「自由な移動の喜びを環境負荷ゼロで達成していくため、私たちが提供するモビリティや、動力源であるパワーユニットのカーボンニュートラルを進めていきたい」と4月12日の会見で語ったホンダの三部敏宏社長 「自由な移動の喜びを環境負荷ゼロで達成していくため、私たちが提供するモビリティや、動力源であるパワーユニットのカーボンニュートラルを進めていきたい」と4月12日の会見で語ったホンダの三部敏宏社長

4月12日、ホンダはEV(電気自動車)に関する新たな戦略を発表した。すでにホンダは2040年に新車販売をすべてEVかFCV(燃料電池車)にし、ガソリン車からの撤退方針を宣言しているが、より具体的な方針が掲げられたという。自動車専門誌の元編集長で、カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏が特濃解説する。

渡辺 ホンダが4月12日、EVの新戦略を発表して話題を呼んでいます。

ーー具体的には?

渡辺 2030年までに世界で30車種のEVを投入し、年間200万台以上を生産する計画です。日本市場では、再来年に軽自動車サイズの商用のEVを100万円台で投入します。その後、個人向けのEVも販売するそうです。

ーーへぇー。ちなみに200万台という数字はどの程度の規模なんスか?

渡辺 昨年ホンダの新車生産は世界で約414万台でした。おおよそ、その半分をEVにしようという話ですね。

ーーえっと、けっこうスゴい話ですよね?

渡辺 はい。ホンダは今後10年間でEVや、それに関連するソフトウエアなどの研究開発に5兆円、ほかの研究開発費も含めると8兆円を投資するそうです。

ーーマジか!

渡辺 ほかにもEVのキモであるバッテリーに関しては、ホンダが提携しているアメリカのGM(ゼネラル・モーターズ)から調達し、別のメーカーとの合弁会社の設立も検討中とのこと。

ーー次世代の電池として各社がしのぎを削る"全固体電池"についての発表もあった?

渡辺 はい。430億円を投資し、2024年の春に実証ラインを立ち上げると。

ーーこのタイミングで発表したワケは?

渡辺 そもそもホンダは、昨年の時点で2040年に販売する新車のすべてをEV、FCV(燃料電池車)にする目標を掲げています。今回はより具体的な計画を示すことで、世界的に広がる電動化の波に乗り、EVシフトを加速させるのが狙いでしょうね。

ーーふむふむ。

渡辺 それとトヨタが昨年末にEVに関する具体的な発表を行なっていますから、ホンダも続いた事情もあるかと。

ーーというと?

渡辺 トヨタは2年連続で世界販売ランキング1位に輝いた顔も持つトップメーカーです。自動車業界への影響力も強く、その動向次第でほかのメーカーの動きも変わります。やはりトヨタに比べて対応が遅いと、企業としての評価が下がる可能性があるかと。

昨年12月14日、東京・お台場近くにある施設で会見が行なわれ、トヨタは16台もの新型EVを突如公開した(撮影/三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY) 昨年12月14日、東京・お台場近くにある施設で会見が行なわれ、トヨタは16台もの新型EVを突如公開した(撮影/三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY)

ーートヨタが掲げたEVの目標はどんな感じでしたっけ?

渡辺 トヨタは2030年までに30種類の新型車を発売し、EVの年間生産目標を350万台にすると発表しています。

ーーズバリ、今回のホンダの発表のガチ度は?

渡辺 国内でもEVをめぐる競争はかなり激しくなりそうです。また、EVに関する提携も多角的に進むとにらんでいます。

ーー余談ですが、昨年の国内のEV市場はどの程度?

渡辺 2021 年度(2021年4月から2022年3月)の国内におけるEVの販売台数は、乗用車市場全体では0.7パーセント、軽自動車を除いた小型/普通乗用車に限定しても1.1パーセントです。日本市場のEV普及は進んでいません。

ーー"EVの絶対王者"であるイーロン・マスク率いるテスラの昨年の販売台数は?

渡辺 93万台以上です。

ーートヨタ、ホンダが立て続けにEV戦略を発表した背景には何があるんスか?

渡辺 トヨタやホンダは以前からEVの研究開発を進めていました。ただし日本のメーカー、特にトヨタに限ると、全世界の170に及ぶ国と地域でクルマを販売しています。したがってEVに特化するようなアピールはできせん。

ーーなぜアピールできない?

渡辺 電力事情が劣悪で、EVを所有できない地域を見捨てることになるからです。そのために、他社に比べるとEVに関する表現が控えめでした。それもあり、現状ではトヨタの技術力や開発力が海外メーカーに比べ、遅れているようにも見えてしまいます。

ーーなるほど。

渡辺 そこで、EVシフトが進む中国や欧州市場の受け止め方も考慮して、EV戦略が発表されたわけです。トヨタのやっていることは、基本的に以前と同じですが、各種の論調を含めて市場の見方が変化してきたので、トヨタも表現方法を変えてきたのだと思います。


☆渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう) 
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務める。著書に『運転事故の定石』(講談社)など。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員