今年1月14日、トヨタとスバルは「東京オートサロン」で、共同開発した新型EVのカスタムカーを出展した。その誕生秘話とは? 両兄弟車を開発段階から粘着取材する自動車研究家の山本シンヤ氏に聞いた。
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ーー今年の東京オートサロンで、トヨタとスバルは共同開発したEVのカスタマイズモデルを世界初公開しました。
山本 トヨタが「bZ4X GRスポーツコンセプト」、スバルが「ソルテラSTIパフォーマンスコンセプト」を出展しましたね。まだベースモデルすら発売していない段階ですが、早くもスポーツバージョンの提案となりました。
ーーこの2台のカスタマイズモデルですが、もともと登場予定だった?
山本 いいえ、違います。話は昨年11月13日に遡ります。この日はスーパー耐久最終戦が岡山国際サーキットで行なわれていました。その場には四輪・二輪メーカー5社のトップが集結し、共同で会見を実施。脱炭素社会を目指すことなどが発表されました。
ーー確かその場にトヨタのbZ4Xとスバルのソルテラが一緒に並べられていましたよね?
山本 そうです。実は2台が一緒に展示されたのは世界初です。その場にはトヨタの豊田章男社長もおり、報道陣に「見た目も各々の個性があるでしょ?」、「この展示は私が直接指示したわけではありません。自発的にやれるような会社になった証拠です」と語っていました。その後、GRカンパニーの佐藤恒治プレジデントと話す機会があったので、私は以前から気になっていた点について質問しました。
ーーふむふむ。
山本 この2台はトヨタとスバルの共同開発により誕生したモデルですが、開発チームは「内燃機関から乗り換えても違和感がないクルマに仕上げました」と語っています。その証拠にbZ4X、ソルテラには環境車の象徴とも言える青いエコバッジが装着されていません。つまり、この2台のEVはいわゆる環境車ではなく、「フツーのクルマだ!」とアピールしているわけです。フツーのクルマを売りにするなら、なぜスポーツタイプのグレードがないのか? フツーのクルマであれば、ノーマルタイプだけでなく、スポーツタイプのグレードが用意されますからね。
ーー佐藤プレジデントの反応は?
山本 残念ながら、「現時点ではスポーツタイプの計画はありません」という返答でした。ただ、トヨタはユーザーに選択肢を与えるべく、〝マルチソリューション〟を掲げているわけですから、EVにだけ冷たいのはいかがなものかとは指摘しました。
ーーそして、昨年の11月25日に大きな動きがあったと?
山本 ええ。あとから聞いたのですが、千葉県袖ケ浦市にあるサーキットで開催された日本カー・オブ・ザ・イヤーの10ベスト試乗会の場でトヨタがスバルに直談判を行なったと。
ーーへぇー。
山本 別件で来ていたトヨタの佐藤プレジデントがbZ4Xのスポーツバージョンのスケッチを用意し、それを持ってこれまた別件で来ていたスバルの藤貫哲郎CTO(最高技術責任者)の元へ赴き、「トヨタはこういうモデルを東京オートサロンに出展します。スバルさんもなんとかお願いできませんか?」と交渉したそうです。
ーー要するに11月25日にスケッチしかなかったものが、1月14日に両メーカーのブースに展示車両が用意されていたと。お正月休みを考えると、約1ヵ月のスピード開発ですね。
山本 トヨタは世界トップの販売台数を誇る自動車メーカーですが、仕事のスピード感はまるでベンチャー企業並みです。裏を返せば、それが今のトヨタの強みです。彼らは常日頃から「アジャイルな開発」という言葉を掲げていますが、まさにそれをリアルに感じた出来事でした。もちろん、突貫仕立ての部分もありましたが、「やる」と口にしたらやる。そして、あらゆる声にしっかり耳を傾ける。王者の凄味を感じました。つけ加えると、トヨタの突然の提案に対して即座に判断し、同じスピード感でモノづくりを進めたスバルもスゴいなと。トヨタとスバルが良好な関係性を築いているからこそだと思います。
――ズバリ、この2台は市販化されますかね?
山本 現時点ではコンセプトですが、来場者の反応や評価は高いと耳にしています。焚きつけた人間のひとりとして、引き続き取材を続けたいと思います!
☆山本シンヤ shinya YAMAMOTO
自動車研究家。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeチャンネル『自動車研究家 山本シンヤの「現地現物」』を運営