今年8月にフルモデルチェンジしたトヨタのコンパクトミニバン「シエンタ」の販売がすこぶる好調なのだという。では、その好調な受注を支えている要因はなんなのか? 弱点は一切ないのか? 販売の最前線や自動車専門家に話を聞いた。
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■使い勝手を徹底的に研究し具現化
3代目が飛ぶように売れている!
2003年にデビューしたトヨタ自慢のコンパクトミニバンが、7年ぶりにフルモデルチェンジし、3代目に生まれ変わった。ちなみに2015年に登場した先代モデルは毎月安定した台数を売り、常に新車販売ランキング上位に食い込む人気ぶり。
それもあり3代目の月販目標台数は8300台と強気だが、受注開始から約1ヵ月で2万4000台以上を記録したというから鬼すぎる。
東京都内にあるトヨタのディーラー関係者もホクホク顔でこう語る。
「おかげさまで予約段階から非常に多くのご注文をいただいております。新型の魅力はやはり5ナンバーサイズのコンパクトなボディ、両側スライドドア、3列シート(2列シート仕様も設定)を備えている点でしょうね」
乗車定員は全グレードで3列7人乗りと2列5人乗りを設定している。ちなみに価格差は約4万円で、7人乗りの価格のほうが高くなる。いったいどんなユーザーが商談に来ているのか?
「先代同様、子育て世代が多く、シエンタからシエンタへの乗り換えが目立ちます。一方、新規でシエンタの購入を検討してくださるお客さまも増えています。あくまで現場の肌感覚ですが、先代モデルより売れる気がしますね」
気になるのはその実力。実際のところはどうなのか?
「走りの良さや質感の点ではハイブリッドがオススメですが、ガソリン車も悪くありませんよ」
そう語るのは3代目を公道試乗したモータージャーナリストの竹花寿実氏。まず推しポイントを挙げてもらった。
「先代と変わらない5ナンバーサイズにこだわったことが、取り回し性の高さ、扱いやすさに効いていますね。
もうひとつ優れていると感じたのは、牛乳パックも収まるカップホルダーをはじめ、車内のあらゆるところに用意された収納や小物入れの数々。日本のファミリーカーに求められる使い勝手を徹底的に研究し、具現化していると思います」
確かに痒(かゆ)いところに手が届く装備である。では、3代目に弱点は一切ないのか?
「気になるのは3列目の狭さです。これは全長が短いので仕方のないところですが、身長175㎝の私は、正直言って10分以上座りたくない(笑)。子供用か、あるいはエマージェンシーシートと割り切ったほうがいいでしょうね」
今回、複数のディーラーに話を聞いたが、注文が殺到しており納車は最長で半年以上先という声が多かった。好調なセールスの背景について竹花氏はこう分析する。
「一部海外の市場でも販売されますが、日本市場専用モデルとして、徹底的に日本のユーザーの使い勝手や利便性を突き詰めた点と、195万円スタートの手頃な価格設定が、新型シエンタが売れている最大の理由かなと。
何せ、ちょっといい軽自動車だと200万円を超えてしまう時代に、3列7人乗りで200万円を切る価格のお買い得感はすさまじいものがありますよ」
ちなみにネット界隈(かいわい)では「3代目フィアット・パンダに似てね?」なんて声も飛んでいるが、輸入車に精通する竹花氏は一笑に付す。
「実車を目にすればまったく異なるクルマです。確かにデザインには賛否両論があります。ただ、新型シエンタのデザインは、基本的にはいたって控えめ。
トヨタが誇るミニバンのノア/ヴォクシー、アルファード/ヴェルファイアのような、押し出しの強さは一切ありません。そこが逆にどんなシーンでも使える利便性を生んでいますよね。正直、周囲の目を気にする日本人には、このアンダーステイトメントなイメージがウケている理由のひとつかもしれません」