メルセデス・ベンツ自慢のEV専用モデル「EQ」。昨年7月にEQSをスイスで、今年4月にドイツでEQEを試乗しているモータージャーナリストの竹花寿実(たけはな・としみ)氏がその実力を徹底解説する!!
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■アウトバーンでもEQEを試乗
2022年上半期のヨーロッパ市場は、新車販売全体が半導体不足などの影響で前年同期比13.7%減の559万7656台となるなか、EVは同31.6%増の64万7479台と、シェアは11.5%にもなっている。
まだ1割強ではあるものの、ドイツやフランス、イギリスといった主要国はここ2年でシェアが倍増するなど、EVシフトを牽引している。手厚い購入補助金(ドイツでは最大9000ユーロ=約125万円)が普及を後押ししているのは確かだが、着実にEV市場は拡大している。
このような状況で、各メーカーとも続々と新型EVをリリースしているが、なかでも本気度の高さが際立っているのがメルセデス・ベンツ。
2030年には「市場環境が許せばラインナップをすべてEVとする準備はできている」と豪語するメルセデスは、2019年のEQCを皮切りに、EQAやEQV(日本未導入)など、着々とEVラインナップを拡大してきたが、これらは既存のエンジン車をベースにした「コンバージョンEV」的なモデル。
しかし、昨年夏にヨーロッパで発売されたEQSと、今春に登場したEQEは、新開発の大型電気自動車用プラットフォーム「EVA2(エレクトリック・ビークル・アーキテクチャー)」を採用したEV専用モデルとなっている。筆者は昨年7月にEQSをスイスのチューリヒで、今年4月にはEQEをドイツのフランクフルトで、それぞれ試乗している。
これら新世代のメルセデスEQモデルの進化ぶりは、まさにすさまじいのひと言に尽きる。
まずEQSは、そのモデル名からもわかるとおり、Sクラスに相当するEQモデルなのだが、極低速からアウトバーンまで、どこまでもスムーズでしっとりとした乗り心地、そして驚異的に優れた静粛性は、エンジン車のSクラスを明らかに凌駕(りょうが)しているのだ。
しかも、107.8kWhもの大容量リチウムイオンバッテリーを搭載し、WLTPで最大783kmという驚異的な航続距離を実現。インパネ全面が巨大なディスプレイになっている最新世代のMBUXハイパースクリーンを採用し、これぞまさに未来のプレミアムEVといった印象だ。
この5月には、一定の条件下でのレベル3の自動運転を実現した「ドライブパイロット」にも対応した。
このEQSのSUV版であるEQS SUVも、すでにヨーロッパでは今年4月に発表済み。こちらは3列7人乗りのラージクラスのSUVで、航続距離は最大660kmだが、フランクフルトで実車を見せてもらった印象では、こちらも非常に魅力的なラグジュアリーSUVという印象。
EQEは、EQSの弟分的なアッパーミドルクラスのEVサルーンで、基本的にプラットフォームやメカニズムをEQSと共用している。もちろんMBUXハイパースクリーンも用意されていて、とても先進的なビジネスEVセダンといった感じのモデル。
ホイールベースがEQSより短いため、EQEはバッテリーサイズが90.6kWhとなるが、それでも最大670kmもの航続距離を実現。欧州では200kWの急速充電まで対応している。もはや実用面で困ることはほぼないだろう。
その走りはEQS譲りの上質感を感じさせつつ、ひと回りコンパクトであることから、スポーティな走りも楽しめる。フランクフルトでは、時速50キロ制限の市街地から郊外のワインディングロード、アウトバーンの時速200キロ超の速度域まで、さまざまなシチュエーションで走行したが、極めてハイレベルにバランスが取れた走りと快適性は、このクラスの新たな基準になることは間違いない。
これほどの進化は、EV専用プラットフォームの採用が最大の理由だ。メルセデス・ベンツは、EVでもその名にふさわしいプレミアム性を実現するために全力で開発した。
メルセデス・ベンツ日本の上野金太郎社長は、7月14日に行なわれた会見で、年内にEQSおよびEQEを発表する予定であることを公表。その後にはEQS SUVとEQE SUV(10月16日発表予定)も控えている。新世代メルセデスEQモデルは、間違いなく日本市場に大きな衝撃を与えることになる。
●竹花寿実(たけはな・としみ)
モータージャーナリスト。2010年渡独。フランクフルトをベースに在独モータージャーナリストとしての経験を持つ。現在もドイツの自動車メーカーの最新動向に精通。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員