今年12月に生産を終了するNSXの最終限定モデルの試乗会が開かれた。そこで疑問がひとつ。なぜ歴史に幕を閉じるクルマをわざわざ試乗させたのか? ホンダの狙いとは? 自動車研究家の山本シンヤ氏が解説する。
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■後継モデルは高性能なPHEV?
山本 ホンダのスーパースポーツNSXの集大成となるモデル「タイプS」に公道試乗してきました。この2代目NSXは今年12月でその歴史に幕を閉じるモデルです。
――NSXのタイプSは、確か限定モデルでしたよね?
山本 そうです。世界限定350台でそのうちの30台が日本向けです。価格は2794万円というプレミアム価格でしたが、即完売しました。
――スゴい話ですが、なぜ販売が終了しているモデルの試乗会が開かれたんですか?
山本 おそらく、ホンダとしては「次への〝つながり〟を理解しておいてほしい」という気持ちがあったのかなと。
――次というと?
山本 今年4月に報道陣向けに行なわれた「四輪電動ビジネス説明会」の最後に発表された2台の電動スポーツモデルがヒントでしょうね。
残念ながら詳細はまったく語られませんでしたが、ホンダの三部敏弘社長は、「際立つ個性を体現するようなスペシャリティとフラッグシップ、ふたつのスポーツモデルをグローバルへ投入」と口にしました。私はこのフラッグシップと呼ばれたモデルこそがNSXの後継モデルであるとにらんでいます。
――NSXの後継モデル! ズバリ、山本さんはどんなモデルになると?
山本 そのヒントは三部社長の言葉です。多くの人はNSX後継モデルがBEVだと思っているようですが、三部社長は「ホンダの電動化における象徴」「2020年代半ばに投入予定」と語っただけで、それがBEVだとはひと言も言っていません。
このふたつのキーワードとNSXのDNAである〝新しいスポーツカーの経験〟を踏まえると、私は高性能なPHEVじゃないかと。普段はBEVのように走れますが、かっ飛ばしたいときにはエンジン車のような気持ち良さが味わえるパワートレインを期待しています。
――なるほど。実際にタイプSを試乗した感想は?
山本 タイプSの開発コンセプトは〝NSXを極める〟。たぶん、日本人的には「NSXを極めるというなら、なぜタイプRじゃないんだ?」と思うと思うんですよ。
――なぜタイプRでない?
山本 実はNSXというクルマは、北米ではホンダのプレミアムブランド「アキュラ NSX」として発売されています。ちなみにアキュラブランドのパフォーマンスモデルの称号は「タイプS」で統一されています。そのため、日本のホンダNSXもそれに準じたのではないでしょうか?
ただ、実際のキャラクターは「タイプS以上タイプR未満」。私は2代目NSXについて、電動化パワートレインを生かした「見た目は獰猛(どうもう)、走りは静寂」という走りが特徴だと思っていますが、実はタイプSはそれがよりわかりやすくなっています。
――もう少し言うと?
山本 パワートレインは3.5リットルV型6気筒直噴ツインターボ+リアモーター+フロント左右独立モーターの「スポーツハイブリッドSH-AWD」ですが、エンジンとモーター共に専用チューニングを施すことで、スポーツ性を大きく引き上げています。
開発責任者の水上 聡氏は、「自分で言うのもアレですが、スゴくいい仕上がりになっています」と胸を張っていました。
――ほかにポイントは?
山本 2代目のコンセプトである「電気の力で、走りの楽しさをアシスト」がより明確になっています。具体的には2代目NSXには走りの特性を4つのモードに切り替え可能なIDSが採用されていますが、各モードの差がより明確になっています。
「クワイエット」は積極的なモーター駆動、「スポーツ」は電動車を感じさせない自然なフィール、「スポーツプラス」は逆にモーターによるトルクベクタリングを最大限に生かした走り、そして「トラック」はシステム出力610PS/667Nmの絶対的なパフォーマンスの高さを実感できます。
ひと粒で2度オイシイを超える、まさにひと粒で4度オイシイ!
――話をまとめると?
山本 現在、世界のスーパースポーツを見渡すと電動化がトレンドで、フェラーリ「SF90ストラダーレ」「296GTB」、マクラーレンの「アルトゥーラ」などが登場しています。ちなみに2代目NSXの登場は2016年です。世界のブランドに先駆けて電動化を行なったスーパースポーツなんですよ。
――電動化の道を自ら切り開いたのに、その時代が到来したらNSXは生産終了とは切ない話ですね(号泣)。
山本 初代は1990年の発表から15年間発売されましたが、2代目は2016年の発表からわずか6年で販売終了です。個人的には、3代目NSXは電動化を目指すホンダの頂点を体現するモデルとして、ファンをアッと驚かせるようなクルマとして登場してほしい。いや、そうならなければダメでしょう。
ホンダ(アキュラ)は昔から「高付加価値商品」のビジネスが苦手なので、「渾身(こんしん)の力で出したけど、売れないから、すぐにやめます」というのだけは絶対やめてほしい。少量生産でもいいのでしっかりと継続して育ててほしいものです。
●山本シンヤ
自動車研究家。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ワールド・カー・アワード選考委員。YouTubeチャンネル『自動車研究家 山本シンヤの「現地現物」』