今年4月14日に発売された新型スーパーカブ110。今回の大改良の目玉のひとつがエンジン。燃費だけでなく環境性能も向上今年4月14日に発売された新型スーパーカブ110。今回の大改良の目玉のひとつがエンジン。燃費だけでなく環境性能も向上
今年4月にモデルチェンジしたスーパーカブ110の燃費がハンパないと話題だ。実際のところどうなのか? 新型を試乗したモーターサイクルジャーナリストの青木タカオ氏が特濃解説する。

青木 厳しさを増す法規制に対応するため、ホンダの新型スーパーカブ110が大幅な改良を受け、大きな話題を呼んでいます。

――具体的にはどこが変わった?

青木 安全性と環境性能を大きく向上させました。特に注目は新型のロングストローク型のエンジンで、燃費はリッター67.9㎞(!)を誇ります。

――鬼すぎる!

青木 コイツは本当にスゴいですよ。新型のタンクの容量は4.1リッターですから、給油1回で278㎞ほど走れてしまう。距離で言うと東京から新潟県、あるいは静岡県の浜松市まで行けちゃいますからね。

――青木さん、燃費性能の秘密はなんですか?

青木 新型は排出ガス規制に対応した単気筒の新エンジンを採用しています。大幅なロングストローク化により、最大トルクの増強と燃費性能の向上が図られたことが大きいですね。

――今回、試乗してみた感想は?

青木 低回転域での力強さが増し、加速もスムーズになりました。振動が減り、車体が落ち着いているのは、長年採用してきたワイヤースポーク仕様のホイールが、より剛性の高いキャストホイールに変更されたことが影響しています。

なにより、もっとも進化しているのは前輪ブレーキで、ドラム式をやめて油圧ディスクとなり、ABSも標準装備。ブレーキレバーを握るとカチッとしたタッチで、制動力はもちろん、コントロール性が飛躍的に向上しました。

チューブ式だったタイヤを、パンク修理が容易なチューブレスにしていることも見逃せませんね。

――お値段は?

青木 30万2500円です。しかも、スーパーカブ110のトランスミッションは、自動遠心クラッチを使用した4段ギアです。クラッチ操作がないため、オートマ免許(AT限定小型二輪免許)でも乗れるのがうれしいですね。

――自動遠心クラッチの仕組みって?

青木 ロータリーミッションと言って、停車時にトップ4速から踏み込むとニュートラルに戻る。慣れないと、何速に入っているのかわからなくなりがちだったんですが、今回の改良でメーターパネルも刷新され、新たに追加された液晶画面でシフトポジションを表示し、とてもありがたい。

さらに時間、燃料残量、平均燃費もデジタル表示され、機能的になりました。速度計は相変わらずアナログですが、目盛りは時速140kmまで刻まれていますね。

――取り回しはどうです?

青木 シートは738mmと低く、またがりやすいです。しかも、最小回転半径は1.9mなので、取り回し性能は他の追随を許しません。正直、乗り手を選びませんね。

――カブシリーズの累計台数はどれぐらい?

青木 世界中160ヵ国以上の国で愛され、1億台を軽く突破しています。人気の秘密は圧倒的な低燃費性能と、高い耐久信頼性が挙げられます。初代は1958年に登場しましたから、文字どおり日本の工業製品を代表する超ロングセラーです。アオキはホンダコレクションホールの協力を得て、国宝級の初期型スーパーカブC100と、その先代にあたるカブF型にも乗っているんですよ。

青木氏が試乗したF型カブは1955年製。発売からわずか5ヵ月ほどで約2万5000台を売った、ホンダが誇る伝説のモデルだ青木氏が試乗したF型カブは1955年製。発売からわずか5ヵ月ほどで約2万5000台を売った、ホンダが誇る伝説のモデルだ
――ほおほお。

青木 スーパーカブの見た目は時代を問わずさほど変わらず、乗り降りしやすいアンダーボーンフレームに丸みを帯びた外装という、日本の風景に溶け込むお馴染みのスタイルですよね。

特に面白いのが自転車用補助エンジンだった1952年(昭和27年)のカブF型。コイツは自転車の後輪に取り付けるものでした。まさに原動機付き自転車で、ホンダは赤いエンジンと白いタンク、取り付け金具や書類を段ボール箱に収め、その一式を全国の自転車屋へ出荷しました。

性能が良かったのはもちろんのこと、販売網を築き上げるきっかけとなり、このF型でホンダは躍進の基盤を築きましたね。

――実際に乗ると?

青木 自転車同様にペダルを漕いでスタートし、勢いのついたところでクラッチをつなぐ、いわゆる〝押しがけ〟の原理でエンジンを始動。レバー式のスロットルで回転数を調整しながら走りますが、変速機はなく、最高速度は時速35km。これが今も原付1種の制限速度30kmに活かされているのですよ。

余談ですが、F型や初代だけでなく、1960年(昭和35年)に出た異端児「スポーツカブ」など、歴代のカブシリーズにアオキはすべて乗っています。だから、今回登場したスーパーカブ110の改良のスゴさもよくわかりました。

――なるほど。

青木 話が脱線しましたが、カブというバイクは歴史が長く、派生モデルも多いため、世界中に熱狂的なマニアがいます。実は「カブ主総会」と呼ばれるミーティングが東京・青山にあるホンダ本社で行なわれていたりするんですね。

――そういう活動も人気を支える要素のひとつになっている?

青木 そのとおりです。

――最後に新型の売れ行きは?

青木 今回のマイナーチェンジでは、「クロスカブ110」にも同様の改良が実施されていますが、どちらも人気絶大。コロナ禍による半導体不足やバイクの人気が高まったことなど、複数の要因により納車が遅延している状況は続きそうですが、販売店には予約を求める人が絶えません。ほしい人は早めにオーダーを入れ、気長に待つべし!です。


新型スーパーカブ110を試乗した青木タカオ氏新型スーパーカブ110を試乗した青木タカオ氏
青木タカオ
モーターサイクルジャーナリスト。著書に『図解入門 よくわかる最新バイクの基本と仕組み[第4版]』(秀和システム)など。『ウィズハーレー』(内外出版社)編集長。YouTubeチャンネル『バイクライター青木タカオ【~取材現場から】』を運営