12月14日、タイの首都バンコクで開いた「トヨタ・モーター・タイランド」(タイトヨタ)の設立60周年の記念式典でスピーチした豊田社長 12月14日、タイの首都バンコクで開いた「トヨタ・モーター・タイランド」(タイトヨタ)の設立60周年の記念式典でスピーチした豊田社長
トヨタ自動車の豊田章男社長(66)をタイで独占インタビュー。聞き手は豊田社長を長年ストーキング取材する自動車研究家の山本シンヤ氏。ほかでは決して読めない豊田社長の本音トークが炸裂!!

――豊田社長は常日頃からカーボンニュートラルに関して、「敵は炭素、内燃機関ではない」と語り、実際に行動も行なっています。そのひとつが水素エンジンで、2年前から日本のスーパー耐久シリーズに参戦を行ないながら開発を進めています。

豊田 水素エンジンの話をするとすぐに「トヨタはBEV(電気自動車)に否定的」と言われてしまいますが、「トヨタは正解がわからないから選択肢の幅を広げることが大事」と言っているだけなんです。

――国によってエネルギー事情も電源事情も異なるので、解決策はひとつではないと?

豊田 そうです。選択肢を絞ると「移動の自由」ができない人が出てしまいます。そのような人たちを見捨てていいのか? トヨタはそんなことはしません。ビジョンを語るのもいいですが、まずは現実的になろうよ......と。

――先日、静岡県湖西市で社長と一緒に中学生にカーボンニュートラルの授業を行ないましたが、その後SNSでBEV好きの方に「あいつ(山本シンヤ氏)は中学生にウソをバラまいている」と書かれ、ヘコみました。そりゃないよって......。

豊田 あのね、私なんてそれしょっちゅうです(笑)。SNSは内容が正しい、正しくないではなく豊田章男の悪口で飛びつきますからね。でも、私だって人間だから傷つきますよ......。

――ただ、豊田社長の意志ある情熱と行動に対して共感しているサイレントマジョリティーも確実に増えています。

豊田 非常にありがたいですが、サイレントではなく声もシッカリ出してほしいです(笑)。社内でも「僕の所作で感じたことは、周りにも言ってください」と伝えています。

週プレNEWSの独占インタビューに答える豊田社長。聞き手は長年粘着取材を続ける自動車研究家の山本シンヤ氏 週プレNEWSの独占インタビューに答える豊田社長。聞き手は長年粘着取材を続ける自動車研究家の山本シンヤ氏
――話を戻します。水素エンジンの取り組みは海を越え、8月にヨーロッパ(ベルギー)、そして今回はアジア(タイ)でお披露目をしました。さらに今回はタイで農業・食料品などを主力事業とする大手財閥「チャローン・ポーカパン・グループ(CP)」とカーボンニュートラル実現に向けた提携も発表されました。日本ではピンと来ていない人も多いようですが、タイではこのタッグが大ニュースになっていました。

豊田 タイ人に「CPってスゴい?」と聞くと全ての人が「YES」と答えるくらいの事業体です。普通ならCPが自動車メーカーと一緒に会見をやるなど考えられないし、それ以前にトヨタだけでは到底できないことですね。

――そもそも、今回の提携に至った背景にはなにがあったんでしょうか?

豊田 それは単純明快で「国のためにやる」、「今すぐできることをやる」という考えが一致したことです。CPのタニン上級会長との話は3時間以上続き、いろいろな質問を受けましたが、私の答えから「嘘をつかない」「逃げない」「ごまかさない」ことを理解してくれました。そして、最後にタニン上級会長から「あなたは間違いを正す人だから」と言われたときに、信頼して下さったと感じました。

――提携まで動きが始まったのは約2か月前、タニン上級会長との話合いに関しては発表の2日前と聞きました。一般的な企業の提携では長い時間を要しますが、普通ではありえない時間軸で物事が動いたわけですね?

豊田 もはや会社と言うよりも個人技ですね。恐らく、タニン上級会長はその時間で豊田章男の"品定め"をしたと思っています。つまり、今回の提携は人と人の信頼関係によるものが大きいです。

――CPとの提携内容はエネルギーを「つくる」、「はこぶ」、「つかう」というプロセスの一気通貫です。具体的には1、家畜の糞尿から生まれるバイオガスを活用した水素製造、2、上記の水素を活用した配送トラックのFCEV(燃料電池車)化、3、コネクティッド技術を活用した最適配送ルート提案等による物流効率化の4つが挙げられました。

豊田 これは大枠ですね。トップが具体的なことまで言ってしまうと、実務に落とした時に「これっていいよね?」に発展しません。

――社長が「もっといいクルマをつくろう」と言っているのと全く同じですね?

豊田 そのとおりです。私は常に「本当にこの国をどうしたいのか?」を考えて行動しています。日本はカーボンニュートラルの規制を作って見込みの発表をした時点で、「あんた凄い、あんた悪い」と言い合いばかりです。

トヨタは12月17~18日にタイで開催された25時間耐久レースに水素エンジン車で出場。豊田社長も交代で運転するドライバーの一員となり話題を呼んだ トヨタは12月17~18日にタイで開催された25時間耐久レースに水素エンジン車で出場。豊田社長も交代で運転するドライバーの一員となり話題を呼んだ
――タイ政府もBEVを推進していますが、充電インフラの整備やBEVの割高な価格面などもあり普及のハードルは高いと思います。

豊田 だから、今回、タイでやろうとしているのは「今できること」です。CPは直営でセブンイレブンを1万2000店舗持っていますが、配送トラックのFCEV化でCO2排出量が年間15%下がると言う試算があります。これはトヨタが福島県で「未来のまちづくりに向けた水素の社会実装」を長年やってきたから言えることなんです。

――これまでやってきた"ファクト"があるからハッキリ言えるわけですね?

豊田 そうです。タイの副首相には「COP27からCOP28までに『タイはこのような取り組みを行なったことで、1年でこんなに変わった』というデータを提供します」と伝えました。そういう動きは日本よりも格段に速いです。

――日本のカーボンニュートラルに対する取り組みというのは、「自分が良ければ後は知らない......」という感じが強いですよね?

豊田 そうなんです。だから、私は「確かにあなたはいいけど、前工程と後工程はどうなの?」と言いたいし、トヨタは、「お金持ちとインフラ投資できる国だけを相手にしてください」と言われたらやりません。なぜなら、トヨタはグローバルのフルラインナップメーカーであり、「すべての人に移動の自由」を提供すると掲げているからです。世の中に切り捨てていい人などひとりもいません。

――ええ。

豊田 私は常に子供たちの未来も考えて行動していますが、それでも結局、「創業家生まれの大企業のボンボン社長だ。悪いやつに違いない」と言われてしまう。仕事が成功すればトヨタの手柄。失敗すればすべて私のせい......。もはや年齢的にも誰も私をホメてくれず、けっこう悲しい(苦笑)。そんななか、今回CPとの提携でタイの多くの人に「トヨタありがとう」と言われて報われた感はあります。

――CPとの提携はタイトヨタ60周年記念式典で発表されましたが、そのときのスピーチは日本の皆さんにも見ていただきたいです。

豊田 自分で言うのもアレですが、タイで"日本"という国のファンをかなり増やしたのではないかな......と。内容は異なりますが、これも国際交流のひとつだと思っています。

――さらにタイではレース(チャーン・インターナショナル・サーキットで開催された「IDEMITSU 1500 SUPER ENDURANCE 2022」)にドライバーとして参戦もしました。66歳とは思えないほどパワフルですね。

豊田 パワフルで片付けてないで「本当によくやりますね」と言ってほしい(笑)。トヨタとはその土地で一番必要とされる企業になりたいし、そこでできる限り貢献したい。私の気持ちはアジアに相当移っていますので、逆に「日本大丈夫!?」と言いたいですね。

――えっ、それどういうことです?

豊田 日本はなにをするにも、規制、規制でできない理由ばかりを言われます。さらに雇用を作っても投資をしても無反応......。私は相当な「ジャパンラブ」だと自負していますが、そんな私がこんなことを言っているということが問題だと思ってください。今、企業も人間も地球環境の未来をどうすべきか真剣に考え、行動を変えるタイミングです。そして、人類がお互いに「ありがとう」と言い合える関係が強く求められていると思います。

●山本シンヤ
自動車研究家。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ワールド・カー・アワード選考委員。YouTubeチャンネル『自動車研究家 山本シンヤの「現地現物」』を運営