16代目となる新型クラウンの第1弾として、9月1日にクラウンクロスオーバーが発売された。受注の滑り出しは好調だというが、実際の仕上がり具合は? トヨタに粘着取材を続ける自動車研究家の山本シンヤ氏が解説する。
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■急転直下で始動した16代目の開発
山本 トヨタが誇る「クラウン」は1955年に登場。以降、〝日本の高級車〟という軸足はブレることなく、進化・熟成を重ねてきました。
――累計販売台数は?
山本 約680万台ですが、このうちの80%以上が国内で販売されたものです。ところがこの長い歴史が逆に足かせとなり、近年は保守的なクルマになってしまった。そもそもクラウンに流れるDNAは「革新と挑戦」なんですよ。
――それで14代目はデザイン、15代目は走りの部分に大きく手が入ったと?
山本 そのとおりです。しかし、事態は好転しなかった。そこで今回の16代目は、クラウンのDNAである「革新と挑戦」を再構築するべく、これだけ大胆に生まれ変わったというわけです。
――とはいえ、トヨタの「顔」であるクラウンをここまで激変させるには相当な時間を要したのでは?
山本 いいえ、急転直下だったようです。新型の計画がスタートしたのは約2年前。具体的には先代のマイナーチェンジが進められていた頃です。
改良モデルのスケッチを見たトヨタの豊田章男社長は、「本当にこれでクラウンが進化できるのか? マイナーチェンジを飛ばしてもいい。もっと本気で考えてみてほしい」と提案し、ここから16代目の開発がスタートしました。
提案というと柔らかい印象ですが、実際のところは〝怒り〟に近い言葉だったようですね。
――開発陣はその豊田社長の言葉をどう受け止めた?
山本 開発チームはこれまでの固定観念を一切捨てたといいます。そして決断したのが、クラウンを縛りつける鎖から解放してやることでした。
その鎖のひとつが日本専用のセダンであること。そこからの脱却を実現するため、世界にマッチングする複数のモデルバリエーションを用意したと。
具体的にはセダンとSUVを融合した「クロスオーバー」、エモーショナルなSUVである「スポーツ」、アクティブライフを楽しむ相棒「エステート」、そして正統派サルーンの「セダン」です。
――激変した16代目の4台を目にした豊田社長の反応は?
山本 豊田社長は開発陣に「ちょっと調子に乗りすぎていない? でも、これは面白いね」と。そして試験車両のステアリングを握り、「これぞ、新時代のクラウンだね」と語ったそうです。
――今回、山本さんはクラウンの中軸と目されているクロスオーバーを公道試乗されたわけですが、その仕上がり具合はどうでした?
山本 見た目は従来の〝ザ・セダン〟から脱却し、クーペシルエットとリフトアップの融合という印象ですね。「威圧」「圧倒」とは違った新たな高級車像をアピールできているなと。
個人的にはフロント/リアのランプ周りの造形にスピンドルシェイプが特徴だった4代目(通称クジラ)の雰囲気がにおうようなデザインに感じました。インテリアは先代の改良モデルをよりクリーンでシンプルにした印象ですが、質感の部分は少し課題がありますね。
――気になる走りは?
山本 パワートレインは全車ハイブリッドの4WDです。プラットフォームはFF横置きのGA-Kがベースですが、フロントはSUV用、リアはセダン用となる新型クラウン専用品ですね。
――一番の見どころは?
山本 メカニズムは刷新されているにもかかわらず、乗ると「あっ、クラウンだ!」と感じたこと。具体的にはまるでFR縦置きレイアウトのような旋回姿勢と、滑らかでスムーズな動きです。
トヨタ車の共通の味は「Confident(安心)& Natural(自然)」ですが、新型はひとつの完成形に近いなと。
――クラウンといえば、これまで乗り心地のよさが挙げられますが、そのあたりは?
山本 路面からの入力が優しいのはもちろん、ショックを吸収させるスピードにクラウンらしさを感じました。結果、乗っている人は「このクルマ、フワフワしないけど優しい」と感じられる快適性です。
――どんな人に推せる?
山本 従来のクラウンはクルマ好きにとっては人ごとのクルマだったと思います。しかし、新型は初めて自分ごとに感じるクルマに仕上がっている。その証拠に受注台数は正式発売開始から約1ヵ月で2万5000台に達したそうです。
――スゲッ!
山本 現時点で16代目の「革新と挑戦」は好意的にとらえられていると思います。ただ、これから登場予定のスポーツ、エステート、セダンが出そろったときが本番です。そこで、16代目クラウンの本当の実力がわかるでしょうね。
●山本シンヤ
自動車研究家。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ワールド・カー・アワード選考委員。YouTubeチャンネル『自動車研究家 山本シンヤの「現地現物」』