今年7月21日に世界初公開。9月2日に発売となった新型シビックタイプR。サーキットで全開走行をブチカマし、6代目の実力に迫ってきた今年7月21日に世界初公開。9月2日に発売となった新型シビックタイプR。サーキットで全開走行をブチカマし、6代目の実力に迫ってきた

今年で50周年を迎えたシビックシリーズ。その最速モデルであるシビックタイプRの新型がついに登場。早速、自動車研究家の山本シンヤ氏がホンダの聖地である三重・鈴鹿サーキットで試乗し、徹底チェックした!!

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■タイプRなので、速いのは当たり前

ホンダ シビックタイプR 価格:499万7300円 月販目標は400台。新型は注文が殺到しており、納期は最短でも半年以上。欲しい人は販売店へ即ダッシュが正解ホンダ シビックタイプR 価格:499万7300円 月販目標は400台。新型は注文が殺到しており、納期は最短でも半年以上。欲しい人は販売店へ即ダッシュが正解

山本 新型シビックタイプR(以下、タイプR)を鈴鹿サーキットで試乗しました。

――タイプRってバリバリの内燃機関モデルですよね?

山本 2リットルのVTECターボで、最高出力は330PS、最大トルクは420Nmですね。

――アレレ? ホンダは2040年までにグローバルでBEV(電気自動車)/FCEV(燃料電池車)の販売比率を100%にするという目標を掲げていませんでしたか?

山本 確かにそう発言していますが、一方でその質疑応答の際に三部敏宏社長は「いろいろな技術の可能性を残しておくべきだと思う」とも発言しているんですよ。

2リットルの直噴VTECターボの最高出力は330PS。新型はエンジン全体の冷却性能も高めた2リットルの直噴VTECターボの最高出力は330PS。新型はエンジン全体の冷却性能も高めた

――なるほど。

山本 今回、3年ぶりに開催されたF1日本グランプリはレッドブルのワンツーフィニッシュ。マックス・フェルスタッペン選手が2年連続でドライバーズタイトルを獲得しました。

レッドブルのパワートレインはRBPT(レツドブル・パワートレインズ)が担当していますが、実はホンダの子会社である「HRC(ホンダ・レーシング)」が技術協力を行なっている。つまり、実質ホンダなんですよ。しかも、そのパートナーシップはより強固になっているとも耳にしています。

――ホンダは内燃機関の可能性をまだまだ探っていると?

山本 そのとおり。特にタイプRというクルマは、現在、ホンダの内燃機関モデルを牽引(けんいん)するポジションです。

FK8と呼ばれる先代モデルは17年に登場しました。初のグローバルモデルであり、ニュルFF最速のパフォーマンスはもちろんのこと、走る道を選ばないオールラウンドな性能を両立し、国内外で高い評価を得ました。それは販売面においても結果が出ており、FK8はシビックタイプR史上、最も売れたモデルです。

その後を継ぐのが、11代目シビックをベースにしたFL5と呼ばれるこの新型です。

インテリアは、赤の専用スポーツシートと、アルカンターラ巻きのステアリングホイールが目を引くインテリアは、赤の専用スポーツシートと、アルカンターラ巻きのステアリングホイールが目を引く

――新型のポイントは?

山本 先代に続いて、柿沼秀樹氏が開発責任者(LPL)を担当したことですね。

――具体的には?

山本 ホンダは過去を振り返らないのが特徴です。逆に言うとあまり反省しない(笑)。しかし、柿沼氏が引き続きトップに立つわけですから、当然、過去の反省を生かして己を超えることになる。

実際、柿沼氏は「タイプRなので、〝速い〟のは当たり前ですが、本当にクルマを信頼できているのか? 本当にドライバーのコントロール下にあるのか? 本当に意のままの走りはできているのか?など、潜在能力を研ぎ澄まし、人とクルマの一体感という部分に注力して開発を行なった」と。

男心を刺激するセンター3本出しマフラー。ちなみに中央が最もデカくなっている男心を刺激するセンター3本出しマフラー。ちなみに中央が最もデカくなっている

――そんな新型シビックタイプRを見た率直な感想は?

山本 基本的には先代モデルの進化版です。2リットル直噴VTECターボに6速MT、3本出しのテールパイプも継承しています。当然、昨今の厳しい規制にも対応しています。

――サーキットでの印象は?

山本 正直、スペックや採用アイテムなど見る限りは劇的な進化はありません。エンジンがパワフルなのはもちろん、回転の伸びの良さと軽快なサウンドは、これぞVTECのターボだなと。しかし、実際にステアリングを握ると「別物」といっていいかなと。

――6速MTの感触はどうです?

山本 これも先代の進化版ですが、操作力が軽めで抵抗感も少なく、カチッと入るというよりも、スコッと入る。そういうフィーリングでしたね。また、シフトダウン時には回転を合わせるレブマッチシステムも進化。プロドライバー並みの正確な制御なので、今回試してみて、全開走行時は積極的に活用したい。

リアスポイラーはグロスブラック仕上げ。ボディは剛性を強化しながら軽量化も追求リアスポイラーはグロスブラック仕上げ。ボディは剛性を強化しながら軽量化も追求

ブレンボ社製のフロントアルミ対向モノブロック4ポットキャリパーを標準で備えるブレンボ社製のフロントアルミ対向モノブロック4ポットキャリパーを標準で備える

――シャシー性能は?

山本 ここが今回のキモといえるでしょう。AWDのような鉄壁のリアの安定性とFFであることを忘れるアンダーステアのない回頭性の良さを生かし、路面に張りつくようなハイスピードのコーナリングが可能でした。

正直、先代は「速いけど怖い」でしたが、新型は「速くて楽しい」。この差は先代から用いているメカニズムをさらに研ぎ澄ませた上で、高度にバランスさせたことが大きいと思います。まさに数値ありきではなく、ドライバーの感覚を重要視した開発のたまものですね。

11代目シビックのグランドコンセプトは「爽快」ですが、シビックタイプRも同じ志で開発されているなと。

――ズバリ、ルノーと10年以上続く、ニュルFF最速争いの行方はどうなりますか? 現在、ルノーのメガーヌR.S.トロフィーRの7分40秒100が最速ですが?

山本 新型はコロナの関係でタイムアタックはまだ行なっていないようですが、鈴鹿サーキットでのタイムを見ると、メガーヌR.S.トロフィーRの2分25秒454に対し、新型シビックタイプRは2分23秒120を記録しています。それを踏まえると、ニュルでの記録更新は間違いないと私は予想しています。

●山本シンヤ 
自動車研究家。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ワールド・カー・アワード選考委員。YouTubeチャンネル『自動車研究家 山本シンヤの「現地現物」』

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