5月20日、日産と三菱が発表した軽EVが話題を呼んでいる。しかし現在、日本市場におけるEVのシェアは1%未満。正直、EVの普及はまったく進んでいない。日産と三菱が放った軽EVは、ゲームチェンジャーの役目を担えるのか? 自動車専門誌の元編集長で、カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏に話を聞いた。
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――日産と三菱が共同開発した軽EVが話題を集めています。
渡辺 5月20日に発表された新しい軽EVは、ガソリンエンジンを搭載する軽自動車と同様、日産と三菱が共同で開発しました。日産は「サクラ」、三菱自動車は「eKクロスEV」です。デザインはだいぶ違いますが、メカニズムは両車ともに共通です。
――現在、軽は国内の新車販売で約4割のシェアを誇る、まさに〝シン・国民車〟です。
渡辺 国と自治体のEV購入補助を合計すると、100万円台前半というガソリン車並みの価格で買える地域もあります。正直、サクラとeKクロスEVは日本のEV普及のトリガーになる可能性を秘めていると思いますね。
――とはいえですよ、登録車のEVは車載電池の価格が高く、日本市場におけるEVのシェアは1%未満です。
渡辺 ですから、日産と三菱の軽EVは航続距離を180㎞に抑えて価格を下げてきましたよね。ちなみに日本で軽自動車の主な役割は買い物や通勤通学などです。日産も、「軽自動車の1日あたりの走行距離は半数以上が30㎞以下」と説明しています。
――今後、国内の軽のEV化はどうなるの?
渡辺 ホンダは2024年、スズキとダイハツは2025年までに軽自動車サイズのEVを販売する方針です。日本では軽自動車を中心にEVが普及していくのではないかと予想しています。というのも、軽自動車は街中を中心に使うため、走行距離はそれほど伸びない。私は軽とEVの親和性は髙いと思いますね。
――渡辺さん、軽EVが普及する課題は何です?
渡辺 一番の課題は、使い終わったリチウムイオン電池の再利用です。蓄電池などに再利用する流通システムが確立されると、EVのリセールバリューは一気に高まりますよね。現在、EVは売却時に損をすると言われますが、逆にリチウムイオン電池が高値で売られるようになると話はガラリと変わります。
――ほお!
渡辺 極端にいえば、廃車にするEVでも、リチウムイオン電池の価値は残ります。そうすると税金から捻出する補助金を減らしても、ユーザーが損失を被らないようになります。
――なるほど。
渡辺 現状では補助金を確保することがEV普及に不可欠ですが、そもそも税金を使った補助金に頼る販売は、本来の自動車販売のあり方ではないですよね。EVが独り立ちするには、電池の再利用が不可欠で、そこが普及する上での最大のキモでもあります。まぁ、トヨタも電池の再利用に本腰を入れるので、今後の動向に期待したいですね。
☆渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう)
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務める。著書に『運転事故の定石』(講談社)など。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員