4月14日、日産は東京都内の公道で新型EV「アリア」の試乗会を報道陣向けに開催した。公道でのアリアの試乗会はコレが初。そこで、カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう)氏が現地に赴き、新型EVの実力に迫った!
* * *
■サーマルショックを抑えたアリア
――日産の新型EVアリアは2020年7月に発表され、21年6月には特別仕様車となるリミテッドシリーズの予約注文をネットのみで開始。そして昨年11月には正規グレードとなるB6の2WDの販売も始めました。手応えは?
中嶋 おかげさまで想像以上の反響をいただいております。
――アリアは日産の中でどんな位置づけのクルマですか?
中嶋 アリアは今の日産を象徴するクルマであり、将来の日産につながるところをしっかり見せないといけないクルマだと思っています。
――現在、海外を含めて世界の自動車メーカーはアリアのようなEVをアピールしています。しかし、日産は今年1月にモーター駆動を一切使わない新型フェアレディZの日本版を発表しました。EVと純粋なエンジン車の販売バランスをどうお考えですか?
中嶋 日産はEVのみを造る考えはありません。エンジンを搭載するクルマの楽しさは、モータースポーツを含めて今後も続くでしょう。ただし、販売の比率に関しては、時間の経過に伴って変化すると思います。今後は次第にEVの比率が高まり、純粋なエンジン車は減ります。
――常に多様な可能性を視野に入れて研究開発を行ない、市場や環境の変化に応じて適切な商品を開発すると。
中嶋 その一方で、世の中の流れに沿った進化も大切です。特に日産はEVの分野では先駆的な存在です。EV市場全体を引っ張っていく立場であると認識しています。
――EVのパイオニアである日産がライバルに勝っている部分はどこですか?
中嶋 日産には累計販売57万台以上を誇るリーフの膨大な知見があります。加えて自動車メーカーとしてのノウハウや先進技術も豊富にある。
――アリアは日産が長年磨いてきたEVの知見を徹底的に生かして開発したと?
中嶋 そうです。加えて静粛性や操作性の質を高めることにも注力して開発を進めてきました。
――しかしクルマが良くても、EVにはインフラの問題があります。日本では総世帯数の約40%がマンションなどの集合住宅に住み、都市部では約70%に達します。そしてアリアのような価格が500万円を超える車種は都市部の販売比率がとても高いですよね?
中嶋 そのとおりです。
――つまり、アリアの価格を考えると集合住宅の多い都市部で売りやすい商品ですが、マンションには充電設備を設置しにくいのが実情です。そうなると販売店などの急速充電器を頻繁に使うことになる。急速充電は、従来はバッテリーの劣化が進みやすい欠点がありましたが、アリアは水冷式の温度調節機能を採用しています。
中嶋 急速充電の間に、普通充電を挟んだほうが好ましいですが、マンションに住んでいるなど、自宅で普通充電を使えないお客さまの数も増えています。だから日本では急速充電器の頻繁な使用は避けられません。
そこでアリアは温度調節を綿密に行なうことで、バッテリーに悪影響を与えるサーマルショック(温度の過度な上下動)を抑えました。
――ただ、急速充電器には複数の出力があり、充電の所要時間も変わりますよね?
中嶋 アリアのバッテリー容量は比較的大きく、66kWhと91kWhと長距離移動が可能な半面、急速充電器の出力を高める必要もある。
アリアは130kWの急速充電に対応していますが、実際には25kWとか50kWの急速充電器が多い。そうなると大容量バッテリーの実力を十分に活用できない可能性はあります。
――90kWhのバッテリーを備えたアリアを出力の小さな急速充電器で充電すると、所要時間が長引きますよね。
中嶋 そうです。脱炭素を進める上でも、国や行政には100kWなど、高出力の急速充電器を設置していただきたいですね。やはり急速充電器が進化しないと、アリアのような長距離移動が可能なEVを数多く売るのは難しいですよ。
――つまり、アリアの普及には大容量バッテリーに対応できる高出力の急速充電器が不可欠なわけですね?
中嶋 ですから、日産は高出力の急速充電器を増やすため、各方面にいろいろな折衝を行なっています。
■電力の消費量を抑える走り方とは?
――アリアの注目装備のひとつに、進化した運転支援機能「プロパイロット2.0」があります。今回の試乗でも試しましたが、条件が整えばステアリングホイールから手を離した状態でも運転支援が続きます。
中嶋 ドライバーの負担は大幅に減る装備です。
――ただ、プロパイロット2.0は、ほかの装備も併せて装着されるため、オプション価格は46万5300円とけっこうなお値段になる。やはり、これだけの価格を払うなら、衝突被害軽減ブレーキの性能も向上させてほしいなと。
というのも、プロパイロット2.0には各種のセンサーが豊富に備わり、運転支援だけに使うのは惜しい。そもそも一番優先すべきは、プロパイロット2.0のような運転支援ではなく、安全性の向上では?
中嶋 当然、衝突被害軽減ブレーキの性能は磨き抜きました。プロパイロット2.0の採用で、対象物の捕捉精度が高まったからです。また通常の運転で生じる見落としなどのミスも、プロパイロット2.0の作動中は生じにくい。特に高齢のお客さまの場合はメリットが際立つかと思います。
――今回試乗して感じたのは、アリアはEVらしく走りが滑らかだなと。乗り心地も低速域では少し硬いですが、重厚感が伴い快適でした。
中嶋 ありがとうございます。
――ただし、街中で運転するとボディが少し大きいなと感じたのも事実です。
中嶋 実は北米仕様の全幅は1900mmなんです。日本の場合、道路事情などを考慮すると、極端なワイドボディにはできません。そこで全幅を1850mmに抑えました。
――なるほど。もうひとつ質問があります。電力の消費量を抑える走りについてです。
中嶋 はい。
――アクセルペダルの踏み加減を調整するだけで発進や加速はもちろんのこと、減速をコントロールすることが可能なeペダルのスイッチを入れ、アクセルペダルを戻すと速度が大きく下がり、アリアは減速エネルギーを使った発電を積極的に行なってくれますよね?
中嶋 ええ。
――一方、eペダルをキャンセルしてDレンジのエコモードで走ると、アクセルペダルを戻したときの減速力が大幅に弱まり惰性で走ります。これも電力消費量を抑える走り方のひとつだと思います。
中嶋 そうですね。
――ズバリ、eペダルによる積極的な発電と、速度を下げない惰性走行では、どちらが電力を節約できる?
中嶋 街中ではeペダルが有利です。そして、高速道路ではeペダルをキャンセルして惰性で走ると、電力の消費量を抑えられます。
――では、街中と高速道路の境目は時速何キロから?
中嶋 難しい質問だなぁ。
――いや、電力の消費量を抑えたいユーザーには、走行モードの切り替え速度は切実な問題だと思います。
中嶋 時速100キロくらいかと。
――最後の質問です。アリアは日産のクルマをリードする新フラッグシップ?
中嶋 はい。そしてモビリティの将来像も示したクルマでもあります。
●渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう)
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務める。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書に『運転事故の定石』(講談社)など