5月20日に発表された、三菱の軽EV「eKクロスEV」の受注が好調だという。そんな話題の新型をモータージャーナリストの竹花寿実(たけはな・としみ)氏が公道試乗。開発スタッフにも話を聞いた。
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■三菱自動車はEVのパイオニア!
5月20日に発表された三菱自動車の新型軽EVであるeKクロスEVが売れている。受注台数は7月24日までの約2ヵ月間で5400台を突破し、月の販売目標にしている850台の3倍を上回る受注ペースをキープしている。
これほどの人気を博す理由はなんなのか。千葉県浦安市で行なわれた公道試乗会で、その出来栄えをチェックした。
eKクロスEVは、日産サクラとプラットフォームや47kW(64PS)と195Nmを発揮する電気モーター、20kWhのリチウムイオンバッテリーを共用しつつ、三菱eKクロスのボディを備えた軽EVである。なので、基本性能はサクラと変わらない。
しかし実際に乗ってみると、乗り味は若干異なる。サクラは徹底的に上質感を突き詰めた、軽乗用車の常識を塗り替える走りを実現していたが、eKクロスEVは、サクラと比較すると、若干カジュアルな乗り味に感じた。
もちろんEVならではの出足の良さや力強い加速は変わらないが、ボディ形状の違いからか、車速が上がるにつれて、風切り音やロードノイズが若干大きめに感じ、乗り心地もやや硬めに思えたのだ。
とはいえ、軽乗用車としてかつてないレベルの走りと快適性を実現しているのは紛れもない事実。これほどの実力を備えたクルマが、補助金を使えば139万8000円(東京都の場合)から購入できるのは驚きでしかない。売れまくっているのも納得だ。
実は、三菱自動車にとってeKクロスEVは、初の軽EVではない。2009年に三菱i(アイ)をベースにしたEVのi-MiEV(アイ・ミーブ)を発売し、昨年3月に生産終了となるまでに世界で約2万4000台を販売した。PSAグループにOEM供給した分を合わせると、5万台以上の生産・販売実績がある。いわば三菱は軽EVのパイオニアなのだ。
サクラとeKクロスEVは、日産と三菱自動車の合弁会社「NMKV」で共同開発され、ほぼ日産側が主導したといわれているが、三菱自動車の役割も大きいという。
そこで、eKクロスEVの開発をまとめた商品戦略本部CPSチーム商品企画マネージャーの今本裕一氏に話を聞いた。
「アイ・ミーブはちょっと早すぎました。あの頃、EVは特別なクルマでした。値段も高く、航続距離は短かった。しかしあれがあったから今があるのは間違いありません。相当なノウハウを得たのは事実です」
そう振り返る今本氏は、eKクロスEVの開発について、次のように語る。
「eKクロスEVは、モーターやバッテリーは日産のものを使用していますが、過去に軽自動車でEVを造ったことがあるのは三菱自動車だけです。なので、モーターの制御や、限られたスペースにEVコンポーネントを搭載するレイアウト方法などには、三菱自動車の知見が盛り込まれています。開発のスタートは三菱自動車と言っていい」
だが、日産も累計60万台以上を誇るリーフで得たEVに関するノウハウを豊富に持つ。
「だから今回は、互いに10年以上培ってきたEVに関するノウハウを見せ合って開発しました。今まで2社でいろいろと協業してきましたが、サクラとeKクロスEVは、これまでの協業の集大成だと思っています。他社ももちろん開発しているでしょうが、前例がないクルマの開発は大変だと思いますよ」
そう自信を見せる今本氏は、市場の変化についても次のように語る。
「以前は次のクルマにEVを検討しようという消費者は3%程度でしたが、昨年には10%まで増えています。われわれの販売店にも、他ブランドから多くのお客さまがいらっしゃっている。補助金は最後のひと押しといった感じです。純粋に軽EVに魅力を感じていただいています」
これほど人気となると、軽EVの今後の展開が気になる。
「現状では予定はないのですが、『4WDが欲しい』という声もたくさんいただいていますし、EVのスポーツカーも面白いでしょうね。さまざまなニーズがあると思うので、まさに今、次の手を打つべく動いています」
本格オフロード4WDやハイパフォーマンス4WDの伝統もある三菱自動車だけに、今後の展開が本当に楽しみだ。
●竹花寿実(たけはな・としみ)
モータージャーナリスト。フランクフルトをベースに在独モータージャーナリストとしての経験を持つ。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員