Moto2で最終戦までタイトル争いを繰り広げた日本人ライダー小椋 藍(おぐら・あい)が、11月27日に開催されたホンダのファンイベントに登場。そこで、モーターサイクルジャーナリストの青木タカオ氏が直撃した!
■ランキング2位で終えた参戦2年目
世界の大舞台で激熱バトルを繰り広げる21歳の若き日本人ライダー・小椋 藍(おぐら・あい/イデミツ・ホンダ・チーム・アジア)に話を聞いた。
先に断っておくが、アオキはロードレース出身のジャーナリストでも、全レースを追うレースリポーターでもない。MotoGPマニアのモーターサイクルジャーナリストだ。逆に言うと、だからこそ、小椋に聞きたいことがある。
今年9月、小椋は3年ぶりに日本で開催された二輪車ロードレースの最高峰「MotoGP」のMoto2クラスで優勝を決めた。06年に250㏄クラスを制した青山博一(ひろし)以来、16年ぶりの快挙である。
その勢いのまま、王座戴冠まであと一歩のところまで迫った。だが、年間チャンピオンの座は小椋のその手からスルリとこぼれ落ちてしまった。
ターニングポイントは今年10月に開催された第19戦マレーシア。残りわずか半周、無理をせず、そのまま順位をキープしていればチャンピオン獲得の可能性は大いに高まっていた。しかし、小椋は最後の最後まで果敢に攻め続けた。結果、転倒。ノーポイントに終わる。なぜ小椋は攻め続けたのか?
だが、その質問の前に、まず今年のレースを振り返る。そもそも小椋がフル参戦するのは、排気量765㏄の4ストローク3気筒エンジンを積むマシンで競われるMoto2クラス。
今季は史上最多となる20戦が繰り広げられ、母国開催となった第16戦日本GPからひときわ熱気を帯びた。それは小椋が予選13番手から決勝に挑み、大逆転の優勝をやってのけたからだ。
第18戦オーストラリアでは、路面のコンディションが不安定だったこともあり、出走した29台のうち11台がリタイアする波乱の展開に。小椋はこう述懐する。
「レースを完走しようと、ただひたすらバイクに乗り続けることだけに集中しました」
サバイバルを勝ち抜き見事11位でゴールした彼は、ついにポイントランキングトップに躍り出た。
残りは2戦。わずか3.5ポイント差での熾烈(しれつ)なチャンピオン争いに突入した。第19戦マレーシアではライバルのアウグスト・フェルナンデスが出遅れ、小椋はトニー・アルボリーノとのトップ争いを繰り広げる。
最終ラップ、2位でも首位をキープできる。あとコース半周、「そのまま!」と誰もが思った瞬間、小椋はコーナーの入り口でアルボリーノのインに飛び込む。トップへ浮上したのもつかの間、直後に転倒し、リタイアに終わった。
「2位でゴールしても、十分なアドバンテージではないと考えたので優勝を目指しました。今日起きたことはもう過去のことです。次戦に焦点を合わせ、ベストを尽くします」
レース後、キッパリと前を向いた小椋だったが......。
11月6日、迎えた最終バレンシア戦。8周目に転倒を喫した彼は無念のリタイア。チャンピオンという頂点に向け突っ走ったMoto2参戦2年目のランキングは、2位で幕を閉じた。
■Moto2残留の理由とは?
ホンダが栃木県茂木(もてぎ)町のサーキットで行なったファンイベントには、若きスターをひと目見ようとファンが殺到した。小椋はサインや写真撮影を求めるファンに神対応、さらにデモ走行やカートレースなどのプログラムまでこなした。現場を飛び回る小椋に「大変では?」と聞くと、彼は少しだけ表情を崩し、「うれしいです」と答えた。
そんなイベントの合間にインタビューをした。アオキは小椋に今シーズンのアレコレを聞いた上で、「今年は惜しかった」とマレーシア戦について踏み込んだ。彼はこちらの意図を瞬時に把握し、静かにこう振り返った。
「自分の責任でしかありません。レースをしていて、前に人がいたら抜こうとするのはライダーとして当然です。ただ、そのときの状況だったり、何を一番に優先するかっていうところでいろいろとありますが......自分は優勝を目指しました」
つまり、小椋は常人では計り知れない、非常に高いレベルでの勝利を目指していたのだ。意識高い系にも程がある。
「もちろん、『攻めきった』とか『カッコよかった』と言われるかもしれませんが、自分のミスに変わりはなく、そこは失敗だったと思っています。でも、最終戦で逆転し、チャンピオンを手にしていたら失敗ではなかったわけです。すべては結果次第ですよね」
もうひとつアオキが聞きたかったことがある。小椋は最高峰のMotoGPクラスに参戦する実力を持つ。実際、ステップアップのオファーもあったらしいが、それには目もくれず、シーズン終了前の早い段階でMoto2への残留を決意していたという。なぜ彼は最高峰の舞台に手を延ばさなかったのか?
「まだ、学ばなければならないことがたくさんあるので」
21歳の若武者は、着実に経験を積み重ねることを選んだ。最高峰の舞台で圧倒的な輝きを放つには、自分の腕をさらに磨き込む必要があると、今シーズンの熾烈なバトルから学んだのだろう。
小椋が迎える3度目のMoto2のシーズンは、2023年3月、ポルトガルからスタートする。14年ぶりとなる日本人ライダーの王座戴冠を信じ、アオキは来シーズンも小椋藍のストーキング取材を続ける!
●青木タカオ
モーターサイクルジャーナリスト。著書に『図解入門 よくわかる最新バイクの基本と仕組み[第4版]』(秀和システム)など。『ウィズハーレー』(内外出版社)編集長。YouTubeチャンネル『バイクライター青木タカオ【~取材現場から】』を運営