販売するクルマを2035年までにすべてEV化するという目標を掲げているレクサス。その先陣を切るRZが世界初公開された。試乗した自動車研究家の山本シンヤ氏にその仕上がりなどを聞いた。
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■EVブランドになるレクサスの先陣が登場
山本 ついにトヨタのプレミアムブランドであるレクサス初のEV専用モデル「RZ」が公開されました。
――ほお! ちなみに昨年12月にレクサスは大きな発表をしていますよね?
山本 はい。レクサスは2035年までに販売する新車をすべてEVにする計画を発表しています。つまり、RZはレクサスのEVブランド移行の起点となるモデルでもあるんですよね。
――なるほど。ザックリ言うと、RZはどんなクルマなんスか?
山本 世界的に売れ筋となっているSUVタイプのEVで、航続距離は約450km。搭載されている電池は10年が経過しても当初の90%以上の容量をキープするなど、劣化に対する性能をしっかり高めてきています。
――発売時期や価格は?
山本 今冬以降に売り出される予定です。価格や発売地域は今後発表されると思います。ただ、レクサスの主力市場は欧米や中国で、販売台数の8割以上を占めています。僕が取材した感触だと、まずEVの普及が進んでいる国々から発売すると思いますね。
――ふむふむ。トヨタのbZ4Xとその兄弟車であるスバルのソルテラとの関係性は?
山本 この3台のプラットフォームはe-TNGAなど主要部品は共用していますが、それ以外の構成部品、制御系、味つけに関してはレクサス独自で行なっています。
――山本さんは世界初公開に先駆け、そんなRZのプロトタイプを試乗したそうで?
山本 世界一過酷といわれるドイツのサーキット場、「ニュルブルクリンク」を模したトヨタ下山テストコース・第3周回路で試乗しました。
――えっと、下山テストコースはどこにあるんスか?
山本 愛知県豊田市と岡崎市ですね。総額約3000億円を投資し、用地取得や施設建設を進めています。いち早く完成した全長約5.3kmの第3周回路は、自然の地形を生かした約75mの高低差と多数のカーブが入り組んでおり、かなり厳しい走行環境を持つテストコースです。
――RZを試乗した感想は?
山本 ズバリ、ラクに速く走れました。
――もう少し言うと?
山本 驚きはハンドリングで、目線が高く2t近い車両重量のSUVながら、スポーツカーのごとく路面に張りついているかのように曲がります。機械に強制的に曲げられているのではなく、とても自然でシームレスなので、まるで自分の運転がうまくなったと錯覚してしまう。
――トヨタのbZ4X、スバルのソルテラとは違う走りに仕上がっている?
山本 そのとおりです。RZは力強さを感じますが、滑らかにスーッと加速し、いつの間にか速度が出ているというフィーリングですね。
――へぇー。ちなみに昨年12月にトヨタが行なったEVに関する会見で、RZの動画が流されました。その動画でトヨタの豊田章男社長がRZのハンドルを自ら握りアクセルを踏み込んだ瞬間、「えぇぇ!ナニコレ?」と熱狂していました。山本さん、その理由は試乗してわかりました?
山本 ええ。これまでのクルマでは実現できなかった「ドライバーの意図に忠実な走り」と「驚きのコーナリング」に豊田社長は熱狂していたんだなと。
――ほかにRZで注目した点は?
山本 インバーター音や風切り音、タイヤノイズなども見事に抑えられており、たとえるならば「初代LSの再来」と言っても過言ではないレベルでしたね。
――一切注文はない?
山本 ありますよ。RZはノーマル仕様のみの設定で、Fスポーツの設定がありません。「EVの普及をトヨタが担う」というなら、レクサスはもう少しEVに対して〝攻め〟の姿勢があってもいいと僕は思いますね。
●山本シンヤ
自動車研究家。自動車専門誌の元編集長。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ワールド・カー・アワード選考委員。YouTubeチャンネル『自動車研究家 山本シンヤの「現地現物」』