日常の足だけではなく、仕事も遊びもこなせるクルマとして注目されている4ナンバー軽だが、5ナンバーの軽とは何がどのように違うのだろうか? 自動車専門誌の元編集長というキャリアを持つ、カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説する。
■軽乗用車と軽商用車の違いとは?
渡辺 8月26日にスズキから発売された4ナンバーの軽が話題を呼んでいます。
――"クルマというより、秘密基地。"というキャッチフレーズのスペーシアベースですね。ズバリ、売れ行きは?
渡辺 1年間の販売目標台数は1万台です。スズキによると現在、想定以上の受注が入っており、滑り出しはすこぶる好調のようです。仕事、遊び、買い物など、あらゆる用途をこなしてくれるクルマに仕上がっているのが魅力でしょうね。ちなみにスペーシアベースの価格は139万4800~166万7600円です。
――納期はどれくらいですか?
渡辺 複数の販売店に聞きましたが、スペーシアベースの納期は3~4ヵ月程度です。新型車だから生産量を増やしています。また、生産ペースも以前に比べると順調のようで納期は比較的短いですね。
――4ナンバーサイズの軽のシェアは?
渡辺 現在、日本国内の軽自動車のシェアは約40%で、まさに国民車です。そんな軽自動車の約25%をバンやトラックなどの4ナンバーの軽商用車が占めています。さらに言うと、国内で販売される商用車の54%は軽商用車が占めている。日本の物流を支える上で軽商用車は欠かせない存在になっていますね。
――では、軽商用車はメーカーにとってドル箱的な存在?
渡辺 実は、軽商用車は5ナンバーの軽乗用車以上に薄利多売です。ですから、メーカーや販売会社が受け取る1台当たりの利益も少ない。そのため、フルモデルチェンジも軽乗用車のように頻繁に行なうことはできません。大半の車種が最低でも10年間はモデルチェンジしないんですよ。
――ズバリ、4ナンバー軽は即買いOKですか?
渡辺 そこは冷静に吟味したほうがいいですね。というのも、軽乗用車とは税金を含め異なる点が多々あるんです。
――メリットとデメリットがあると?
渡辺 はい。まず挙げられるのは車検です。軽乗用車は購入して最初に受ける車検は3年後ですが、軽商用車は2年後なんです。
――それはなぜ?
渡辺 そもそも商用車ですから距離も走るし、タフな使われ方が想定される。そのため2年車検になっています。
――ふむふむ。
渡辺 また、一概には言えませんが、保険会社によっては商用車のため、任意保険の内容が異なります。具体的には、年齢条件や家族限定といった割引の仕組みが異なり、軽乗用車に比べ、任意保険料が高くなる場合もあります。
仮に軽乗用車のスペーシアから軽商用車のスペーシアベースに乗り替えると、任意保険料が高まる可能性もあるので、そこは注意が必要です。
――ほかに留意点は?
渡辺 軽商用車では、後席の面積よりも荷室を広く確保しなければなりません。そのため、軽商用車の後部座席は、軽乗用車に比べて狭いです。その代わり後席を床下に収納すれば、軽乗用車では考えられない巨大な空間が誕生し、車中泊やリモートワークも可能になります。
――税金面はどうです?
渡辺 軽乗用車の軽自動車税は、年額1万800円です。一方、4ナンバーの軽商用車は、半額以下の5000円。自動車税は1年に1回の支払いとなるため、毎年5800円を節約できる。ちなみに小型乗用車の場合、総排気量が1L以下であれば、自動車税は2万5000円です。そこから排気量により段階的に金額が増える仕組みになっています。
――なるほど。
渡辺 軽商用車の場合、重い荷物を積めるメリットと引き換えに、正直に言うと乗り心地はあまりよくありません。前述のとおり後席も狭い。購入時にはそこを入念に確認してください。ただ、2名以内で乗車するなら特に不満はないのも確かです。特にスペーシアベースは商用車独特の安っぽさがありませんからね。
――ほかに購入する際の注意点は?
渡辺 繰り返しになりますが、商用車規格は、後席よりも荷室の面積が広くないとダメです。当然、後席の足元空間は狭いですし、快適な乗り心地に関しては軽乗用車の圧勝です。購入の際はできれば軽乗用車としっかり比較検討してほしいですね。
■まだまだあるぞ! 注目の4ナンバー軽
――なぜスペーシアベースはこんなにも注目を集めているんですか?
渡辺 スペーシアベースの前席は、軽乗用車のスペーシアと基本的に同じなので、運転感覚はなじみやすい。加えて、装備が充実していることも特徴です。さらにスペーシアベースには、軽商用車で初採用の装備が多い。まずサイドエアバッグや2列目シートのロールサンシェードを全グレードに標準装着しています。
――ほかには?
渡辺 スズキが誇る軽商用車のエブリイにも採用されていない装備としては、キーレスプッシュスタート、エアコンのフルオート機能、運転姿勢を調節しやすいチルトステアリングと運転席シートリフターなどが挙げられます。
――つまり、軽商用車とは思えぬ装備が与えられていると。走りはどうですか?
渡辺 軽乗用車からエブリイに乗り替えると、運転感覚や装備に違和感を抱くこともありますが、スペーシアベースは前席が軽乗用車、後席と荷室はエブリイのような軽商用車に準じた造りなので、これまでの軽商用車では得られなかったなじみやすさと、便利な使い勝手を両立させています。そこが話題になっている最大の理由かと。
――スズキのスペーシアベースのほかにも魅力的な4ナンバーサイズの軽はある?
渡辺 昨年12月に"第三の居場所。"というキャッチコピーでフルモデルチェンジしたダイハツのアトレーは、注目の一台です。以前は軽乗用車のワゴン版でしたが、新型は軽商用車に変わり、ハイゼットカーゴの上級シリーズになりました。最大積載量も350㎏を確保しています。発売翌月には月販目標の8倍になる約8000台を受注しました。
――なぜ軽乗用から軽商用に?
渡辺 先代のアトレーはワゴンでしたが、90%のユーザーは後席を畳んで荷室として使っていたそうです。そこで新型は、最大積載量を350㎏として表示できる4ナンバーサイズの軽商用車に変更しました。そのため人気沸騰で品薄状態が続いています。
――ホンダのN-VANも4ナンバー車ですよね?
渡辺 そう。外観からもわかるように"シン・国民車"のN-BOXをベースに開発されています。N-VANは助手席もコンパクトに格納できます。つまり運転席以外はすべて平らな荷室として使えます。
助手席と後席をすべて格納したときの荷室長は、運転席の部分を除くと、2635㎜にも達します。幅が狭くて長い丸巻きのカーペットのような荷物を積むのが得意です。
――最後に4ナンバーサイズの軽を総括すると?
渡辺 メリットとデメリットがあるので、くどいようですが、購入時は軽乗用車とも比較してほしいですね。
●渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう)
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務める。「読者の皆さまに損をさせない!」がモットー。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員