がなくても、大排気量の最上級モデルに乗れるってワケか!

青木 実はバイクの免許がなくても乗れるハーレーもあるんです。それが「トライグライド」と「フリーウィーラー」です。

――クルマの免許でハーレーに乗れる?

青木 そうです! 正確にはクルマのMT免許があれば乗れます。しかも、コイツは改造車ではなく、ハーレーダビッドソンが正式にラインナップしているモデルなんです。

――乗り味は?

青木 僕はトライグライドでアメリカのフロリダ半島一周4000㎞を走りましたが、バイクの開放感とクルマの安心感を身をもって実感しましたね。ゴードンもそうですが、ふたり乗りでも安心感があるし、リアシートには背もたれや肘かけもあり、まさにファーストクラスの乗り心地なんです。

ハーレーダビッドソン「トライグライドウルトラ」クルマ免許で乗れるハーレーとして人気を集めている。上は青木氏がペアライドでフロリダ半島を駆け抜けたときの写真。価格は503万9100円~

――二輪との大きな違いは?

青木 信号待ちなどで止まるたびに、地面に足を着けて車体を支えなくてもいいのが楽です。要は立ちゴケの不安がないんです。大型バイクは駐車場などで押し引きするときなど、ベテランライダーでも気を抜くことはできませんから、そこは大きなアドバンテージですよね。

――なるほど。

青木 ゴードンもトライグライドもそうですが、大型車はほとんどがリバースシステム付き。後進も足をステップに乗せたままできます。乗り手の体格や体力を問わないのも利点です。ベテランライダーが二輪を卒業し、トライクに流れるのも理解できますね。

ハーレーダビッドソン 「フリーウィーラー」余分な装備が一切ないカスタムスタイルが魅力のフリーウィーラー。ハンドリングも楽でトライクにしかない安心感を味わえる。価格357万2000円~

■世界中で大人気、カンナムのトライク

――ほかにもカッコいいトライクはあるんスか?

青木 もちろん! フロント二輪のカンナムを忘れてはいけません。主にスノーモービルや水上バイクを手がけるカナダのBRP(ボンバルディア・レクリエーショナル・プロダクツ)社がリリースしています。ロータックス社製エンジンを積む本格派スポーツビークルですね。

――うお! SFアニメから飛び出したかのような先進的なスタイル! クソカッケーじゃん!

青木 スパイダーは累計販売台数6万台と世界中で大人気です。僕は1330㏄の3気筒エンジンに6速ミッションを組み合わせた「スパイダーF3-S」や、ウインドシールドやラゲッジケースを装備したツーリング仕様の「スパイダーRT」に何度も試乗していますが、切れ味鋭いハンドリング、強力なダッシュ力、そして官能的なサウンドはスーパーカーにも近い! スポーツマインドをくすぐられる、実にアグレッシブな乗り物に仕上がっています。

カンナム「スパイダーF3-S」ロータックス製の直列3気筒エンジンは低回転域から力強く、強烈なダッシュ力を誇る。コーナーリングも楽しめる。価格は299万2000円

カンナム「スパイダーRT」顔面だけでなく、装備面もスゴい。グリップヒーターを備え、ラゲッジは計155Lもの容量が確保されている。価格は370万1500円

――日本でもファンが多いそうですね。

青木 はい。BRP社から聞きましたが、ガダルカナル・タカさんが奥さまの誕生日にプレゼントしたものの、ご自身が気に入ってしまい、いつも乗っているそうです。ポルシェやフェラーリなど、高級スポーツカーを所有するオトナに愛用されているとか。

――もう少しコンパクトなトライクはない?

青木 ダートも走破できる「ライカー」はどうです? 2018年秋、日本上陸前にカリフォルニアをツーリングしましたが、ワインディングもオフロードもアドレナリン全開の走りを楽しめました。

900㏄エンジンを積み、サスペンションストロークの長い「ライカー ラリーエディション」は四輪バギー(ATV)のように、道を選ばずどこでも走破可能です。ちなみにカンナムのATVは日本ではあまり知られていませんが、欧米や豪州などで高いシェアを誇り、レーシングシーンでも大活躍しています。

カンナム「ライカー ラリーエディション」舗装された道路だけでなく、オフロード走行も余裕でこなせるのが、ライカーラリーエディション。価格は283万600円~

■ヤマハ、ホンダにも三輪バイクはある!

青木 三輪バイクといえば、ヤマハを忘れてはいけません! ズバリ、「ナイケンGT」と「トリシティ155」です。コチラは「特定二輪車」に分類され、バイクの免許が必要になります。

――三輪バイクも車種によって免許が異なるんスね?

青木 左右のタイヤの幅が46㎝未満でリーン(傾斜)機構を持っていると二輪免許が必要になる。逆にタイヤの幅が46㎝以上で車体が傾かないと普通自動車免許で乗れます。

ヤマハ「ナイケンGT」「雨の中、ヒザを擦ってコーナーを駆け抜けても不安が一切ないんです。二輪とは次元の違う走りが味わえます」と青木氏。価格198万円

ヤマハ「トリシティ155」2020年5月に発売したフロント二輪のスクーター。至近距離で眺めると、やはり形は独特。走るとよく曲がる。価格は48万4000円

――ふむふむ。ヤマハの三輪バイクはどんな味わい?

青木 操作フィールは限りなくオートバイに近いですね。停車時は地面に足を着かなければいけませんし、リバースシステムも備わっていません。

ただ、雨の日にサーキットでナイケンに試乗しましたが、コーナーで安心して膝を擦れてしまう。かなり新感覚です。トリシティは原付二種の125㏄、高速道路も走れる155㏄、さらによりパワフルな300㏄も用意しています。爽快感と安定感を両立しています。

実際に乗ると、意外と車幅はさほど気にならず、二輪感覚で細い路地にも入っていける。滑りやすい石畳の路面が残る欧州では三輪バイクの人気があり、300㏄版はその需要に応えたモデルですね。

――ホンダにも三輪バイクがあるそうで。

青木 ホンダの「ジャイロX」、屋根付きの「ジャイロキャノピー」のことですね。ホンダ関係者によると、新型コロナの影響でデリバリー需要が増え、現在生産が追いつかないほどの人気を集めているそうですよ。

――へぇー。

青木 そして最新型はEV化され、「ジャイロe:(イー)」に進化を遂げています。コイツは法人向けモデルですが、荷物運搬時の登坂力と加速を確かめようと、瓶ビール20本のケースを想定した20㎏の荷物を乗せて試乗したところ、坂もグイグイ、発進時のダッシュもガソリン車以上でした。開発責任者によると、30㎏の荷物を積んだ状態で、傾斜15度の登坂性能を実現しているとのことです。

ホンダ「ジャイロe:」ホンダは昨年3月25日、ビジネス用電動三輪スクーター「ジャイロ e:(ジャイロ イー)」を法人向けに発売して話題に。価格は55万円

――なるほど。ズバリ、トライクはどんな人に推せる?

青木 BIGBOSSがド派手にブチカマしましたが、とにかくトライクには圧倒的な存在感がある。

――確かに。

青木 街中での目立ち度はオープンカーより上かもしれません。クルマの免許があり、世間様にワイルドさや個性を鬼のようにアピールしたい人にはドンピシャ。そうでない人にもお値段は張りますが、ランニングコストはバイク並みなので推したいですよね。

――人生で一度は乗るべし?

青木 二輪同様、三輪バイクも密を回避できますし、ぜひ味わってほしいですね!

●青木タカオ
モーターサイクルジャーナリスト。著書に『図解入門 よくわかる最新バイクの基本と仕組み』(秀和システム)など。『ウィズハーレー』(内外出版社)編集長。YouTubeチャンネル『バイクライター青木タカオ【~取材現場から】』