5月27日に発売となった6代目「ステップワゴン」。初代は1996年に誕生し、累計販売台数は169万台以上を誇る。まさにホンダの看板モデルのひとつだ。しかし、近年の販売ではライバルに大苦戦。今回の新型でどう反転攻勢に出るのか?
自動車専門誌の元編集長のキャリアを持つ、カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう)氏が6代目の開発トップ・蟻坂篤史(ありさか・あつし)氏を粘っこくインタビューした!
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■ライバル車に乗って開発した
――現在、国内で販売するホンダ車の約30%をN-BOXが占めています。そこにほかの軽自動車とコンパクトカーを加えると、80%を軽く超えてしまいます。
蟻坂 そのとおりです。
――薄利多売のダウンサイジングが進むホンダのなかで、新型ステップワゴンはこれからどんな役割を果たすのでしょうか?
蟻坂 はい。新型ステップワゴンは、価格が高まったミニバン市場の一角に食い込めるよう開発を行ないました。
――具体的には?
蟻坂 歴代ステップワゴンのすべてを見直しました。そこでわかったことは、お客さまが求めているのは〝ミニバンの基本価値〟だと。ですから、今回は飛び道具的な装備は一切採用していません。
――すみません、ミニバンの基本価値とはなんですか?
蟻坂 デザイン、乗り降りのしやすさ、室内の広さ、便利なシートアレンジなどですね。それを新型はとことん突き詰めました。
――ただ、新型ステップワゴンは、フロントマスクなどの外観が控えめです。ミニバンの売れ筋である〝オラオラ顔〟を避けた理由というのは?
蟻坂 市場調査を行なうと、ミニバンにスタイリッシュさやスポーティさではなく、ナチュラルさやクリーンさを求めるお客さまが約30%いる。そこで、新型はエアーとスパーダを用意しました。
エアーは従来型と異なり、ナチュラルさやクリーンな雰囲気のミニバンを好むお客さまに向けて開発しました。スパーダも従来のスポーティ路線を踏襲していますが、メッキの過剰使用は控えています。
――ちなみに蟻坂さんは、ライバル車にお乗りになったことはあるんですか?
蟻坂 開発の過程で他社のミニバンに乗りました。先代のステップワゴンがライバルに負けていたとは思いませんが、気になる点はありました。
――それはなんです?
蟻坂 後席のノイズが他社の商品よりも少し大きかった。そもそもステップワゴンの3列目は床下格納を採用しているため、シートを使用すると、車内に走行音が筒抜けとなり騒がしかった。新型は車内の音を改善し、どの席でも会話が楽しめます。
――ノイズ以外は問題ナシ?
蟻坂 いいえ。クルマ酔いはお客さまにとって切実な問題です。そこで新型は2列目、3列目からも前方がしっかり見えるよう改良しました。
――どの席でも前方の視界が確保されていると。要は見晴らしがいいわけですよね?
蟻坂 はい。そして新型では疲れないシートも開発しました。特に2列目、3列目の座り心地はライバルに負けていないと思います。
――シートにどんな工夫をされたんですか?
蟻坂 開発当初は、運転席同様、2列目も体のホールド性を考えていましたが、くつろげることが大切だなと。で、2列目のシートは適度に沈み込むよう調整を繰り返して仕上げました。また、サスペンションも改良し、座り心地をより快適にしてあります。
――あと気になるのはエアーというグレード名です。これは単純に空気という意味?
蟻坂 おっしゃるとおりです。
――正直、異性から「あなた、空気みたいな人ね」と言われたらいやですよ。なぜエアーというグレード名に?
蟻坂 空気はあって当たり前です。逆に空気がないと人は死んでしまいます。〝常に寄り添ってくれる存在〟という意味を込めて命名しました。
――最後の質問です。仮に蟻坂さんが新型を買うならどの仕様にします?
蟻坂 購入するならe:HEVのエアーで、ボディカラーはガンメタ(スーパープラチナグレー・メタリック)ですね。私はエアーに装着されたファブリックシートの優しい座り心地が大好きなんです。
●渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう)
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務める。著書に『運転事故の定石』(講談社)など。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員