5代目プリウスの試乗会は「富士スピードウェイ(静岡県小山町)」のショートコースで行なわれた5代目プリウスの試乗会は「富士スピードウェイ(静岡県小山町)」のショートコースで行なわれた
昨年11月16日にトヨタ自動車が世界初公開した5代目プリウスの「激変」が世界的な話題となっている。その背景には何が? 昨年末に速攻試乗した自動車研究家の山本シンヤ氏が特濃解説する。

山本 世界累計505万台を誇るトヨタのプリウスの新型が登場しました。2015年以来7年ぶりの刷新で、今回のモデルで5代目となります。HEV(ハイブリッド)と今春発売予定のPHEV(プラグインハイブリッド)を用意しています。

――プリウスの初代はいつデビューでした?

山本 1997年に「21世紀に間に合いました」のキャッチコピーと共に登場。当時の1.5リッタークラスのガソリン車の燃費は14-15㎞/リッターでしたが、エンジンとモーターを併用することで何と約2倍となる28km/リッターという燃費を実現していました。

――そのインパクトは強烈で世界中に「ハイブリッド」という言葉を根付かせました。

山本 2003年に登場した2代目はアカデミー賞授賞式が行なわれる劇場のレッドカーペット前にレオナルド・ディカプリオが乗りつけて世界中が沸きましたよね。また、09年に登場の3代目はホンダ・インサイトとHEV論争を繰り広げ、15年に登場した4代目はトヨタ初のTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)採用して話題を呼びました。

――当初、HEVを搭載するトヨタのクルマはプリウスだけでしたが、現在は主力車種にHEVがあります。

山本 プリウスのデビューから25年、トヨタの主力車種にはHEVが用意され、結果、積み上げた累計販売は2030万台以上です。

プリウスのイメージを激変させた5代目の見た目。リアで目を引くのは一文字型コンビランププリウスのイメージを激変させた5代目の見た目。リアで目を引くのは一文字型コンビランプ
――スゲェー。それにしても5代目は見た目が激変しました。発表時、ネット上には「スーパーカーみたい」「近未来感ハンパねぇ!」「カッケー」という声が飛び交っていました。この激変の背景には何が?

山本 HEVが当たり前の存在となった今、トヨタの社内では「プリウスの役割が終わった」という声も多く、実はモデル廃止の案もあったと耳にしています。

――でも、無事継続されました。

山本 ただ、これにも紆余曲折があり、新型の方向性を決める際に豊田章男社長と開発陣で意見が真っ二つに分かれました。

豊田社長は「真のコモディティとなるタクシー専用車」であるべきと提案したのに対し、開発陣は「愛車として合理性だけでなくエモーショナルな体験を提供できるクルマ」であるべきだと。

この状況に豊田社長は開発陣を否定することなく、「このケンカ、面白いね」と告げて開発陣の案を採用しました。

――長年、豊田社長を密着取材する山本さんからすると、「タクシー専用車」という案をどう捉えました?

山本 私は豊田社長の提案というのは、「現在発売されているトヨタのジャパンTAXIが、本当にこのままでいいのか?」というエールにも聞こえましたけどね......。

――なるほど。で、開発陣は5代目をどんなクルマにしようと考えた?

山本 燃費がいいのは当たり前、それとは違った〝個性〟を盛り込みました。それは一目惚れする「デザイン」と、ドライバーを虜にする「走り」のふたつです。

メーターパネルは従来型と大きく異なりメーターバイザーはナシ。内装のコンセプトはアイランドアーキテクチャーメーターパネルは従来型と大きく異なりメーターバイザーはナシ。内装のコンセプトはアイランドアーキテクチャー
――それであのデザインなんですね。ちなみにパワーユニットは?

山本 HEVは1.8リッターと2リッターの2本立てですが、主力は2リッターです。2リッターは従来モデルに対して約1.6倍となる196馬力を発揮します。

PHEVは2リッターがベースですが、システム出力は223馬力、時速100キロ到達は6.7秒と実用車を超えてスポーティモデルの領域に足を踏み入れています。

シャシーは大きく進化を遂げた第2世代のTNGAプラットフォーム(GA‐C)が採用されています。タイヤは主要モデルに何と19インチ(!)が採用されています。

――気合十分ですね。試乗は?

山本 昨年末にHEVのプロトタイプに試乗しましたが、驚いたのは試乗場所です。何と富士スピードウェイ(静岡県小山町)のショートコースだったんです。これは開発陣の自信の表れだと解釈しました。

――ちなみに歴代プリウスでサーキット試乗会したモデルは?

山本 ありません。

――ズバリ、5代目の走りは?

山本 4代目はTNGA採用で走りの基本性能が底上げされましたが、それが一気に色褪せるくらいの激変ぶりです。パワートレインは「速い」と感じさせる力強さを備えていますし、ハンドリングはドライバーとクルマとの一体感やコントロール性は下手なスポーツカー顔負けのレベル。

パワートレインは1.8リッターと2リッターの2本立てとなる。写真は196馬力を発揮する2リッターのものパワートレインは1.8リッターと2リッターの2本立てとなる。写真は196馬力を発揮する2リッターのもの
――マジか!

山本 快適性も先代を大きく超えています。走りの総合力ではこのクラスの〝巨人〟と呼ばれるフォルクスワーゲンのゴルフと比べても負けていないと感じました。

正直言うと、これまで歴代のプリウスに乗って「走りが楽しい」と感じたことは一度たりともありませんでしたが、新型はその考えを改めようと思いましたね。

――新型クラウンと同じで、クルマ好きにも響くモデルになった?

山本 総じて言えば、「トヨタで一番つまらないモデル」が、「トヨタで一番おもしろいモデル」に生まれ変わった、それが私の素直な感想ですね。

――山本さん、5代目は売れますか?

山本 12代目カローラが新時代のスタンダードになったことで、プリウスは新時代のスペシャリティカーに生まれ変われたと思っています。売れない理由はありません。

ただし、自動車業界を悩ませる半導体問題もあり、販売台数はかなり絞られているのがもったいない。この問題を一刻も早く解決し、多くの人に乗ってもらいたい一台ですね。

山本シンヤ
自動車研究家。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ワールド・カー・アワード選考委員。YouTubeチャンネル『自動車研究家 山本シンヤの「現地現物」』を運営。