7月25日に発売された日産の4代目エクストレイル。9年ぶりのフルチェンで初代以来のコンセプトである「タフギア」を宿しながらも高級感を特盛り。発売から約2週間で1万2000台を超える受注を獲得したという! そんな新型の実力は?
モータージャーナリストの竹花寿実(たけはな・としみ)氏が日産のテストコース「グランドライブ」で徹底チェックした。
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■世界累計販売台数は630万台以上!
7月25日、日産エクストレイルが4代目にフルモデルチェンジした。9年ぶりに登場した新型に、神奈川県横須賀市にある日産のテストコース「グランドライブ」でひと足早く試乗することができた。
エクストレイルは、2000年に初代が登場したコンパクトSUV。過去3世代は日本市場で70万台以上、グローバルでは累計630万台以上が販売された、文字通り日産の屋台骨を支える人気モデルだ。
初代と2007年デビューの2代目は、〝タフギア〟としてオフロードの走破性を重視したワイルドなデザインで、使い倒せる道具感を前面に押し出し、世界的に盛り上がるSUVブームに乗って大ヒット。
2013年に登場した3代目は、そこに先進運転支援システムのプロパイロットなどを搭載し、ハイテク感を感じさせるSUVとして人気を博した。
今回登場した4代目はさらに「上質感」を盛り込んだのが、大きく変わったところ。4代目エクストレイルの開発責任者である中村将一氏はこう説明する。
「新型の企画を進めるなかで、本格SUVとしての走破性能に加えて、上質さを求めるユーザーが多いと。そこで、高級感も兼ね備えたSUVの開発を目指しました」
そして完成した新型は、最新のプラットフォームを採用したほか、世界初のVC(可変圧縮比)ターボエンジンを用いた電動駆動システムのe-POWERを搭載。
さらに前後に電気モーターを搭載した4WDシステムにブレーキ制御により4輪の駆動力を自在に制御するe-4ORCE(イーフォース)も採用した、極めて先進的なモデルへと進化を遂げた。
まずはデザイン。大きな開口部を持つVモーショングリルや切れ長なアッパーライトが特徴的な上下2段のヘッドランプ、ボクシーな印象のなかにエレガントさも感じさせるボディなどは、先代のイメージを受け継ぎながら、高級感を感じさせる仕上がり。
とても立派になった印象なので、サイズも大きくなったのかというと、全幅は20mm拡大して1840mmになっているものの、全長は30mmマイナスの4660mm、全高は20mmマイナスの1720mmと、むしろコンパクトになった。
高い質感を実現した人工皮革や、ヘアライン仕上げのパネルなどが絶妙に組み合わされたインテリアの質感も非常に高くなり、まさに〝高級SUV〟。12.3インチのディスプレイが2枚並ぶインパネ周りも先進感にあふれている。
しかも、防水シートや多彩なシートアレンジなど、エクストレイルならではのタフな道具としての魅力もしっかり兼ね備えている。
実際に運転してみると、その進化ぶりは明らか。まずスタートボタンを押してもエンジンはかからない。動き出してバッテリー内の電気が減り始めるとエンジンが始動し、発電を始める。
動力性能は抜群だ。フロントに150kW(204PS)と330Nm、リアに100kW(136PS)と195Nmを発揮する電気モーターを搭載する新型は、ノーマルモードでもアクセルペダルを軽く踏み込むだけで、とてもパワフルで滑らかな加速を披露する。スポーツモードでのフル加速は、クラスの常識を超える力強さである。
コーナリングも気持ちいい。ハンドルを切った瞬間、e-4ORCEが後輪に多めに駆動力をかけるため、まるでFRのようなコーナリングを感じさせる。また減速時には4輪が回生ブレーキとして作動するので、ノーズダイブはほとんどなく、とてもフラット。乗り心地も間違いなくクラストップレベルである。
特筆すべきは抜群に優れた静粛性。106kW(144PS)と250Nmを発揮する1.5リットル3気筒のVCターボは、圧縮比を8:1~14:1の間で、低負荷領域では高圧縮比、高負荷領域では低圧縮比に自在に変化させ、優れた効率を実現している上、静粛性も非常に高い。
さらに、遮音性に優れた高剛性ボディや、穴や隙間を徹底的にふさいだことで、走行中はエンジンの存在を意識することがほとんどないほど、室内は静か。
ナビ協調のプロパイロットなど、最新鋭の先進運転支援システムも採用した新型エクストレイル。モビリティの電動化を牽引(けんいん)する日産が、まさに技術の粋を集めてつくり上げた、これぞ〝技術の日産〟の真骨頂といった出来栄え。
実はこの新型のエンジン車は北米では約2年前に登場(車名は日産ローグ)、中国でも先行して発売されている。なかなか日本に導入されなかったため、「日本市場を軽視しているのでは?」とファンの間でささやかれていたが、実際にはVCターボ+e-POWER+e-4ORCEを搭載するための期間であった。
4代目を試乗し、日産が母国市場を軽視しているようなことは決してないと確信できた。新型エクストレイルは、再び基幹モデルとして日産を支えることになりそうだ。
●竹花寿実(たけはな・としみ)
モータージャーナリスト。フランクフルトをベースに在独モータージャーナリストとしての経験を持つ。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員