日本に登場した韓国製EVのヒョンデ・アイオニック5。その実力はすでに世界で高く評価されている

ヨーロッパで高い評価を受け、鳴り物入りで日本市場再参入を決めた韓国のEV。果たしてその実力は本物なのか? 試乗したモータージャーナリストの竹花寿実(たけはな・としみ)氏が解説する。

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■アイオニック5はオンライン販売のみ

竹花 以前からウワサになっていた韓国の「ヒョンデ」が日本市場に復帰しました。

――ヒョンデってなんスか?

竹花 2009年末に日本から撤退するまでは「ヒュンダイ」と呼ばれていた韓国の現代自動車のことです。約12年ぶりの日本再参入を機に、ブランドの呼称を韓国語の発音に近い「ヒョンデ」に改めました。

前回は製品クオリティや顧客サービスの点で日本の消費者の心をつかむことができず、最終的に撤退に至ったヒョンデですが、今回はかなり周到に準備した上で、自動車市場が大きな転換期を迎えている、絶妙なタイミングで日本に進出してきました。

――販売店はある?

竹花 店舗はありません。今回はEV(電気自動車)とFCEV(燃料電池車)をオンラインで販売します。

ヒョンデはカーシェアリングの「Anyca(エニカ)」に順次車を配備し、さらに今夏、試乗や購入相談ができる「ヒョンデ・カスタマーエクスペリエンスセンター」を神奈川県横浜市に設置する予定です。

また、東京・JR・原宿駅前に「ヒョンデハウス原宿」というポップアップスペースを5月28日まで開設し、試乗車も用意しています。

――購入後の点検や整備は?

竹花 全国の協力整備工場で行なう計画です。ヒョンデの日本法人によれば、2019年夏に韓国本社が日本市場への再参入を決定した時点では、以前のように販売店を設置する計画でしたが、過去の反省から顧客の声をダイレクトに聞くためにオンライン販売のみに舵(かじ)を切ったそうです。

今後は少なくとも10年くらいかけて、日本におけるヒョンデブランドの認知度を高めていく考えだそうです。

――日本導入モデルは?

竹花 EVのアイオニック5と、FCEVのネッソの2車種です。先日試乗したのですが、アイオニック5はちょっと衝撃的でしたね。

――具体的には?

竹花 アイオニック5は、ハッチバックスタイルのEVなんですが、全長4635mm、全幅1890mm、全高1645mmと、フォルクスワーゲンのゴルフなどよりひとまわり以上大きく、ホイールベースも3000mmとかなり長い。

ヒョンデ アイオニック5 価格:479万円~ ボディはフォルクスワーゲン・ゴルフなどよりひとまわり以上大きい。幾何学的な外観が実に個性的だ

――ふむふむ。

竹花 今回試乗したのは前後に電気モーターを搭載し、合計で305PSと605Nmを発揮する4WDモデルだったのですが、アクセルペダルを踏み込めば、EVらしくパワフル。その一方で、低速域でのアクセルレスポンスが絶妙。EV特有の過敏さがないので、非常に運転しやすいんです。

――へぇー。

竹花 ちなみにアクセルオフにすれば最終的に停止する、いわゆるワンペダルドライブもできます。カチッとフラットな乗り心地と高い静粛性は、ヘタなプレミアムカーを超える快適性を実現。しかも72.6kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、航続距離は577kmです。

12.3インチのディスプレイが2枚並ぶインパネは、最新のデジタルガジェットのよう。機能面も最先端だ

前席にはオットマンを装備。後席は60:40分割でスライド可能で、全座席シートメモリー機能も搭載している

――装備面はどうスか?

竹花 ナビゲーションと協調制御する最先端のADAS(高度運転支援システム)や、ARヘッドアップディスプレイ、遠隔スマート駐車機能、OTA(オーバー・ジ・エア)による機能アップデートなど、ドイツ製プレミアムカーに迫る最先端の機能を4WDモデルで多数搭載しています。

今回の試乗車は589万円でしたが、後輪駆動モデルなら479万円からあります。

ラゲッジは527リットルと標準的で、使い勝手も良好。後輪駆動モデルはフロントにも57リットルの収納スペースがある

――海外でも売っている?

竹花 日本以外で本格的にデリバリーが始まったのが昨年6月です。2021年の販売台数はグローバルで6万5906台でしたが、昨年のジャーマン・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞したほか、各国の賞を受賞しています。今年の欧州カー・オブ・ザ・イヤーでは3位に入りました。

――ヨーロッパで高い評価を受けていると?

竹花 ヒョンデとその傘下のキアは、EVに関していうと、ヨーロッパでは完全にメインプレーヤーです。アイオニック5とEVプラットフォームを共用する、キアの「EV6」は、2月28日に発表された今年の欧州カー・オブ・ザ・イヤーを受賞しました。韓国車としては初の快挙です。

韓国車初の欧州カー・オブ・ザ・イヤー受賞車のキアEV6は、アイオニック5の兄弟モデル。韓国EVはヨーロッパで存在感を放つ

――ズバリ、アイオニック5は日本で売れますか?

竹花 オンライン販売のみですし、いきなり大ヒットはしないでしょうが、まだZEV(ゼロエミッションビークル)市場が小さい日本では、今後ゲームチェンジャーになる可能性は十分にあります。つけ加えると、ヒョンデはサブスクでアイオニック5に乗れるよう準備を進めており、実現すれば裾野は広がるかと。

――ヒョンデの日本市場再参入に懸念材料は一切ないと?

竹花 いいえ。12年前のように「売れないから撤退」となれば、市場からの信用を完全に失い、二度と日本市場には戻れなくなるでしょう。やはり、いつ面倒を見てくれなくなるかわからないクルマなんて、怖くて買えませんから。

●竹花寿実(たけはな・としみ) 
モータージャーナリスト。自動車雑誌の編集者などを経て2010年に渡独。ドイツ語を駆使し、現地でモータージャーナリストとして活躍。活動拠点を日本に移してドイツの自動車メーカーの最新動向などを発信中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員

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