"びんびん"とは、男心を刺激するにも程がある愛すべきバイクのこと。今年、各バイクメーカーから放出された魅惑のマシンの中から、7台の受賞車を勝手に決定。選考委員長は取材の鬼・青木タカオ氏だ!!
* * *
■ダックス125が鬼売れしたワケ
――委員長、今年の顔となるバイクはどれですか?
青木 1位は、近年のバイクブームを支えているカテゴリーのひとつである原付二種から選びました。ズバリ、ホンダのダックス125です。9月に発売すると、わずか2ヵ月で年間の計画台数8000台に達して完売! まさにミラクル大ヒットです。
――スゲー。鬼売れの理由は、その愛くるしい見た目?
青木 加えてクラッチ操作不要のイージーさがありながら、107㎏しかない軽い車体に積む125㏄エンジンは街乗りで多用する低中速が力強い。カワイイだけでなく、野性味も備えているんです。
――昔から人気車だった?
青木 祖先は1969年に発売されたダックスホンダです。文字どおりダックスフントをイメージした胴長フォルムで、50㏄のペットバイクとして人気を博しました。今回、ホンダの開発陣は先代のスタイルをそのまんま復活させるべく、設計にとことんこだわりました。
――具体的に言うと?
青木 ダックスのキモとなるT字形のスチール製モノコックフレームを忠実に再現するため、あえて鋼板を型抜きし、モナカ合わせにするという手間とコストがかかるプレスフレーム工法を採用しました。
正直、パイプフレームに樹脂製カバーをすれば低コストになるものの、開発チーム全員が、「そんなのダックスじゃない!」と本物の味にこだわり抜きました。その結果、滑らかに丸みを帯び、誰もがその膨らみを感じる見事な造形美を達成!
――ほおほお。
青木 ただ、スッキリした昔ながらのスタイルを現代のバイクで再現するのは非常に難しい。というのも、現代のバイクには複雑な電子部品が数多くあるからです。
――開発陣はどう対処した?
青木 フレーム内にABS(アンチロックブレーキシステム)など複雑に増えた電子部品を効率よく収め、燃料タンクとバッテリーの前後配置を逆にするなど工夫を凝らしました。
――ふむふむ。
青木 さらに言うと、まっ平らなロングシートで乗車姿勢にゆとりがあり、ふたり乗りもしやすい。ダックス125は完成度が高く、近年まれに見る傑作マシンですね。
――続いて2位は?
青木 カワサキの至宝であるZシリーズのデビューから半世紀を経て発売された限定車、Z650RS 50thアニバーサリーに採用されたファイヤーボールカラー、通称〝火の玉タンク〟しかありません!
実はこの火の玉タンク、カワサキが海外進出で大成功を収める立役者となった72年の900スーパー4(Z1)のシンボルカラーでした。そういう歴史的背景もファンの心にブッ刺さったようで、発表と同時に予約が殺到! あまりの数に抽選販売となり大きな話題を呼びました。
――走りはどうです?
青木 アクセル操作に対しスムーズなパワーデリバリーで、操作性に優れています。低回転から心地よい加速感があり、ビッグバイク初心者はもちろん、1000㏄超えの大排気量車に乗ってきたベテランにも推せます。
――それでは3位を!
青木 ホワイトにブルーのラインが入ったヤマハのXSR700は、〝ナナハンキラー〟と呼ばれたRZ350(81年)のカラーを再現したもの。パラレルツインを心臓部に、〝ハンドリングのヤマハ〟らしく軽快な旋回性が楽しめ、走りはとてつもなくスポーティです。
にもかかわらず、前傾せず堂々と乗れるのは当時のノンカウル車に乗っているような気分。コーナーが待ち遠しくなる一台なんですよぉぉぉ!
■ハーレーにモトクロスも登場
――そして4位は?
青木 スズキが世界に誇る怪物フラッグシップ、ハヤブサは外せません。時速300キロという、規格外の最高速で99年にデビューした初代から熟成と進化を重ね、現行モデルは3代目です。最新の2022年型はアクセントカラーに新色の黒が加わり、迫力満点の〝クロブサ〟誕生です。
――5位はどれ?
青木 今年、厳格化した環境規制の影響で日本のスタンダードともいわれた〝ヨンフォア〟ことCB400スーパーフォアが惜しまれつつも生産終了となりましたが、その長兄であるホンダ自慢のCB1300スーパーフォアは健在。
しかも、今年は初代誕生から30周年の節目で、それを記念して登場した30thアニバーサリーはチョー注目車です。
――6位をお願いします。
青木 ハーレーがまたヒット作を出しました。ローライダーSTです。注目はフェアリングで、80年代のFXRTスポーツグライドをオマージュしつつ、日本人デザイナーが形状を決めました。アオキも日本上陸後すぐに高速道路を走りましたが、見た目以上に整流効果があり、快適にクルージングができます。
エンジンは伝統の空冷Vツインで排気量は1923㏄と超ド級。アメリカンマッスルカーのような極太トルクで、グイグイ加速するので痛快です。
――7位をどうぞ。
青木 ヤマハのモトクロッサーYZ450Fはフルチェンでシャシーを全面刷新。シュラウド(燃料タンク横の外装パーツ)の左右幅を従来比で50㎜狭め、250㏄クラス並みに細身でフィット感に優れる車体を手に入れました。
また、競技専用車の鬼パワーもトラクションコントロールの新採用などで解消。新型の戦闘力は飛躍的に向上しています。
――最後まで選考に迷ったマシンもあるとか?
青木 すでに実車を見て触って、エンジン音も聞いていますが、新作すぎてまだ試乗ができていないホンダのCL250です。
60年代に人気を誇ったスクランブラーCL72の再来ともいえるもので、ダートを走るためのアップマフラーやインナーチューブを守るフォークブーツを備えています。ベース車両は絶賛バカ売れ中のレブル250で、アオキはそれに匹敵する爆売れを予想!
――それでは委員長、今年のバイク業界の総括と来年の展望をお願いします。
青木 22年も秀逸なモデルが出そろいましたが、年が明ければすぐにまた春のモーターサイクルショーに向け、ニューモデルラッシュが待っています。23年もバイク業界はびんびんですよぉぉぉ!
●青木タカオ
モーターサイクルジャーナリスト。著書に『図解入門 よくわかる最新バイクの基本と仕組み[第4版]』(秀和システム)など。『ウィズハーレー』(内外出版社)編集長。YouTubeチャンネル『バイクライター青木タカオ【~取材現場から】』を運営