ついにトヨタが誇るスポーツカー「スープラ」にファン待望のMTが搭載された。さっそく、サーキット試乗した自動車研究家の山本シンヤ氏がその実力に迫った!
山本 6速MTを追加したファン待望の新型スープラに試乗してきました。場所は千葉県袖ケ浦市にあるサーキット「袖ヶ浦フォレストレースウェイ」です。
――おおー! ついに試乗したんスね。率直な感想は?
山本 今回の改良は6速MTの追加が話題となっていますが、実はフットワークやデザインなど車両全体に手が入っています。GRスープラとしては2回目のアップデートになりますが、今回の改良は1回目(2020年)に匹敵する"伸び代"と言えるでしょう。
――というと?
山本 実際に走らせると、「成熟」という言葉がふさわしい印象でした。2019年に17年ぶりの復活をとげた初期モデルは、ハイパワーFRらしい、ちょっと火傷しそうな"ジャジャ馬"な乗り味でした。
しかし、登場からわずか1年で改良。エンジン出力アップやボディ剛性向上、サスペンションの最適化など本格的なもので、その結果、"サラブレッド"に近づいた印象です。今回の新型はさらに磨き抜かれ、クルマとしてのバランスが整ったと思っています。
――つまり、6速MTを追加しただけではないぞと?
山本 そのとおりです。
――そもそも、なぜトヨタは20年ぶりに6速MTをスープラに追加した? 世界的にはツーペダルのトランスミッションが主流ですよね?
山本 スープラの開発責任者である硲文彦氏を直撃したんですが、答えは単純明快でした。ズバリ、ユーザーから「スープラをMTで乗りたい」という声が非常に多かったと。GR86の6MTで磨いた腕をスープラで試したいけど、ATでは物足りない......というわけです。
――確か5代目となるGRスープラは、BMWとの共同開発でしたよね?
山本 はい。
――新型に搭載された6速MTはBMWに存在するものを使用した?
山本 いいえ。実はGRスープラのために新設計されたものです。具体的には3シリーズのシフトケースにM4のギアを組み合わせたそうです。さらにシフトの形状やシフトフィールもGR独自の味付けになっています。
――この6速MTはBMWにも搭載するんですか?
山本 実は384ps/500Nmを発揮する直列6気筒ターボエンジンとこの6速MTの組み合わせはBMWには存在しません。つまり、GRスープラのみです。
――開発期間を遡ると、新型コロナウィルスの感染拡大で大変な時期だったのでは?
山本 開発責任者である硲氏に聞いたら、「ベルギーにある欧州拠点に、トヨタの味をよく知るテストドライバーのヘルフィ・ダーネンスがいますので、彼が評価を担当しました。
並行して開発中の6MTを日本に送ってもらい、日本でも評価を行ないました。リモートとリアル、ハイブリッドなやり取りでカバーしました」と語っていましたね。フィーリングの部分を言葉で伝えるのは苦労したそうです。
――山本さん、この新型を誰に推します?
山本 まずはデビュー時に「MTだったら、買ったのに」と言っていたユーザーさんでしょうね。
――ふむふむ。
山本 あとこれは余談ですが、今年の東京オートサロンでトヨタの豊田章男社長が、「(日産のフェアレディ)Zには負けませんから!」と語り大きな話題を呼びました。この発言はスープラにMTを追加する"におわせ"だったと僕は思っています。
――なるほど。確か豊田社長は東京オートサロンで日産ブースへ突撃しましたよね?
山本 はい。新型フェアレディZのコックピットに滑り込んでいましたね。ですから、ぜひ、日産の内田誠社長兼CEOにもトヨタ渾身のスープラMTに乗っていただき、日本のスポーツカー文化を盛り上げてもらいたいですね。
●山本シンヤ(Shinya Yamamoto)
自動車研究家。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ワールド・カー・アワード選考委員。YouTubeチャンネル『自動車研究家 山本シンヤの「現地現物」』を運営