今回、青木氏の直撃を受けたCB1000スーパーフォアの開発陣。写真左からデザイナーの岸 敏秋氏、LPL(開発責任者)の原 国隆氏、完成車まとめの工藤哲也氏。ちなみに岸氏の前にあるのが初代今回、青木氏の直撃を受けたCB1000スーパーフォアの開発陣。写真左からデザイナーの岸 敏秋氏、LPL(開発責任者)の原 国隆氏、完成車まとめの工藤哲也氏。ちなみに岸氏の前にあるのが初代

ホンダが誇るCBシリーズのフラッグシップが30周年を迎えた。そこで、モーターサイクルジャーナリストの青木タカオ氏が開発陣を直撃し、誕生秘話と超ロングセラーの理由に迫った。

* * *

■乗れるものなら乗ってみろ

「俺のバイクはデカい!」

そんな優越感に浸れるのが、ホンダを象徴する「CB」のフラッグシップモデル「CB1300スーパーフォア/スーパーボルドール」。

股ぐらに太くたくましい燃料タンクがあり、むき出しの水冷インライン4エンジンはアイドリングから高揚感のある重低音を響かせる。アクセルをワイドオープンすれば、直4らしく高回転までよどみなく吹け上がり、最高出力113PSを発揮する。

初代、CB1000スーパーフォアは〝プロジェクトBIG-1〟の名の下、92年11月に誕生した。文字どおり車体は大きく迫力があり、鮮烈なデビューを飾った。価格は92万円と決してお安くなかったが、翌93年には約4000台を販売して大ヒットを記録、一躍人気モデルとなる。

この日本を代表する大型バイクは白バイにも採用されている。そんなCBのフラッグシップは昨年30周年を迎えた。超ロングセラーはどういう経緯で誕生したのか? そこで今回、3人の生みの親に話を聞いた。口火を切ってくれたのはデザイナーの岸 敏秋氏。

「80年代の終わり頃、ホンダのラインナップはフルカウルを装備したCBRシリーズを頂点とした構成で、CBブランドを強烈に印象づけるようなスタンダードなビッグバイクはありませんでした。

しかも、後輩たちのバイク談議に耳を傾けると、あろうことか他社の逆輸入車の話ばかりで......。そんな現実に憤りを感じていたんですよね」

つまり、プロジェクトBIG-1は岸氏のモヤモヤが起点だった。実は88年に国内で販売する二輪車の上限排気量の自主規制が撤廃された。その関係で国内には大型バイクブームの波が押し寄せかけていたのだ。当然、バイク屋のホンダが黙って指をくわえているわけにはいかない。

岸氏は400㏄のCB-1の車体に輸出モデルCB1100Rの燃料タンクを載せたラフスケッチを描いた。当時のデザイン現場の責任者が、それを見て共感。ホンダ社内ではまだ非公式のプロジェクトだったが、岸氏はデザイン室でクレイモデル(粘土模型)を製作し、社内の機運を盛り上げた。

気がつけば賛同者はどんどん増えてゆく。その時点でホイールベースは1520㎜という当時ではありえないほどの大きなサイズだった。まさに天下無双のスタイルを実現したモデルであった。

デザイナーの岸氏が方眼紙に熱き思いをぶつけたラフスケッチ。CB1000はここから始まったデザイナーの岸氏が方眼紙に熱き思いをぶつけたラフスケッチ。CB1000はここから始まった

まだ開発チームが正式に組織化される前だったが、クレイモデル(粘土模型)を独自製作まだ開発チームが正式に組織化される前だったが、クレイモデル(粘土模型)を独自製作

しかし、思わぬ壁にぶち当たる。欧米での売り上げ台数が見込めないという営業的な判断を下されてしまう。

「でも、どうにかして世に送り出したかったんです」

岸氏はクレイモデルを廃棄せず、デザイン室の小部屋に隠し、黙々と手を入れ続けた。後にCB1000のLPL(開発責任者)を務めることになる原 国隆氏はそのクレイモデルを見て唸(うな)った。

「デカい。迫力がある!」

市販は却下されたが、ファンの反応を見るため、91年の東京モーターショーにコンセプトモデル「プロジェクトBIG-1」として参考出品した。原氏はこう述懐する。

「誰もがコンセプトモデルを食い入るように見つめるんです。68年にCB750フォアが初公開されたときと同じ反応でしたね。明らかにお客さまの目の色が違っていた」

ファンをくぎづけにした要因はなんだったのか?

「畏怖の念を感じながらも乗りこなしてやろうと思うことこそが、バイクに乗る喜びではないかと考えました。もう少し言うと、『乗れるものなら乗ってみろ』っていうくらいの存在感のある直列4気筒モデルがCBの魅力です」

当時、完成車のテストを担当し、後年、CB1300スーパーフォアを手がけることになる工藤哲也氏は、CB1000スーパーフォアに乗ったときの衝撃をこう語る。

「最初に見たとき、『こんなデカいの、どうするんだ?』と思いましたよ。でも、実際に走らせると、とてもトルクフルで、〝太い走り〟を感覚的に理解できました」

市販化されたCB1000は大人気モデルとなる。そして、96年には大型二輪免許の教習所取得が解禁されたことも追い風となり、空前のビッグバイクブームが巻き起こる。98年、ホンダは満を持してCB1000をCB1300へアップデートする。

排気量をアップしたその年、CB1300は販売計画を大きく上回る4600台を売り上げた。ちなみにこの数字はシリーズ最大の販売記録である。以降、ホンダはCB1300を磨き続け、不動の地位を築く。

そんなホンダの熱き魂が宿った名車に、排ガス規制の厳格化もあり、生産期限の足音が迫り始めた。30thアニバーサリーモデルの受注は残念ながら1月9日で締め切られたが、標準モデルならまだ手に入る。完熟したCBのフラッグシップが欲しいのなら、もう迷っている時間はない。

受注が締め切られた30周年記念モデルをチェックする青木氏。ちなみに価格は195万8000円受注が締め切られた30周年記念モデルをチェックする青木氏。ちなみに価格は195万8000円

●青木タカオ 
モーターサイクルジャーナリスト。著書に『図解入門 よくわかる最新バイクの基本と仕組み[第4版]』(秀和システム)など。『ウィズハーレー』(内外出版社)編集長。YouTubeチャンネル『バイクライター青木タカオ【~取材現場から】』を運営

★『インプレ!』は毎週水曜日更新!★