走りはとてもパワフルで、あらゆるシーンで余裕を感じさせてくれる。迫力満点のサウンドもまさにスポーツカーだ

今年1月14日、日産は7代目となる新型フェアレディZの日本仕様を発表し、ファンを熱狂させた。そんな話題の新型を北海道足寄(あしよろ)郡陸別町にある「日産自動車北海道陸別試験場」で試乗。現地に飛んだモータージャーナリストの竹花寿実氏がその仕上がりを徹底チェック。開発担当者にも話を聞いた。

■低く吠えるエグゾーストサウンド

1969年に「S30型」と呼ばれる初代モデルがデビューしてから53年となる今年、7代目となる日産「フェアレディZ」が登場した。

すでに524万1500円スタートという価格も発表され、受注も絶好調だ。今月19日には、予想以上にバックオーダーを抱えてしまい納期が見通せないため、7月いっぱいで受注をいったんストップする旨がアナウンスされた。

そんな大注目の新型フェアレディZに、北海道足寄郡陸別町にある「日産自動車北海道陸別試験場」で試乗することができた。

14年ぶりにフルモデルチェンジした7代目は、先代のプラットフォームをベースにしながらも、約8割のパーツを刷新。ボディ剛性アップやサスペンションの改良、スカイラインのトップモデルである400Rにも積まれている3LV6ツインターボの搭載など、多岐にわたるアップデートが施されている。

そして何よりも目を引くのがデザインだ。2020年9月にプロトタイプがお披露目されたとき、過去のモデルをあまりに引きずったデザインを、筆者は正直なところあまり魅力的には思えなかった。

だが今回、目にした量産仕様は、ディテールまでしっかりつくり込まれ、面のつくりも一見変わっていないように見えて実際にははるかにグラマラスになっており、とてもダイナミックでセクシーなルックスに進化していた。カッコよさは間違いなく歴代随一だろう。

日産「フェアレディZ」価格:524万1500~696万6300円、ボディサイズ:全長4380㎜×全幅1845㎜×全高1315㎜、ホイルベース:2550㎜。新型フェアレディZのデザインには、歴代モデルへのオマージュが詰まっている。カッコよさは文句なし!

オーバル形状のLEDテールランプは、S30やZ32から継承したモチーフである。左右に2本出しのマフラーは実物を見ると迫力満点

パンッと張り出したリアフェンダーは、とてもパワフルな印象。ホイールサイズは18インチと19インチを用意

今回はあいにくのウエットコンディションでの試乗となったが、最初にステアリングを握ったのは、標準グレードのAT車だ。

まずは停止状態からのフル加速を体験。405PSと475Nmを発揮する3LV6ツインターボは、アクセルペダルを深く踏み込むと瞬時に反応。濡れた路面でグリップが低かったこともあり、ホイールを空転させながらとてもパワフルな加速を披露した。

低く吠えるエグゾーストサウンドも迫力満点。新開発の9速ATはトントンッとリズムよく変速し、アッという間にこの日の上限に設定されていた時速120キロに達した。

アウトバーンを模して造られた高速周回路でも、動力性能は余裕たっぷり。直進性も明らかに先代から向上している。乗り心地は若干硬めだが、路面に張りつくような感覚は安心感が高く、「これならロングドライブもバッチリだろう」と思えた。

ワインディングロードは新型Zの真骨頂だ。車両重量が1600㎏とそれなりにあるが、コーナリングはとても気持ちよく、パドルシフトを駆使してダイナミックな加減速を楽しめる。後輪のグリップ限界を見極めながらアクセルペダルの踏み込み量を調整する感覚が味わえるのも、パワフルなエンジンを搭載したFRスポーツカーならではの楽しみだ。

3LV6ツインターボエンジンは、スカイライン400Rから移植。ただし、さらなるレスポンス向上が図られている

ラゲッジスペースは241Lと小さいが、9.5インチのゴルフバッグ2個の積載が可能。小旅行程度なら問題なさそうだ

ハンドルの握りはR32GT-Rと共通だという。ダッシュボード上の3連メーター中央には、ターボ回転計が備わる

NISMOの開発ノウハウを盛り込んだシートは、優れたホールド性を実現。シートポジションは従来モデルと同じだ

次に乗ったバージョンSTの6速MT車は、マニュアル・トランスミッションならではのダイレクト感がたまらない。メーターパネルには、高回転域に入ると点灯し、9000rpmのレブリミットに近づくと点滅して変速を促してくれる、GT500のマシン同様のシフトアップインジケーターが備わり、ドライバーの気分を盛り上げてくれる。

絶対的な速さや効率では9速ATかもしれないが、MTにはやはり"ドライバーの意思でクルマを操る楽しさ"がある。とはいえ、GT-Rのように究極のドライビングプレジャーを追求したモデルではなく、"ダンスパートナーのような走り"を目指したという7代目は、ATでもMTでも走る楽しさが味わえるモデルに仕上がっていた。

■デザインスケッチは414枚も集まった

抜群にカッコよく、走りも楽しい7代目の進化ぶりには目を見張るものがあった。だが、現在の日産は電動化を強力に推進しているのも事実だ。そういう意味では純エンジン車である新型フェアレディZをリリースしてくれたことに素直に拍手を送りたい。

そんな7代目の開発を牽引(けんいん)したのは、日産でフェアレディZとGT-Rの商品企画を担当する、ブランドアンバサダーの田村宏志氏だ。

「6代目のZ34は販売が低迷していたこともあり、何年も前から『日産が世界に誇るスポーツカーであるフェアレディZがどうしてこんな体たらくなのですか?』とファンの皆さまからご指摘をいただいていました。

そこでなんとかしようと思い、今から5年前の2017年3月1日に、当時の開発担当常務(田沼謹一氏)に掛け合ったんです」

7代目の開発を牽引したブランドアンバサダーの田村宏志氏。スポーツカー愛にあふれ、GT-Rの企画も兼任している

田村氏は、年々厳しくなる騒音規制やエミッションなどの法規適合が難しくなるのを承知の上で、スタイリングの刷新やパフォーマンス向上などを提案。ここから7代目の企画がスタートした。

「まずは世界中の日産のデザイナーに、デザインスケッチをお願いしたんです。そうしたらすぐに414枚も集まりました。通常は80枚程度なので5倍の量です。こんなにもZに思い入れがあるデザイナーが日産には多いのかと実感させられましたね」

一方、デザインをまとめた日産のグローバルデザイン本部プログラムデザインダイレクターの入江慎一郎氏は、次のように語ってくれた。

「歴代モデルをオマージュし、そこにある秀逸なデザインをもとに、現代のテクノロジーを使って新しく見せる、ということを追求しました。

ロングノーズ・ショートデッキのアイコニックなシルエットや、オーバル形状のテールランプ、初代S30のヘッドライト周囲の映り込みをモチーフにした"こ"の字型のヘッドライトのシグネチャーなどは、まさにそういった部分です」

このデザイン面での挑戦は、完全に成功したと言えるだろう。7代目は初代S30や4代目のZ32を彷彿(ほうふつ)とさせながら、一方でとても新鮮な印象を実現している。

田村氏は、7代目のポイントは「スタイリング、パフォーマンス、サウンド」だという。つまり、「カッコよくて、速くて、いい音がするスポーツカー」ってことだ。これは田村氏が幼少期に富士スピードウェイで見て衝撃を受けた、初代スカイラインGT-Rや、若い頃に手に入れた初代フェアレディZの240ZGの記憶が大きく影響している。

「GT-Rとの出会いは私にとって事件でした。大きくなったらこのクルマをつくっている会社に入りたいと思いました。でも、私のような原体験は、スポーツカーじゃなくてもいいんです。初めて運転して、クラッチをつないで、クルマが走り出したときの感動を覚えていますか?と。だから、新型Zは、かつて見た夢を思い起こさせてくれるような、そんなクルマにしたいと考えました」

実は日産の内田誠社長も、若かりし頃にZ32に乗っていたZファンのひとりだ。スポーツカーにとって厳しい社会状況にありながら開発にゴーサインが出たのは、内田氏の存在も大きい。つまり、7代目は企画開発、デザイン、トップと"フェアレディZ"というスポーツカーに対して熱い思いを持つ人間が、日産社内に同時期にそろっていたからこそ生まれたと言える。

田村氏が続ける。

「もちろん、一番大事なのはお客さまです。新型は"Zファンのための歴代最高のZ"になったと自負しています。難産でしたが、ひと目で心惹(ひ)かれ、いつまでも愛し続けられるモデルだと思います」

2世代前のZ33は、当時苦境に陥っていた日産を再生すべくルノーから送り込まれたカルロス・ゴーン元会長が掲げた「日産リバイバルプラン」を象徴する1台で、5年間で33万台もの販売を記録した。今回の7代目も、すでに目標をはるかに超える受注が入っているだけに、ゴーン後の「新生日産」のアイコンになりそうだ。

現代的なスポーツカーの走りを獲得し、どこから見てもフェアレディZとわかる7代目は、新たなファンを獲得するはず

●竹花寿実(たけはな・としみ)
モータージャーナリスト。フランクフルトをベースに在独モータージャーナリストとしての経験を持つ。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
竹花寿実氏