6月6日、家族4人を死傷させた東名あおり運転やり直し裁判で、横浜地方裁判所は危険運転致死傷罪を適用できると判断し、被告に懲役18年を言い渡した。
この事故を契機にあおり運転の危険性に注目が集まったが、実際にあおり運転を受けた場合、われわれはどう対応するべきなのか? また、あおり運転を回避する運転術はあるのか?
交通事故をテーマにした著書を持ち、取材経験も豊富な、カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏が特濃解説する。
■バックミラーを常に意識する
――2017年、神奈川県の東名高速道路で路上に停車したワンボックスワゴンがトラックに追突され、家族4人が死傷した痛ましい事故では、石橋和歩被告(30歳)のあおり運転が事故を引き起こしたとして、危険運転致死傷などの罪に問われました。
渡辺 横浜地方裁判所は6月6日、危険運転致死傷罪を適用し、懲役18年を言い渡しましたが、石橋被告はこの判決を不服とし、同日に東京高等裁判所に控訴したそうです。
――こんなあおり運転には巻き込まれたくないですね!
渡辺 当然です。この事件を受けて2020年6月には、あおり運転を取り締まる「妨害運転罪」が創設・施行されました。1回の違反で運転免許を取り消し処分、最長で5年の懲役です。
――これによってあおり運転は減った?
渡辺 警察による取り締まりも実施されていますが、残念ながら全国各地であおり運転は相次いでおり、依然として年間1万件を上回っています。つけ加えると、取り締まりの件数というのは取り締まりの頻度により、その数が大きく変動します。
なので正直、実際のあおり運転によるトラブルはさらに多いと思いますね。特に行楽シーズンは高速道路上でのトラブルが多いようなので注意が必要です。
――あおり運転を受けたときの対処法はありませんか?
渡辺 あおり運転に巻き込まれないための対策を、まとめてみましょう。
――お願いします。
渡辺 警察庁の調査によると、加害者の96%が男性とされています。あおり運転の動機は「進行を邪魔された」が35%、「割り込まれた、追い抜かれた」が22%、「車間距離を詰められた」が8%などとなっています。つまり、「被害者に邪魔をされた」と感じたケースが約7割です。
――へぇー!
渡辺 あおり運転は絶対に行なってはいけない危険な行為ですが、実はあおられる側の運転のやり方が発端になる場合もあるんです。
――だとすると、具体的にどんな運転をすればいい?
渡辺 端的に言えばスムーズな運転を心がけることですね。例えば高速道路を走る場合、追い越し車線は必要なとき以外は使わないようにする。3車線の高速道路の場合、左側から第1走行車線、第2走行車線と呼び、右端の車線が追い越し車線になります。
――なるべく第1、あるいは第2走行車線を走れと。
渡辺 そうです。そして走行車線から追い越し車線へ移るときは、必ず加速しながら車線変更を行ない、追い越し車線を走ってきた後方の車両が自車に接近しないように配慮します。周囲の車両の邪魔にならない運転を意識すること。
――でも、休日の高速道路で、追い越し車線を走り続けるクルマをよく見ますが?
渡辺 アレは違反です。本来、高速道路の追い越し車線は①追い越しをするとき。②緊急自動車に道を譲るとき。③道路状況その他のやむをえないときに限る。そういう車線なんです。
長時間にわたって走り続けると取り締まりの対象になり、反則金は大型車が7000円、普通車と二輪車は6000円です。ちなみに反則点は1点の減点です。
――仮に第1、第2走行車線であおり運転をされたら?
渡辺 相手を刺激せず、車線変更して道を譲る。それが賢明でしょうね。
――ほかに注意すべき点は?
渡辺 周囲のクルマの邪魔をしない、反感を買わない運転を心がけることです。例えば街中の2車線道路を走っているとき、隣のクルマが十分な車間距離を確保して走っていたとします。このときに自車が急加速して、隣の車両の前側に割り込めば、イラッとするドライバーもいるはず。
――逆に割り込みなどをされたときは?
渡辺 一般的には「譲り合い」の運転をしろといわれますが、なかなかそんな気持ちにはなれませんよね。そこで、「自分は運転が上手なドライバーで、割り込んだ相手は運転がヘタで、しかもマナーが悪い」と思うこと。
そして、「自分が相手をあおるような報復運転をしたら、運転がヘタでマナーも悪い相手のクルマが、周囲の車両に迷惑をかけるかもしれない」と考えましょう。
――なるほど。ちなみに冒頭で触れた東名あおり運転事件では、高速道路の追い越し車線上で被告がクルマを停止しました。こういうときの対処法は?
渡辺 高速道路上は、もちろん駐停車禁止で、極めて危険です。事故が発生する可能性が高く、路上の駐車は厳禁です。あおり運転を受けたら、自分に非がなくても、手を振るとかハザードランプを2回程度点滅させ、相手を落ち着かせます。それでも相手が諦めないときは、左側に車線変更して、ハザードランプを点滅させ、路肩に駐車します。
――その後の行動は?
渡辺 ドアは必ずロックして車内から出ないこと。車外へ出ると、相手から暴力を受ける恐れがありますし、逆に理性を失い応戦してしまうと、さらに大きなトラブルに発展してしまいます。そして車内でジェスチャーも交えて、「ごめんなさいね」という意思を示すことが大切です。
不本意かもしれませんが、まずは相手を落ち着かせることが重要です。ただし、危険を察知した場合は、スマホなどですぐに警察へ連絡を入れること。
――街中の場合は?
渡辺 必ず人目のある場所にクルマを停車させます。相手の行動を抑制できる可能性がありますし、トラブルに発展しても、周囲の人が警察に通報してくれることも期待できます。また、クルマにドラレコを装着するのも有効です。
そして相手が接近したら、スマホやドラレコで相手の行為を録画しておきましょう。相手が現場から立ち去っても、捜査や裁判で役立つ場合がありますし、何より自分に非がないことを証明する手段にもなりますからね。
――ドラレコは有効?
渡辺 最近のドラレコはWi-Fi接続機能やスマホと連動する機能も搭載されていて、録画映像をSNSやクラウドなどへ手軽にアップロードできます。ただし、フルスペックのドラレコの実勢価格は4万円以上なので、購入は簡単に決められないかと。
――値が張りますからね。
渡辺 懐具合に応じて、カー用品店で売っている「ドラレコ撮影中」のシールも一定の効果はあると思います。
――なるほど。
渡辺 あとバックミラーを常に確認することも重要ですね。ルームミラーやサイドミラーを意識的にしっかり確認していると、前後左右にいるすべての車両の動きを常に把握できます。
――そういう要注意車両を事前にマークしておくと?
渡辺 はい。特に行楽シーズンは高速道路の渋滞が多く、イラついたドライバーが増えます。あおり運転に遭遇したら道を譲り、とにかく関わり合わない。危険を察知したら迷わず警察に通報しましょう。
●渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう)
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務める。著書に『運転事故の定石』(講談社)など。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員