1月4日(現地時間)、米ラスベガスの家電見本市でソニーグループとホンダの合弁会社「ソニー・ホンダモビリティ」が新型EVを初公開し、話題を呼んだ。その全貌とは? カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう)氏が解説する。
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■1秒間に800兆回の演算が可能!
――3年ぶりに米・ラスベガスで開催されたCES(家電見本市)で大きな話題を呼んだEVがあるそうですが?
渡辺 ソニー・ホンダモビリティ(SHM)が協業第1弾となるEVを世界初公開しました。車名はアフィーラ。25年の前半に先行受注をスタートし、デリバリーは26年春に北米から開始。日本、欧州、アジア、中東の一部でも販売を計画しているそうです。
――ソニー・ホンダモビリティはいつ誕生した?
渡辺 両社は昨年10月13日にEVの開発と販売を行なう新会社「ソニー・ホンダモビリティ」を設立したと会見しました(設立は22年9月)。そこで、23年1月のCESでプロトタイプを披露し、25年から注文を受けつけることを発表しています。
――ほかにはどんな話が?
渡辺 最初に販売するEVは、〝高付加価値のEV〟にすると発表していましたね。要はハードウエアが中心だったクルマの構成要素を見直し、ソフトウエアやネットワークに力を入れるようです。この考えはソニーらしいなと。
――なるほど。初公開されたアフィーラを大解剖すると?
渡辺 アフィーラのボディサイズは全長4895㎜×全幅1900㎜×全高1460㎜で、駆動方式は前後にモーターを搭載する4WDです。このサイズを既存のホンダ車に当てはめると、アコードが近いですね(全長4900㎜×全幅1860㎜×全高1450㎜)。
まぁ、EVですからプラットフォームと前輪と後輪のサスペンションは新開発するでしょう。ちなみにタイヤはフロントが245/40R21、リアが275/35R21というスポーツカーに匹敵するサイズになっています。
――なぜそんなデカいタイヤを装着するんです?
渡辺 EVは大容量のバッテリーを積むので重量がかさみますし、モーター駆動特有の瞬発力に優れた動力性能に対応するためですね。
――ソニーっぽさはどこに?
渡辺 車内外合わせて45個のカメラやセンサーを用意しています。この数字は市販車ではかなり多い。さらにECU(エレクトロニック・コントロール・ユニット)の性能は、800TOPSと高い数字で、1秒間に800兆回の演算が可能とのこと。
自動運転レベル3を含めたADAS(先進運転支援システム)、ソニーのお家芸でもあるAVやゲームなどの車内エンターテインメントに対応するためかなと。
――これまでソニーはCESにVISION-Sという試作EVを出展していますが、アフィーラはその進化版?
渡辺 VISION-Sは、オーストリアの大手自動車サプライヤーであり、組み立てを請け負う受託製造会社「マグナ・シュタイヤー」が造りました。マグナはメルセデス・ベンツのGクラスやBMWのZ4などの組み立てを行なっています。
確かにソニーにとってVISION-Sはアフィーラの前身ですが、ホンダとの協業車ではありません。
――渡辺さんはソニーとホンダの協業をどう見ています?
渡辺 ホンダはあくまでバイクやクルマを造るメーカーです。言い換えると人間の命を預かる会社ですから、商品開発にも極めて慎重です。一方、ゲームやスマホを出すソニーは感動やエンタメを追求する会社です。今後、この企業文化というか、根本的な育ちの違いをどう乗り越えていくのかは見ものですね。
――アフィーラの販売方法はどうなりそう?
渡辺 ホンダの販売店に話を聞くと、おそらくオンラインになるとのこと。ただしクルマである以上は、ブレーキや足まわりのメンテナンスは重要ですし、部品の交換が必要なリコールが生じることもある。当たり前ですが、アフターサービスが行なえないと、クルマは売れない。
販売店も、「メンテナンスは最寄りのホンダカーズで受けることになる。これまでホンダは一生懸命にガソリンエンジンを開発し、販売店もそれに応えるサービスを提供してきました。その努力はEVにも生かしたい」と語っていました。
――ズバリ、アフィーラの価格を予想すると?
渡辺 アフィーラのボディサイズからライバルを想定すると、日産のアリア、スバルのソルテラ、ヒョンデのアイオニック5などが挙げられます。アリアの2WDが539万円、ソルテラはアフィーラと同様の4WDシステムを備えたモデルが638万円です。
アイオニック5の最も安価な2WDが479万円で、4WDの最上級グレードは589万円です。これらの価格を踏まえると、アフィーラのベーシックグレードが580万円、上級グレードは630万円くらいかなと。正直、補助金を差し引いて300万円ぐらいの価格なら売れると思いますが......。
――ちなみに今回のCESにはフォルクスワーゲンも新型のEVを出展し、世界的に注目を浴びていました。
渡辺 ID.7ですね。ただし、こちらはカムフラージュを施しての登場でした。
――どんなクルマ?
渡辺 IDシリーズ初のセダンになります。IDシリーズの最初のモデルはID.3で、残念ながら日本未導入ですが、20年9月にデリバリーを開始し、すでに累計50万台以上を売っています。
また、昨年末に日本上陸を果たしたID.4も、すでに世界で25万台以上を売り、21年のワールド・カー・オブ・ザ・イヤーを戴冠しています。
――ID.7はいつ頃出る?
渡辺 今年の春にワールドプレミアの予定です。ここで詳細が発表されます。現時点で日本導入は未定ですが、欧州、北米、中国の3大市場には投入予定です。今年注目のEVだと思います。
●渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう)
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務める。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員