独BMWグループのプレミアムコンパクトブランドであるミニ。2030年には新車の販売を100%EVにする計画を発表している。そんなミニが去る7月27日、今後を示唆するEVコンセプトをドイツで発表した。現地に飛んだモータージャーナリストの竹花寿実(たけはな・としみ)氏が解説する。
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■2030年にミニはEVブランドに
今や世界中の自動車メーカーが電動化を進めている。しかも、多くのメーカーは「◯◯年までに新車を◯◯%電動化する」といった具体的な目標をすでに掲げている。
日本で高い人気を博すミニも、「2025年以降に登場するニューモデルはすべてEVとなり、2027年までには新車販売の50%以上、2030年には100%をEVにする」とアナウンスしている。
つまりミニは、3年後にはEV時代に突入する。そろそろ次世代EVミニの開発がスタートしているはずだ。
そんなタイミングの7月27日、次世代ミニを示唆した「ミニ・コンセプト・エースマン」というコンセプトカーが発表された。私は幸運にも、ドイツ・デュッセルドルフで行なわれた、メディア向けのお披露目イベントに参加できた。
このコンセプトカーは、まったく新しいデザイン言語を用いた、次世代ミニの最初のレビューで、純粋なEVとして開発されたクロスオーバービークル。全長4050mm、全幅1990mm、全高1590mmと、ショーカーということもあり全幅は大きいが、サイズ的には現行のミニ・クロスオーバーよりひと回りコンパクトになっている。
可能な限りシンプルなデザインを目指したというエクステリアは、とてもフラットで現代的な印象。もはやヘッドライトは丸形ではない。さらにフロントグリルもワイドな八角形で、クロームのトリムも使用していないが、ちゃんとミニと認識できる造形は、絶妙なさじ加減である。
インテリアも「ミニマリズム」というミニのデザインコンセプトに沿った、非常にシンプルな仕立て。水平基調のダッシュボードに、大きな丸形のOLEDディスプレイを備え、その下にトグルスイッチの操作パネルを配置。エクステリアと同様にクロームやレザーを使用せずに、ミニらしい空間を演出している。
このミニ・コンセプト・エースマンは、2024年には市販バージョンが登場する予定。現在のトレンドに沿ったクロスオーバースタイルで、デザイン的にもかなり冒険した印象のEVだが、勝算はあるのだろうか? ミニ・ブランドのデザイン責任者であるオリバー・ハイルマー氏に聞いてみた。
「われわれのカスタマーは、ミニがエンジン車かEVか、特に気にしていません。むしろ、『私はミニ・ブランドから離れたくない。もっとスペースを備えたミニが欲しい』という声が聞こえてきます。
フロアにバッテリーを搭載するBEVアーキテクチャーは、コンパクトなサイズに高効率なパッケージングが可能です。ミニ・エースマンでは、広々とした空間を提供します。限られたサイズで最大限のスペースを確保する。これはミニの伝統なのです」
クロームやレザーを不使用としたことについては次のように語った。
「2021年3月に次世代の社会的責任を果たすための、クリエイティブなマインドセットを設定しました。デザインを通じて循環経済の実現に貢献して、環境負荷を減らしたい。コンセプトカーをエココンシャスに造ることは簡単です。
しかし、市販モデルに盛り込むのは大きなチャレンジになります。クロームやレザーを使わないデザインはチャレンジングでしたが、異なる表現手法を見つけました」
歴代ミニの変遷と比較すると、次世代ミニはかなりの変化がありそうだ。
「今回、大きなチャレンジは可能な限り飛躍することでした。しかし、ミニ・ブランドのユニークネスは今後もキープし続けます。ミニは今後もミニであり続けるのです」
そう語るハイルマー氏は、自信に満ちあふれていた。
クラシック・ミニから続くブランドイメージを維持しながら、EV化という未来に向けて大きな変化が求められる次世代ミニ。過去のイメージを意識する必要のないメーカーとは比較にならないほど難産になるはず。
ミニ・エースマン市販モデルの成功は、ミニ・ブランドの未来のために必須といっていいだろう。ミニがその伝統をEV時代にどのように継承していくのか、非常に気になるところである。
●竹花寿実(たけはな・としみ)
モータージャーナリスト。2010年渡独。フランクフルトをベースに在独モータージャーナリストとしての経験を持つ。現在もドイツの自動車メーカーの最新動向に精通。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員