テスラに次ぐ世界シェアナンバー2のEVメーカー、BYDが今年、日本に本格上陸する。すでに世界各地で販売を始めているフル電動SUV「ATTO 3」の実力は? 1月31日の日本発売を控えた今、BYDオートジャパンの東福寺厚樹(とうふくじ・あつき)社長を直撃し、ATTO 3を徹底解剖する!!
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■満を持しての日本参入!
日本初の正規輸入中国車の第1弾は、BYD随一の世界戦略車となる「ATTO 3(アットスリー)」。それは日産アリアやトヨタbZ4X/スバル・ソルテラに似たSUVタイプのピュア電気自動車(EV)だ。
2WDモデル同士で比べると、ATTO 3の一充電航続距離485㎞は、アリアの470㎞とbZ4X/ソルテラの559㎞(いずれもWLTCモード)の間に位置する。本体価格は440万円で、アリアB6より99万円、ソルテラより154万円安い。
しかも、「ATTO 3はフル装備です。オプションも特にありません」と語るのは、「BYDオートジャパン」の東福寺厚樹社長。なるほど、ATTO 3の割安感は際立っている。
BYDがバッテリーメーカーとして1995年に中国・深圳(シンセン)で創業し、自動車事業に参入したのは2003年のこと。当初はトヨタ・カローラなどに似せた〝ソックリカー〟で話題になったが、その後に急成長。今ではEVのほか、ITや新エネルギー、モノレールを展開するグローバル企業だ。
BYDは中国トップのEVとプラグインハイブリッド車(PHEV)メーカーでもある。それだけではない。イギリスの自動車産業情報プラットフォーム、マークラインズの調査によると、22年7月には、EVとPHEVを合わせた「充電タイプの電動車両」の月間販売でも、BYDは世界トップに立ったという。
もっとも、世界の自動車販売におけるEV比率は現在2~4%なので、自動車産業全体でのBYDの地位はまだまだだ。しかし、今後EVが世界の主力になったあかつきには、BYDの地位が爆上がりするのは間違いない。
東福寺社長によると、BYDは一昨年から海外に幅広く展開し始めたという。21年にはEV先進国ノルウェーでの限定販売をスタートして、翌22年春にはオーストラリア、同年11月にはタイでATTO 3を発売。
さらに、EV最前線のヨーロッパでも、前出のノルウェーに加えてベルギー、オランダ、イギリスなどでEV販売を始めている。
今回の日本参入も、そんなBYDの壮大なグローバル戦略の一環なのだ。ただ、BYDは今回いきなり日本にやって来たわけではない。
「BYD自体は05年から日本での事業を開始しています。当初はPCや携帯電話用バッテリーが主要商品でしたが、15年からはEVバスも輸入販売しています。路線バスや観光バス、上野動物園や長崎ハウステンボス内の巡回バスなど、日本全国で75台のEVバスが稼働中です。
また、以前からミニバンやタクシーのEVを試験的に導入して、一部の企業に使っていただいています。そこで実際の使い心地や日本の急速充電規格であるチャデモ(CHAdeMO)への対応などをテストしてきました」(東福寺社長)
BYDによる乗用EVの日本参入は、実はこれほど満を持したものなのである。BYDが日本市場にいかに本気かは、今後の販売ネットワークの計画からもよくわかる。
「目標としては25年末までに100店舗超の展開を考えています。47都道府県すべてに少なくとも1ヵ所はBYD店舗を置きたいと考えています」(東福寺社長)
日本でEVを発売した韓国のヒョンデがネット販売に特化しているのとは対照的だが、日本市場への投資額が大きいのはもちろんBYDのほうである。
■「これって本当に中国車?」
ところで、東福寺社長は約30年間、三菱自動車に在籍した後、フォルクスワーゲン グループ ジャパンに入社して最後は子会社のフォルクスワーゲンジャパン販売の社長まで務めた。つまり、自動車ビジネスのプロ中のプロである。そんな東福寺社長の目に、最新のBYDのEVは率直にどう映ったのか......。
「まずはデキの良さに素直に驚きました。ボディのプレスラインの正確さや、専門用語で〝チリ〟というパネル合わせは、ドイツ車より精緻(せいち)なくらいでした。ディーラー候補の皆さんに試乗してもらっても『これって本当に中国車? 中国車はここまで来ちゃったの?』と口をそろえます」
取材班もATTO 3に試乗したが、質感や剛性感は同クラスの国産やヨーロッパのEVに引けを取っていないのはすぐにわかった。
乗り心地は柔らかめで市街地では本当に快適。高速では少し動きが大きいが、床下にバッテリーを積むEVは基本的に低重心なので、絶対的な安定性は高い。ATTO 3の足回りもそうしたEV特有の利点を見越して調律されていて、クルマ造りのレベルの高さには感心させられた。
■安全性や信頼性に絶対の自信!
中国車ということで、ぶっちゃけ安全性や信頼性の不安を持たれるのでは......という問いに、東福寺社長は「日本のお客さまは世界一厳しいですから」と認めつつも、絶対の自信を見せた。
「衝突安全性については世界屈指のユーロNCAPで5つ星を取れていますし、オーストラリアでも同様の認定をいただいています。
また、ATTO 3にはわれわれ独自の『ブレードバッテリー』が搭載されています。このバッテリーは最も厳しい釘(くぎ)刺しテストでも爆発や発火はしませんでした。劣化が少ないのも特徴で、ATTO 3のバッテリーは8年15万㎞時点でも、新車時の7割以上の容量を保証しています」
そのBYD独自のバッテリー最大の特徴は「リン酸鉄系」のリチウムイオン電池であることだ。現在のEVに使われるリチウムイオン電池には、正極にリン酸鉄を使うリン酸鉄系と、ニッケル、コバルト、マンガン酸リチウムを使う「三元系」がある。BYDは特に、リン酸鉄系を大得意としているのだ。
出力などの絶対的な性能は三元系リチウムイオン電池が高く、日本のEVはほぼすべて三元系を使う。対するリン酸鉄系は絶対性能では一歩譲るものの、コストが安く、安全性や耐久性も三元系より高いのがメリットだ。
最近はEVも表面的な性能競争から現実的な商品性の勝負になってきており、リン酸鉄系の注目度が高まっている。トヨタが22年秋に中国で発売した「bZ3」も、BYDのリン酸鉄系電池を積んでいるのだ。
「BYDはこうしたコア技術にものすごい人とお金を注ぎ込んでいます。EVの主要部分もほぼすべて自社開発・自社生産しています」と語る東福寺社長に、今後の目標を尋ねると「今はまだ準備段階ですが、これから徐々に進むであろうカーボンニュートラルに向けた商品選びで、そういえばBYDってあるよね、と想起していただける存在になることが第一」という答えが返ってきた。
BYD本体のすさまじい成長とグローバル戦略の勢いとは対照的に、日本ではあくまで謙虚に大風呂敷を広げない東福寺社長の態度に、逆に不気味なほどの本気を感じたのは週プレだけか。
トヨタ、日産、ホンダ、スズキ、スバル、マツダ、三菱、ダイハツの皆さ~ん、BYDは掛け値なしに強敵だ。EV分野に限れば、日本メーカーをすでにリードしている部分も多い。EV時代になると、日本でも家電やスマホ同様、ごく普通に中国車が買われるようになるかも。少なくとも週プレはすでに心が揺り動かされてしまっている......。