川崎重工業の橋本康彦代表取締役社長(左)と、トヨタ自動車 GAZOO Racing Company Presidentの佐藤恒治氏(右) 川崎重工業の橋本康彦代表取締役社長(左)と、トヨタ自動車 GAZOO Racing Company Presidentの佐藤恒治氏(右)
水素エンジンの発表に続き、海外で新型EVを発表したカワサキ。脱炭素戦略はどうなっている? カワサキを粘着取材するモーターサイクルジャーナリストの青木タカオ氏が特濃解説する。

――カワサキの脱炭素に向けた取り組みが活発化しているとか?

青木 去る9月にカワサキモータースは、水素燃料直噴エンジンを搭載した研究用のオフロードバギーを、初めて報道陣に公開しました。場所は「モビリティリゾートもてぎ(栃木県茂木町)」です。

――水素エンジン!

青木 カワサキが誇る「ニンジャH2」に搭載される、排気量998㏄の直列4気筒スーパーチャージドエンジンをベースに開発されました。具体的には、水素燃料の筒内直接噴射仕様に変更したパワートレーンですね。二輪車向けのエンジンですが、試験用の機材を積んだり、開発スタッフが乗り込めるよう、北米などで販売し、人気を集めているバギーに搭載しています。

――水素エンジンのメリットは?

青木 水素エンジン車は水素を燃やして走るため、走行時に二酸化炭素をほとんど排出しません。カーボンニュートラル実現に向けた次世代エネルギーの本命とも言われ、日本のエネルギー政策の司令塔である経済産業省でも期待が大きい。

現在、年間200万トンほどの水素利用量を、2050年には10倍の2000万トンに増やす方針です。川崎重工の橋本康彦社長は、「将来、人類にとって大事になる」とテレビの取材などでもコメントし、「脱炭素時代の主役は水素」と主張しているんですよ。

カワサキ「Ninja H2」の998cc直列4気筒スーパーチャージャーをベースに、水素燃料の筒内直接噴射仕様に改良。車体は、北米などで販売しているTERYXシリーズの『KRX』を使用。水素燃料タンクや燃料供給系統を設置するため、大幅なレイアウト変更が施された カワサキ「Ninja H2」の998cc直列4気筒スーパーチャージャーをベースに、水素燃料の筒内直接噴射仕様に改良。車体は、北米などで販売しているTERYXシリーズの『KRX』を使用。水素燃料タンクや燃料供給系統を設置するため、大幅なレイアウト変更が施された
――そもそも、水素ってどうやってつくる?

青木 主にふたつの方法があり、石炭や天然ガスなど化石燃料をガス化し、そこから水素を取り出す方法と、太陽光や風力発電といった再生可能エネルギーを用いて、水を電気分解して水素を取り出す方法があります。

現状ではコストの問題から前者が有効で、海外から輸入していますが、川崎重工の強みとしては水素を「つくる」「はこぶ」「ためる」「つかう」の4つのフェーズに対して、独自の技術を持っていること。宇宙開発のためのロケットも液化水素が燃料で、1980年代後半から川崎重工がシステムを提供し続けています。また、ガスタービンによる市街地での水素100%の発電も、2018年に世界で初めて成功しているんですよ。

――カワサキ、スゲッ!

青木 加えて、2021年に川崎重工とヤマハ発動機は、二輪車への搭載を視野に入れた水素エンジンの共同研究について検討を開始していますし、今回のバギーはカワサキとトヨタだけでなく、スズキ、デンソー、ホンダ、ヤマハで取り組む研究用素材のひとつとして活用されていきます。ただ......。

――なんです?

青木 水素エネルギーの活用は、ヨーロッパの企業でも経営計画に着実に組み込み始めています。日本企業も負けないよう連携を強め、そしてさらに産学官が一体となって取り組む必要があるとアオキは提言したいですね。

――なるほど。ちなみに、カワサキはEVも発表したそうですね?

青木 はい。10月4日にドイツ・ケルンで開幕した「インターモト2022」で、EVのプロトタイプを公開し、大きな話題を集めています。実は、今年8月に開催された鈴鹿8耐でも、EVとハイブリッド車の2台が走る姿を披露しました。

2019年に「2022年だけで3台以上の電動車両を発表する」と明らかにしていることから、11月8日からイタリア・ミラノで開催される世界最大級のモーターサイクルショー「EICMA2022」からも目が離せません。いずれにせよ、カワサキは2025年までに10機種に及ぶ電動モデルを導入する予定ですから、発表次第また報告しますね!

青木タカオ
モーターサイクルジャーナリスト。著書に『図解入門 よくわかる最新バイクの基本と仕組み[第4版]』(秀和システム)など。『ウィズハーレー』(内外出版社)編集長。YouTubeチャンネル『バイクライター青木タカオ【~取材現場から】』を運営