4月の新車販売総合ランキングでトップに輝いたのは、ホンダの軽自動車「N‐BOX(エヌボックス)」。これで4ヵ月連続の首位。安定の強さである。しかし、今回の発表で注目を集めているのは2位のトヨタ「ルーミー」だ。大躍進の背景にはいったい何が? 自動車専門誌『月刊くるま選び』の元編集長で、カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏が特濃解説する。
渡辺 5月10日、日本自動車販売協会連合会(自販連)と全国軽自動車協会連合会(全軽自協)が4月の新車販売台数を発表しました。
――ほお! トップは?
渡辺 総合ランキングの首位に輝いたのは、ホンダの軽自動車「N-BOX(エヌボックス)」です。1万5450台を売り、これで4ヵ月連続の1位です。
――まさに〝シン・国民車〟。そして今回の発表で世間をザワつかせたのが2位です。
渡辺 はい、2位は1万1108台をマークしたトヨタの小型ワゴン「ルーミー」です。
――スミマセン、ルーミーってどんなクルマなんスか?
渡辺 ルーミーは全高が1700㎜を超える背の高いコンパクトカーで、後席側にはスライドドアを装着しています。つまりN‐BOXの小型車版のようなクルマです。2016年に発売され、2017年の小型/普通車販売ランキングは11位、2018年は10位、2019年は7位でした。それが2020年に6位になり、2021年は2位(ヤリスシリーズを分割すれば1位)まで浮上しました。
――スゴ!
渡辺 2020年5月に、国内にあるトヨタディーラーの全店が全車を販売する体制に変わり、ルーミーの姉妹車だったタンクが廃止されました。そのために需要がルーミーに集中して、売れ行きが一気に伸びたわけです。
――ふむふむ。ダイハツがルーミーの開発に関わっているってマジ?
渡辺 ルーミーの企画、開発、生産は、すべてトヨタの子会社であるダイハツが行なっています。つまりルーミーは、トヨタに供給されるダイハツ製のOEM車です。当然、ダイハツ版もあり、売れ行きは少ないですがトールというクルマがあります。つけ加えるとスバルにも、ジャスティの名称で供給されていますね。
――ルーミーが2位に躍進した背景には何が?
渡辺 ルーミーは全長が3700㎜(カスタムは3705㎜)と短い5ナンバー車で、視界も良いため運転がしやすい。さらに天井が高いために車内も広く、ファミリーカーとして快適に使える。ちなみに後席を畳むと自転車なども積めます。後席側にはスライドドアを装着しているので、乗り降りもしやすいんですね。
――実用性がとても高いと。
渡辺 はい。しかも今の若いユーザーは、幼い頃からスライドドアを装着するミニバンに親しんで育ちました。一世を風靡した初代ステップワゴンが発売されたのは1996年です。当時5、6歳だった子供は、今は30代ですよね。この世代の人たちには、理屈を抜きにして、スライドドアがクルマのデフォルトであり、スライドドアは付いていて当たり前という感覚があります。
――ほおほお。
渡辺 しかも、ルーミーは機能が合理的で、売れ筋価格帯も150~200万円台前半と非常にお求めやすい。さらにスライドドアも装着されている。その結果、ジワジワと人気を集め大ヒット作になりました。
――ライバル車は?
渡辺 スズキのソリオです。ソリオは設計が新しく、動力性能、走行安定性、乗り心地、内装の質感などはルーミーを上回りますが、スズキは軽自動車が中心のメーカーとされています。都市部の販売店も少なく、主に販売力でトヨタのルーミーに差をつけられていますね。ちなみに今年4月のソリオの登録台数は1772台なので、ルーミーの16%です。
――渡辺さん、ルーミーはN‐BOXの牙城を崩せる?
渡辺 それは難しいでしょうね。というのも、N‐BOXは背の高い軽自動車の代表で、同時にホンダ車の代表でもあります。それが証拠に今年4月に国内で販売されたホンダ車のうち、37%をN‐BOXが占めました。N‐BOXは、フィットやフリードといったほかのホンダ車の需要を吸い取るモンスターカーでもあります。ルーミーは、ヤリスやアクアといったほかのトヨタ車の需要を奪うほどではないので、N‐BOXの牙城は切り崩せません。
――では、最後に今後の予想を!
渡辺 ホンダの販売店では「N‐BOXも半導体を始めとするパーツの供給が滞り、最近は納期が延びている」とコメントしています。さすがのN‐BOXも、売れ行きを下げる可能性がありますが、ルーミーには抜かれないでしょう。またトヨタは納期の遅延が深刻で、フルモデルチェンジや改良も重なり、販売店では「シエンタやカローラツーリングなど、約10車種の販売が中断している」との声が出ていますね。
――なるほど。
渡辺 これらの点を踏まえると、販売ランキングに大きな変動は出ないでしょうね。そして販売ランキングは、本来は人気のバロメーターですが、今はパーツの供給状況に大きく左右されます。売れ行きが下がったから不人気とか、販売ランキング順位が高まったから人気も上昇したとは一概には言えません。逆に言うと、自動車業界はとても厳しい時代を迎えていますね。
☆渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう)
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務める。著書に『運転事故の定石』(講談社)など。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員