国産中古スポーツカーの価格の高騰が止まらない。そのなかでも絶大な人気を誇るのがマツダの名車RX‐7の3代目で、盗難事件も起きているほどだ。いったいどんなクルマなのか? 新車で購入した経験を持つモータージャーナリストの"フジトモ"こと、藤島知子さんにその魅力を聞いた。
■9万5000㎞走った!
ーーマツダの名車「RX‐7(セブン)」の中古価格が鬼らしいスね?
藤島 はい。特に1991年に流れるようなスタイルに生まれ変わった3代目(FD3S型)の人気が高く、平均価格は400万円近いんです。最終限定モデルに至っては1000万円なんて個体もあり、盗難件も起きています。
ーースゴ! 確か藤島さんはRX‐7に乗ってたんスよね?
藤島 私が所有していたセブンは、まさに現在高騰しているFD3Sの最終型です。グレードは「TYPE R」という上位モデルでした。当時、私は免許を取得してわずか半年の初心者ドライバーだったんですが、どうしてもマニュアルのセブンに乗りたかったんです。
ーーFDのどこらへんに心を奪われたんスか?
藤島 私の目にイノセントブルーのイメージカラーが鮮烈に焼きついたんですよね。また、地を這うように低く、抑揚のあるプロポーションが実に美しかった。私が購入したとき、"最後のロータリー・ターボ"と言われていましたからね。これはもう手に入れるしかないなと。
ーーメロメロじゃないスか! ちなみに購入されたFDのお値段はいかほどで?
藤島 新車で購入したんですが、全部コミコミで約400万円。頭金が110万円で、残りは60回ローンを組みました。
ーー60回ローン! 実に男前ですね!
藤島 いやいやいや。購入時は20代半ばだったんですが、ローンのほかに車両保険も月額2万円超でしたから大変でした。今考えると、よくひとりで印鑑握りしめマツダのディーラーに乗り込んだなと。しかも、試乗もしないで新車を買いましたからね。
ーー実際にFDに乗った感想は?
藤島 FDを手放すまで9万5000㎞走りました。エンジンは低回転のトルクが薄いし、女性である私にはクラッチは重く、上手に回転を合わせてクラッチをつないでいかないと、すぐにエンストしてしまう。マニュアル初心者だったので、街乗りをスムーズに走ることにさえ大苦戦でした。ただ、最初は恐怖しかなかった坂道発進も、経験を積んだら上手にできるようになりましたね。
ーー着座位置とかは?
藤島 私が小柄なのもありますけど、そこを差引いても低いですね。逆に言うと常にスポーツカーに乗っていることを意識させてくれる。だから、夜中の鎌倉や江の島の海岸線をゆっくりFDで走っていても、何だか特別な気持ちにさせてくれましたよね。
ーー燃費はどうでした?
藤島 燃費性能は悪いですよ。リッター4㎞程度だし、エンジンオイルもすぐに減る。1000㎞走ったらオイルを1リットル注ぎ足す感じだったので、必然的にボンネットを開けるクセがつきました。
ーーノーマル状態で乗っていたんスか?
藤島 その当時、レース業界の仕事をお手伝いしていたので、チームの関係者からマフラー、車高調キット、エアロなどを取り付けていただきました。けっこう激しい見た目になっていたと思います。
ーーそんな最愛のFDを手放した理由は?
藤島 当時乗っていたレース用マシンのエンジンが壊れたのでFDを売り、そのお金でエンジンを買ったんです。まぁ、これだけ高騰していると、「あのときに手放さなければよかったかも?」という気持ちもありますが...。
ーーん?
藤島 世界的に電動化の波が押し寄せ、ピュアな内燃機関のモデルが終焉を迎えそうな今、もし私が20代でFDを手に入れていなかったとしたら、きっとどうにかして、あのときの憧れを今手にしておきたいという気持ちに駆られていたはず。どちらに転んでも私はFDに乗っていたと思いますね。
ーーFD最大の魅力は?
藤島 マツダの「魂」とも言えるロータリー・ターボです。時を重ねても色あせない硬派な魅力がFDにはあるのですよ。
★藤島知子(ふじしま・ともこ)
モータージャーナリスト。連載媒体多数。テレビ神奈川の新車情報番組『クルマでいこう!』の出演は14年目に突入。2002年よりレースに参戦。日本自動車ジャーナリスト協会理事。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員