進化した顔面が大きな話題を集めているトヨタの新型ミニバン。どうしてこんな派手顔に? 都内で開催された試乗会で新型を徹底チェックしたカーライフジャーナリストの渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう)氏に聞いた。
* * *
■ミニバンの顔面がド派手なワケ
――新型ノア&ヴォクシーが話題を集めていますが、どちらも顔がド派手スね。アルファードも含めて、なぜミニバンって顔が個性的なんスか?
渡辺 ミニバンは外観が地味だと、商用車に見えてしまいます。そこで、フロントマスクを派手にしたり、エアロパーツを装着することで商用車との差別化を図っています。
――派手顔の歴史は?
渡辺 元祖派手顔ミニバンは、3代目の日産ラルゴに追加されたハイウェイスターですね。1995年に特別仕様車として登場しました。あれから27年が経過し、エアロミニバンも定着しましたね。
――実はミニバンの売れ行きがハンパないとか?
渡辺 はい。アルファードは売れ筋の価格帯が400万~600万円ですが、昨年は1ヵ月平均で約8000台を登録しました。これは安価なSUVのライズを上回る数字で、日産のノートにも迫る勢いです。トヨタは儲けていますよ。
――今回試乗した新型ノアとヴォクシーも売れている?
渡辺 はい。その結果、現在のトヨタ車の中で特殊な立ち位置になりました。
――どういうこと?
渡辺 今のトヨタはコストアップにつながる姉妹車の廃止も視野に入れ、全店が全車を扱う販売体制に移行しましたが、ノアとヴォクシーの姉妹車は残しました。開発者に聞いたら、ノアとヴォクシーは国内専売車だから多く台数を売りたいと。
しかし、今後は少子高齢化だから、販売を保つには新しいお客さんを取り込む必要がある。そこでノアはミニバンの主流に位置づけながら、ヴォクシーを上手に活用し、今までミニバンに関心のなかったお客さんを振り向かせたいと。結果、ヴォクシーで新しいチャレンジをしたようですね。
――なるほど。ノアは従来の顧客を押さえ、ヴォクシーは新しい客層を狙っているから姉妹車だけど顔が異なると。
渡辺 従来の販売比率はヴォクシーが6割で、ノアが4割でした。ところが新型の目標値は逆で、ノアが6割です。ノアを手堅く売り、ヴォクシーは冒険をするから台数も抑えているんです。
実際、販売店を取材すると、「発売直後は乗り替え需要の豊富なヴォクシーが多く売れていたが、最近はノアの好調さが目立っている」と。トヨタの狙いどおりに進んでいると思います。久しぶりにトヨタの本性が現れたクルマですね。周到に計算し、顧客を確実につかんでいます。
――トヨタが本気なワケは?
渡辺 ミニバン市場は少子高齢化もあって将来が危ぶまれています。しかし、実際には子育てを終えても使い勝手の良さからミニバンに乗り続けるユーザーが多く、売れ行きはあまり下がらない。昨年もこの姉妹は売れに売れており、合計すると月に約1万台を登録していました。
――だから、この新型はトヨタの意気込みがハンパないわけですね?
渡辺 そうです。顔やプラットフォームだけでなく、新型のノーマルエンジンはハリアーなどと同じタイプに改め、ハイブリッドは第5世代に進化させています。先進安全装備も目を見張る充実ぶりです。ただし、開発費用は膨大です。絶対に失敗が許されないクルマだと思いますね。
●渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう)
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務める。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員