2022年上半期(1~6月)の新車販売総合ランキングで、ホンダの軽自動車「N-BOX(エヌボックス)」が10万3948台をマーク! 軽自動車だけでなく登録車を含んだ新車販売でぶっちぎりのトップに輝いた。人気の背景にはなにが? 自動車専門誌の元編集長で、カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説する。
渡辺 7月6日、日本自動車販売協会連合会と全国軽自動車協会連合会は、2022年上半期(1~6月)の車名別新車販売台数(速報)を発表しました。
――トップに輝いたのはホンダの軽ハイトワゴン、『N-BOX(エヌボックス)』です。
渡辺 10万3948台を販売し、2年ぶりにトップに返り咲きましたね。ちなみに現行型は2017年に発表された2代目モデルで、昨年12月にマイナーチェンジを受け、ファン待望の電動パーキングブレーキなどを搭載して商品力を高めました。
――ただ、新型コロナ感染拡大などの影響で、軒並み半導体や部品が不足しており、現在、新車販売は伸び悩んでいます。渡辺さんは、今回のN-BOXの10万3948台という数字をどうご覧になっています?
渡辺 これまでの新車販売ランキングでは、新車の人気がストレートに反映されていました。しかし今は、納期の与える影響が非常に大きくなっています。人気車であるのはもちろんのこと、半導体を含めたパーツ、樹脂、塗料などの供給状況が安定していないと販売ランキングの上位を維持できないからです。
――つまり、半導体などの供給状況と納期次第で販売ランキングが変わると?
渡辺 そのとおりです。そして最近のN-BOXはパーツなどの供給状況が悪化して納期も遅延気味でした。そのため5月の届け出台数は、前年比61%まで落ち込み、販売ランキングの順位も下がっていました。それが6月は前年比87%まで回復しています。2022年上半期では唯一10万台を突破し、国内販売の1位になりました。納期がある程度戻ってきているように思いますね。
――ちなみに昨年初のトップに立ったトヨタのヤリスシリーズは?
渡辺 前年比31・5%減の8万1580台で2位でした。トップに輝いたN-BOXとの差は2万2368台と大きく開きました。つけ加えると、ヤリスシリーズの台数には、コンパクトカーのヤリス、SUVのヤリスクロス、少数ですがスポーツモデルのGRヤリスが含まれています。ボディタイプが違うため、ヤリスとヤリスクロスを別々に算出すると、両車ともにそれぞれ約4万台です。
――3位は?
渡辺 統計上ではヤリスシリーズに続き3位もトヨタで、7万988台を販売したカローラシリーズです。ただし、こちらもセダン、SUV、ワゴンなどをすべて合計した台数です。そして4位もトヨタで、6万5525台のルーミーです。実はボディタイプ別に見ると、小型/普通車の実質的な1位はルーミーです。ヤリスシリーズもカローラシリーズもボディタイプが違うモデルの合算ですが、ルーミーは単体でこの数字を叩き出しているからです。ちなみに5位は日産のノートシリーズで5万6948台でした。
――渡辺さん、上半期の順位を見た率直な感想は?
渡辺 現在、トヨタを除くと、各メーカーとも軽自動車に力を注いでいます。上半期の国内販売のシェアを見ると、日産は38%、ホンダは54%が軽自動車でした。特にホンダの場合、国内販売台の36%をN‐BOXが占めています。
――それにしても"シン・国民車"と呼ばれるN‐BOXが大人気のワケは?
渡辺 まず商品力が高い。軽乗用車では最大級の室内空間を備え、内装の質感、乗り心地、静粛性もライバル車より格段に優れています。そして先代型も好調に売られていたので、現行型への乗り替え需要も多く、いわゆる"売れる好循環"にハマっています。
――N‐BOXに懸念材料はない?
渡辺 ありますよ。N‐BOXは同じホンダのフィットなどコンパクトカーの需要を奪っており、ホンダのブランドイメージまでダウンサイジングさせています。その結果、ホンダの場合、軽自動車にフィット、フリード、ヴェゼルのコンパクトカーを加えると、国内販売総数の約70%に達します。ミドルサイズ以上の車種は売れなくなり、認知度の高いオデッセイの生産も終わってしまいました。
――なるほど。では、最後に下半期の新車販売の展望をお願いします。
渡辺 依然として先が見通せない状況が続くと思います。半導体やパーツの供給不足による生産調整は今後も続くでしょう。また、ウクライナ危機による原材料や原油価格の急騰も懸念材料になるかと。ですから、新車の購入を検討している場合は、なるべく早く商談を開始したほうがいいと思います。
●渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう)
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務める。著書に『運転事故の定石』(講談社)など。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員