9月29日に発売されるホンダの新型バイク「ホーク11」の報道試乗会が山梨県山中湖村で開催された。新型の目玉はもちろん、鬼のような存在感を誇る「ロケットカウル」だ。
なぜホンダはロケットカウルを標準装備にしたのか? そして、気になる走りの実力とは? モーターサイクルジャーナリストの青木タカオ氏がガツンと迫った。
* * *
■ロケットカウルが大好きな開発陣
休日、こだわりの革ジャンを着て、半日ほどサクッとバイクに乗る。例えば首都圏在住なら、山中湖あたりへ早朝から出かけ、ワインディングでライディングを満喫し、午後には帰宅して家族や恋人、あるいは友人たちとの時間を大切にする。
そんなオトナのバイクの楽しみ方を実現できるのが、ホンダが9月29日に発売する大型ロードスポーツモデル「ホーク11(イレブン)」。
実はこれまで国内の二輪は出力の大きいモデルがファンに称賛され、追い求められてきた。しかし、ライダーがその手のバイクでツーリングへ出かけると、程よいパワーや扱いやすい出力特性、そして〝人車一体〟となり操れる素直なハンドリングのバイクこそが本当の相棒だと気づく。
その事実を熟知するベテランに向け、ホンダが日本市場専用のニューモデルを出した。それがホーク11である。昨今は市場が大きい海外向けモデルが主流だし、国内の二輪メーカーはライダーの若返りを図り、若者や新規層をターゲットに製品開発をする。そういう意味ではホーク11は異例のモデルだろう。
しかも、ホンダはこの新型バイクに伝説のモデル「ホーク」の名前を与えた。1977年に登場したのがCB400TホークⅡとCB250Tホーク。その丸い燃料タンクは〝やかんタンク〟と呼ばれ親しまれた。
つけ加えると、現在、CB250Tホークが大ヒットマンガ『東京卍リベンジャーズ』に登場し、脚光を浴びている。
今回、ジャーナリスト向けの試乗会でワインディングを走ったわけだが、パラレルツインエンジンの鼓動やパルス感のある排気音を感じながら軽快な走りが楽しめた。峠では本格的なスポーツライディングが楽しめるセパレートハンドルを備えるも、前傾姿勢は比較的緩めで窮屈さを感じず、首や腰は痛くならない。
注目はやはりド派手なロケットカウルだろう。この鬼のような存在感はハンパない。そう伝えると、ホーク11の開発責任者代行の吉田昌弘氏は笑顔でこう言った。
「〝走りの楽しみを忘れない大人のバイク〟であることの象徴として開発当初からロケットカウルの採用を前提としていました。ロケットカウルはホーク11に欠かせません」
ロケットカウルは1960~70年代のレーシングマシンをモチーフにしたもので、その役割は風防。つまり、ロケットカウルとはバイク走行時、体の負担となる風圧を軽減するもの。この機能の強化はもちろん、開発陣は造形美にもこだわり抜いた。
「ロケットカウルとリアカウルをFRP製としています。通常の量産における樹脂成型の金型方案から解放され、巻き込むような立体的造形をパーティングライン(継ぎ目)のない、一体成型することで可能としました」
ホンダでは1985年に登場したGB400TT(ツーリストトロフィー)MkⅡ以来となるロケットカウル。このこだわりのフォルムをつくり上げたのが、デザインを担当した八重樫裕郁(やえがし・ひろふみ)氏だ。
「実はGB400TT MkⅡを所有していまして。仕事ではなく、趣味でアルミ叩き出しのロケットカウルをつくっているんですよ」
八重樫氏は自他共に認めるロケットカウル大好き人間だ。要するにロケットカウル好きすぎ人間の渾身(こんしん)作がホーク11なのである。
「昔の車体と違ってベースとなるのが最新モデルなので、どうロケットカウルとマッチングさせるかが難しかった」
新車でありながらカスタムバイクのようなたたずまいなのも納得である。今回、陰影の深い落ち着いたブルーの車体に乗ったが、木漏れ日がカウルやタンクに映り込む姿が実に美しかった。
もちろん、注目点はロケットカウルだけではない。実はホンダの大型モデルはクラッチレバー操作のいらないDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)の搭載が進んでいる。
そのなかで、「スポーツカーのように操る楽しさを味わってほしい」という願いを込め、ホーク11は6速マニュアルのみとしているのも見逃せないところ。
では、ホーク11は上級者にしか推せないモデルか? いや、そんなことはない。ビギナーやリターンライダーにもオススメできるマシンである。初心者が乗れば、きっとウイスキーの味を初めて知ったような、オトナの階段を上る感激が得られるはず。
●青木タカオ
モーターサイクルジャーナリスト。著書に『図解入門 よくわかる最新バイクの基本と仕組み[第4版]』(秀和システム)など。『ウィズハーレー』(内外出版社)編集長。YouTubeチャンネル『バイクライター青木タカオ【~取材現場から】』