トヨタの新型「ノア」「ヴォクシー」の販売が絶好調だ。先行予約は2021年12月8日より始まっていたが、2022年1月13日の発売からわずか1ヶ月で、約7万台の受注があったというからスゴイ。
新しいノア、ヴォクシーといえば、派手で巨大なフロントグリルが話題沸騰中だ。ノアの標準車でも結構な派手さだけど、スポーティなSシリーズではグリル全面がメッキで覆われ眩しいくらい。さらに、ヴォクシーに至っては光る網目模様がもはや妖艶ともいえる域に達している。このド派手ぶりは、自動車評論家からも賛否が出ているほどだ。
ところが、この両車を担当したチーフデザイナー氏の話では、今回のデザインコンセプトに「王道」を掲げていたというから驚く。この顔のどこが王道?と思うけど、同氏によれば、先代でより派手になったマイナーチェンジ以降に販売数が急上昇し、特にヴォクシーはインフルエンサー的な存在にまでなったという。つまり、それほどユーザーから支持を得たのだから、もはやこの顔こそが「王道」なんだと。
それにしても、どうしてこの派手なグリルのクルマがそれほどまでに売れるのだろう?
振り返ってみれば、70~80年代にもトヨタのクラウンや日産のセドリックなど、ギラギラのグリルが好まれる傾向はあった。けれど、それがより一般的になったのは、やはり軽のトールワゴンなどから始まった「カスタム」グレードの普及だろう。優しい顔の白い標準車に対し、メッキグリルの黒い「チョイ悪」グレードという構成の定着だ。
ここで面白いのは、ほどんどの車種でカスタムグレードの方が人気であること。しかも圧倒的な男性人気と思いきや、女性、つまり若いママ達も結構な割合でカスタムを選んでいるのだ。これは一体どういうことなんだろう?
あくまでも想像だけど、日本人の心の奥底に潜む「ヤンキーマインド」がその理由だと思っている。ヤンキーといっても取り立てて「ワル」ということじゃない。たとえば、神社仏閣や祭りの山車など、ある種のきらびやかさを「カッコいい」とか「美しい」と感じる感覚が、遙か昔から日本人の意識の底にあるんじゃないか?
かつて、消しゴム版画家でコラムニストの故・ナンシー関が「日本人の大半はヤンキーとファンシーでできている」という独自の文化論を展開していたけれど、まさにそれだ。日本各地に拡大する「よさこい節」の衣装や踊りもそうだし、もちろんEXILE人気も忘れてはいけない。
いや、自分の周りにヤンキーはいないぞ、という読者の方もいるかもしれないけれど、日本人の誰もがオシャレなファッション誌や最先端のライフスタイル誌を愛読しているワケじゃない。それどころか、北海道から沖縄まで、全国民の根底を支えているのは「ヤンキーマインド」を持った人たちと言っても過言ではないのではないか。
トヨタがすごいのは、恐らくそうした日本人の特性を知り尽くしていて、求められるニーズに的確に応えるところである。すべての車種を最先端でオシャレなデザインにするつもりなど毛頭ないし、逆に必要とあらばグッドデザインも打ち出すしたたかさに溢れている。
カーデザインを評論する僕としては、この派手さはちょっとやり過ぎだろうと思うし、冒頭のとおり自動車評論家諸氏にも賛否があるようだ。けれども、ノア、ヴォクシーのスケッチを描いたデザイナーも経営陣も、そんなことは重々承知のうえで企画を進めているのである。
さて、興味深いのは、ほぼ同時に発表されたホンダの新型「ステップワゴン」が真逆のデザインコンセプトで登場したことだ。初代や2代目をオマージュしたようなボディは、最近の同社のシンプル路線で徹底されている。
果たして、今回多くの日本人はどちらを選択するのだろう? 間もなく発売されるステップワゴンは、日本人のデザインセンスを測る最適な素材になりそうだ。まあ、スッキリボディの「フィット」より昆虫顔の「ヤリス」が圧倒的に売れているのを見れば、答えは明らかなのかもしれないけれど。
★すぎもと たかよし
サラリーマン自動車ライター。都内でサラリーマンをするかたわら、クルマ好きが高じてライターを始める。大学では美術を専攻、したがってクルマの興味もまずはデザイン。愛車は、今年36年目を迎えた真っ赤な「いすゞFFジェミニ」